32.計画に誤算はツキモノです
「じゃ、定例会議始めるぞー」
「ハイ」
「メェッ」
「めぇ~?」
いつものルームのリビングにて。2人と2匹は顔を突き合わせて会議を始める。といっても、もっふぃーはわかってるんだかわかってないんだか。逆にゲンは発言する気満々なようだが、果たして人間に通じるのかは疑問である。
「まず現時点の成果な。俺のレベルが目標の60レベルのだいたい半分まで到達してる。これはゲンともっふぃーもだ」
「ねー。もっふぃーもゲンちゃんもエライ! この辺りの魔物もカナタとチーム組んで倒してたものね」
褒められると悪い気はしないらしく、ゲンは得意げに、もっふぃーはちょっと照れているような仕草を見せる。
一行の現在地はとある街に向かう途中の森の中。街道から少し逸れた場所での休憩となっている。この辺りの魔物はポイズンスライムよりは弱いようで、1人と2匹がかりであればどうにか倒せていた。
「うん。レベルに関しては順調。なので、今後更なるレベルアップのために、装備を新調する必要がある」
「私の出番よね。私もレベル上がっているから色々作れるようになってるわよ」
イエナも他の皆には劣るがレベルは上がっている。イエナのハウジンガーは戦闘ジョブではないため、戦闘で得られる経験値がどうしても低い。
その分新たな武器開発や大量の毒消し製作でそこそこ経験値は稼げたが。
それでも、当初はあったカナタとのレベル差はほぼなくなってきている。
「必要なのは毒針……だったんだけど、ちょっと今そこに問題があってさ……」
「え、なに?」
ポイズンスライムの乱獲プラス、カナタがレベルアップに伴って覚えた新スキル「幸運」のお陰で最終的にゲットした毒針は40本を超えている。レアドロップの毒針だけではなく、通常ドロップの毒薬も数えるのがイヤになるほど大量に出た。一つずつは小さいけれど、毒という危険物。インベントリの1スタック分はゆうに超えているため、地下の羊たちの運動場の一角を区切って倉庫に改築したところだ。2匹にも、絶対にここには突撃しないようにと言い含めている。
この大量に集まった毒からも毒針は製作が可能なので、在庫的には問題ないはずなのだが。
「これさぁ……」
神妙な顔をして、カナタがインベントリから毒針を取り出す。針と聞くと、裁縫用の縫い針を想像してしまいそうだが、それよりは大きい。握りしめると針の先端がちょびっと顔を出すくらいの大きさだ。
相手を刺したときに、中に詰まっている毒が相手に注入されて死に至るという仕様である。
カナタは幸運スキルなどのジョブ補正のお陰でこの毒針を使った場合約5割の確率で相手を即死させられるらしい。
だが、カナタの表情からはそんな強い武器を手に入れられたという高揚感は見られない。どちらかと言えば、困惑、といった感じだろうか。
「……射程、短くない?」
「それは、そう、ね。針だから。短剣ですらないから。しかも刺さないと毒が注入できない……」
「そうなんだよ! 全然上手く刺せないんだ!」
カナタの訴えを聞いて、イエナも渋い顔をする。
確かにカナタは戦闘中あまり攻撃をできていないように見えていた。上手く射程に入り込めていなかったことが原因らしい。格下の魔物相手でも、結構苦戦していたのだが、まさかその射程の短さ故とは。
今までの戦闘経験が、ポイズンスライムを遠方から射撃することだったせいもあるかもしれない。
逆にレベルが上がったゲンともっふぃーは見事な連携で魔物をタコ殴り、もといタコ蹴りにしていた。可愛い上に強い。最強である。
「つくづく、俺の知識ってあくまで知識でしかないんだなって……仮想世界、無茶があるよ」
そう言ってカナタは頭を抱えてしまった。
イエナも今後のことを考える。
この両手で覆い隠せてしまうサイズの武器を持って、自分よりレベルが上の相手に攻撃する。考えるだけで背筋がヒヤリとしてしまう行為だ。流石にそれをカナタにさせたいとは思わない。
「ちなみに次レベルアップのために討伐しようとしてた魔物は? 裏技使える魔物ってもういないの?」
「裏技が使えるのはポイズンスライムくらいなんだよ。ここから先はあちこち点々としながら色んな格上の魔物を狩ろうと思ってた。ゲンともっふぃーがいれば2,3レベル上の相手でも多少は戦えるし、その間に何回か毒針攻撃すればほぼクリティカルが出て倒せるはずだったんだけど……」
「カナタがレベルに合わせた武器ゲットするか、私が作れば、正攻法で倒せるんじゃ……?」
何も即死確率半々の毒針に頼らなくても、普通に戦闘すれば良いのでは、という疑問がわく。
「確かにそれが正攻法だと思う。けど、問題点が2つ。まず一つ目は俺が単純な戦闘ジョブとしてはかなり弱いギャンブラーなこと。例えば同じレベルの剣士なら、俺の倍は攻撃力がある」
「あ~そっか。敵を倒すのに時間がかかるってことは、それだけ魔物の攻撃も受けちゃうってことだもんね」
ポーションの威力を目の当たりにしてから、イエナは毒消し作りの傍らポーション作りもしていた。とはいえ、いくらポーションがあるとしても怪我はしないにこしたことはない。
「うん。毒針でクリティカルが出れば戦闘の時間を大幅に短縮できる。でも、それよりなにより2つ目の問題の方が重要なんだ」
「……わかったかも」
今、イエナたちが直面している危機がある。それが、こんなところにまで影を落としているとは。
「うん。俺たちには、金がない」
「うわーん、しみじみ言わないでー!」
そう、イエナたちは今、お金がなかった。もっと正確に言うと、街に行っても換金できるようなものがない。
通常、冒険者は依頼を受けて達成し、それで報酬を貰う。その他にも討伐を行ってそのドロップアイテムを売るというのが主な生計の手段だ。
翻ってイエナたちはと言えば、依頼であの湿地帯に行ったわけでないので依頼報酬はない。なぜ依頼を受けなかったかと言うと、理由は単純で目立つから。湿地帯の依頼を受けても絶対にギルドの受付に反対されてしまう。
『不遇ジョブのギャンブラーと未知ジョブのハウジンガーが、ちょっと街中の依頼を達成したぐらいで毒沼に行くだなんてどうかしてる』
ギルドに馬鹿正直に告げてしまえば、こんな説教をうけること間違いなしなのだ。
2人は目立たず穏便にカタツムリ旅を続けたいのである。
「ギルドに毒を換金できれば良いんだけど、それはそれで目立つだろうしな」
「先立つものがないと食料も買えないし、良い武器を作るための素材も調達できないわ。確かにレベルに合わせた武器の買い替えなんて無理ね」
最悪、食料はそのあたりで採取すればどうにかできる。ゲンともっふぃーのご飯もそれで多少はしのげるだろう。
「俺が幸運スキルをゲットしたからこの辺りの魔物を狩って自給自足はできなくもないと思う。でもそれじゃあ効率が悪いから、いつかジリ貧になる。本当は街に行くまでに色々魔物を倒して、そのドロップ品を換金って思ってたんだ」
「でも、毒針が使いこなせなくて、当てがはずれちゃった、と」
「そうなんだ。毒針があれば効率よくドロップ品獲得ができるはずだったのに……」
ままならない現実に肩を落とすカナタ。
だが、イエナの脳裏にはとあるアイデアが浮かんでいた。
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