34.新武器「イチコロリ」
集中線にプラスして、ぱんぱかぱーん、というような効果音が聞こえた、とカナタは後に語った。
「これが改良版毒ボーガン、名付けて「イチコロリ」よ!」
「……前から思ってたんだが、ネーミングどうした?」
自信満々に新作武器を見せたところ、反応が微妙である。なんだか出鼻をくじかれた気分だ。
「なによぅ、ヘン?」
ジトーっとした視線を向けると即逸らされた。
「……いや、まぁ、あれだ。イエナの製作物はどれも凄いもんな」
「まだこれが凄いかはわからないけどね。試してみないと。一応説明するわね」
カナタが言葉を飲み込んだのをいいことに、そのまま説明フェーズに入る。
といっても、正直見たままだ。
「まず、毒針を製作できるようになりました! ついでにサイズも調整してより小さく、軽量化もはかったのがこちら」
「……レアドロップが製作されてる。これ、なんか、幸運スキルの意味が……」
「幸運スキルはこれからガンガン役に立ってもらうわよ。なんてったって、このイチコロリでたっくさん倒してもらう予定なんだから。んじゃ説明続けるわね。この手作り毒針をボウガンの矢にぐるっと10本つけてみたわ。中心の杭にも一応毒は塗ってあるけれど、針が刺さることによって相手に毒を注入できるようになってる……はず」
「この矢が全部命中すれば相手はほぼ即死だな。確率50%の10乗だろ? 1/1024だ」
「えっ……それはわかんない」
いきなり難しいことを言われて戸惑う。というか何を言ってるんだカナタは。あまり自慢ではないが、イエナはそこまで計算が得意だったわけではないのだ。
もし得意であれば町役場や商会の経理係なんかを目指していたかもしれない。
「薬品の調合とか、丈夫さの計算はできるのにこっちはダメか」
「えーだって全然別物じゃない。カナタこそなんでそんなスラッと出てくるのよ」
「慣れかなぁ。ゲーマー的に確率計算は結構やっちゃうものなんだよ。やっぱドロップ品期待値高い方が嬉しいだろ?」
げーまーがよくわからない単語ではあるが、要するに元の世界でよくやっていたことらしい。
「なら私も慣れよ。製作物に関する計算だもの。それより、ボウガンの説明続けるわね。正直、まだこの毒針が機能するかは未知数なの。一応計算上はできるはずなんだけどさ。実践しないとわからないってのは身に染みてるじゃない?」
カナタの知識、計算上ではできたことも、改良を加えなければ無理だったのはポイズンスライムで経験した通りだ。
このイチコロリだって、まだまだ計算上の産物である。
「それはホントに身に染みてる。改良できるイエナがいて助かってるよ。じゃあこれをベースに改善を重ねてく感じだな」
「そういうことになるんだけど……いいの?」
「何が?」
とても不思議そうに尋ね返されて、イエナの方が困惑する。
実を言うと、カナタにはもっと反対されると思っていたのだ。
「だってほら、10個使ったら威力10倍みたいな思い付きなんだけど」
そもそも、こんな改良で行けるのか、とか。
製作した本人もそれなりに不安があるのに、あっさりと承諾するカナタにちょっと不安になってしまう。
「まぁデメリットは確かにあるけど、それこそ改善を重ねれば無くなりそうだろ? っていうか、イエナそういう微調整すごい得意じゃん。水鉄砲の改良もすげー良かったし、最後には会心作作ってた」
「そりゃあ、まあ……」
カナタから使用感を聞き、より使い勝手が良いように改良するのは楽しかった。使い手の生の声が、即入ってくるという環境はとても嬉しい。職人冥利に尽きる。
それでも、イエナの心に何か影が差している。
(嬉しい、けど……私何にモヤモヤしてるんだろ)
作っている最中は自信満々だったのに、何故今になってしり込みしているのか自分でもよくわからない。
デメリットを承知のうえで、反対されたらこう説得しよう、とかも考えていたのに。
「大丈夫だよ。まず、この辺りのレベルが下の魔物狩るんだから、そんなに危険はないって」
カナタの励ますような言葉が耳に入り、そこでパッとモヤモヤの尻尾を掴んだ。
「そっか。私、カナタだけ危険な目に遭わせるのが……ううん、私だけ安全な場所にいるのがイヤなのかも」
イエナが装備品を作り、カナタと羊たちが戦ってレベルを上げる。
元々そういう約束だったし、納得していた。でも、いざカナタたちが戦う姿を目にしたときに、それでいいのか、と少し思ってしまったのだ。
勿論、ハウジンガーというジョブに戦闘適性がないのはわかっているけれど。
「えぇ? でもそれは戦う分野の違いじゃないか? イエナの武器がないと、今のところ俺は全然戦えてないし」
「装備の大事さとかはわかってるんだけど……うん、これは私のワガママなんだと思う。いつか、素材が使い切れないほど豊富に手に入ったら私専用の武器を作ってみるのもいいかもね」
その夢は、いつか叶えたいと思う。
ただ、それはいつかであって今じゃない。
戦闘適性がないジョブだって、戦ったっていい。そのために試行錯誤して自分専用の装備をゼロから作りあげるのだって楽しそうだ。
「んじゃあそのためにも俺はレベル上げて色んな魔物倒せるようにならないとな。戦えるハウジンガーってのもかっこいいじゃん」
「ふふ、レアドロップ期待してるわね。ってことで、改良のための実験戦闘頑張って!」
「まずはゲンたちに当てないように気を付けないとだよな……んー、とりあえず俺だけで戦ってみて、倒せないとかになったら2匹に入ってきてもらうか」
「もっふぃーたちに当たるのは絶対ダメだからね。一応、毒消し玉残ってるし、もっふぃーたちがすぐ口にできるようにしとく?」
そんな細々とした相談を終えた後、2人と2匹はルームから出て実験を始めることにした。
思っていたより毒の補充がこまめに必要だったり、と多少のトラブルは勿論発生した。しかし、その都度対処、改良を地道に積み重ねていく。
上手く倒せなかった場合は、もっふぃーとゲンが連携して魔物を倒す。格上の魔物相手だと通じない戦法だが、この辺りではそれで十分だった。
「……結構倒せたな。ドロップ品もエライことになった。ほぼカラだった俺のインベントリがパンパンだ」
今回は「イチコロリ」の改良を優先するため、ドロップ品は全く確認せずにどんどんカナタのインベントリに放り込んだ。また、戦う相手も特に選別せず、カナタの気配察知に引っかかったものを片っ端から倒した結果、多種多量のドロップ品になった。
あとで分別は必須だろう。
「今のところどんな相手でもアタリさえすれば行けそうね。小さくて素早い敵には不向き、って感じかしら」
「飛ぶ敵もちょっとイヤだったな。どんな風に逃げるか予測しづらい。でも、相手を選べばいけると思う」
「メェッ!!」
「あーゲン、ごめんって。後半ほぼ出番なかったもんな。そんな怒るなって」
「ドロップ品に果物あったはずだし、それあげてご機嫌直してもらお? 分別もしなきゃだから一旦ルームに帰りましょ。もっふぃーもありがとうねーえらーい」
「めぇ~?」
ゲンのちょっと不機嫌な鳴き声はありつつも、ルームに戻る一行の声は明るかった。
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