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33.毒針活用計画

「ねぇカナタ、ちょっと考えがあるんだけど作業部屋に場所移していい?」


「へ? いいけど……じゃあ、ゲンともっふぃーは下で遊んでてくれ。くれぐれも毒に頭から突っ込んだりするんじゃないぞ」


「メェッ!」

「めぇ~~」


 2匹は元気に良い子のお返事をすると、言いつけ通りトコトコと階下へ向かっていった。モフモフした後ろ姿が大変可愛い。作業が終わったらちょっとモフらせてもらおう。

 そんなことを考えながら、作業部屋に向かう。


「散らかってるけど気にしないでね」


「う、うん……」


 言葉に違わずかなり散らかっている部屋の様子に、ちょっとカナタが引いている気配がする。でも、色々と作業をしていたら散らかるのは仕方のないことだと思う。仕方がないったらない。


(でも、一段落ついたらちょっとは片付けしようかな。流石に床が草だらけは良くない、かも。あと薬もラベルとか貼っておかないと、いざという時わからなくなるわよね)


 つい最近までは製薬スキルをメインで製作していたため、色んな種類の草があちこちに散らばっている。試作で作った薬品は辛うじて壁沿いに並んでおり、ひっかけてぶちまける心配だけはない。が、その中身は製作したイエナにしかわからないのは問題だ。何せ製作手帳からアレンジしたものも混じっているのだから。

 とはいえ、今はそれらは後回しだ

 まず今後のために、浮かんだアイデアを形にしなければ。


「えぇと、まず確認なんだけど、毒針の『5割の確率で即死』っていう効果を発揮させるためには、その毒針の中にある毒が魔物の体内に入らなきゃってことで合ってるよね?」


「多分そういうことだと思う。俺も毒をくらったけど、回りきるまでに多少の猶予はあったから無事だったみたいだ。毒針は、効果的に全身に巡らせるために血管に直接打ち込んでる、みたいなことじゃないかな。魔法がある世界だから、魔力とかも関係しているのかもしんないけど」


「あ、魔力も関係あるのかもなのか。ただ、仕組み的にはそんな感じよね。とにかくこの毒針が敵に刺さればいいわけだ」


 話しながらイエナが手に取ったのは、ポイズンスライムを倒すために参考に試作したボウガンだ。結局対ポイズンスライムの時は活躍の場がなかったのだが、日の目を浴びそうだ。


「……いつの間にそんなの作ってたんだ?」


「カナタがポイズンスライムにやられたときに、参考として手持ち素材でちょいちょいっとね」


「ちょいちょいって……すごいな?」


 素直に感心してくれるカナタにちょっと嬉しくなってしまう。


「ただ、これはかなり攻撃力低めなのよね」


「このボウガンを製作する必要レベルが低いし、しかもこれ後衛職向けの汎用装備だから仕方ないよ……ってもしかしてこれの矢を毒針にするってことか?」


「その通り!」


 ボウガンであれば遠くから安全に毒針を打ち込む事ができる。それに今まで水鉄砲とはいえ射撃武器を扱っていたカナタとの相性も良さそうだ。


「で、でもこれ、矢にするには全然長さが足りないぞ? それにボウガンの矢って普通は使い捨てだよな? 毒針はそりゃ結構多めに出たけどそれでも限りはあるし……」


「そこは工夫次第よ。どうとでもできるわ。ってことで、はい」


「え?」


 ポンと矢とともにカナタにボウガンを手渡す。


「私が矢の改良をしてる間、練習頑張って! 的に当たらなきゃどうしようもないんだから。護衛にもっふぃーとゲンちゃん連れてってもいいわよ」


「なるほど、そうきたか」


 カナタはボウガンを手に苦笑を浮かべた。


「毒針をそのまま持って戦うよりは遥かに安全よ?」


「だな。それに、イエナのことだから更に改良加えるつもりなんだろ?」


「あ、バレてた」


 ボウガンに使えるように毒針を矢に改造するのは当然として、それ以外にもいくつか工夫の余地があるとイエナは考えている。まだ構想段階で実現できるかはわからないけれど。


「いきなり実践は危ないからやめとく。ただ、そうだな、地下の壁になんか的みたいなの作ってもいいか?」


「あ、じゃあ今端材で組んじゃうよ」


 言うが早いかその辺りに散らばっていた木材の破片で人間の顔よりも一回り大きいくらいの的を拵える。ついでに、その中央にこれまた散らかっていた草を集めて煮出し、染料として使う。鮮やかな緑、とはならなかったが、それでも的を2色に分けることができた。

 あとは引っ掛けるための紐をつけて完了である。大変簡易的なモノではあるが、間に合わせとしては十分だろう。

 ついでに、散らばっていた端材と草が消費されたので部屋がちょびっと片付いた。まさに一石二鳥。


「んじゃこれ地下に設置しようか」


「……すっげー早業。え? この世界の職人みんなそうなの? それともイエナが特殊?」


「さぁ? あ、でも確かに私、人より成長速度遅いっていうのは自覚あったから倍の作業できるように! って意識してたところはあるかも?」


 完成した的を一旦インベントリにしまい、地下に設置するために移動する。

 地下に行くと2匹は思い思いに過ごしていたようだ。主人が姿を見せるとすぐさまその元まで駆け寄ってくるのがカワイイ。


「もっふぃー。ちょっとモフらせてー!」


 すかさずもっふぃーに抱き着きモフモフを堪能する。いつ何時でもモフモフは正義である。もっふぃーは大人しく抱き着かせてくれる。なんなら、ご自由にどうぞとばかりにスリスリしてくれるのである。カワイイ。

 ゲンももっふぃーの半分でもいいから懐いてくれればいいのに、と思ってしまうのだった。

 そんなイエナの考えをよそに、カナタが2匹に説明を始める。


「ゲン、もっふぃー。今から新しい家具取り付けるぞー。あ、あと暫く俺がお邪魔することになるけどごめんな。的当ての練習させてくれ」


「的って家具なのかしら?」


「広義的に、家具ということで」


 カナタと位置の相談をしながら無事に設置を済ませる。あとはカナタの腕が上がることを願うばかりだ。といっても、そんなに心配はしていない。

 水鉄砲とはいえ、あれだけの数のポイズンスライムに命中させてきたのだから。

 ただ、イエナが製作に没頭している間、暇になってしまうと思ったので渡したまでだ。


「良い感じに当てられるようになったらちょっと外で狩りしてくるかも」


「実戦経験も大事よね。周囲に人がいないか確認してくれれば構わないわよ」


 イエナがルームにいてカナタが外出する場合、ルームの扉は見えっ放しである。ただ、カナタは気配察知ができるのでそこまで心配はしていないが。


「もちろん。ルームがバレたら面倒だもんな。実際に戦うときはゲンももっふぃーもいるから当てないように連携の練習もしておきたいからさ」


「それ大事! じゃ、頑張ってね。私も頑張ってくるわ!」


 最後にもっふぃーを1モフりしてから、イエナは作業部屋に勇んで向かった。脳内はボウガンの改良計画で一杯だ。


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