31.新たなる場所へ
「そろそろ次の場所に移動しようかと思う」
カナタがそう告げたのはいつものルームのリビングで。
ここ3日間はずっとイエナの毒消し武器の改良、カナタの試し打ち、ちょびっとだけ休憩のサイクルだった。面白いくらいにレベルがポンポン上がったため、少々やりすぎた感は否めない。今なら2人はポイズンスライムの仇敵みたいな称号を得ていてもおかしくはないくらいに。
「えー? 折角武器も会心作になって、効率も良くなったのに?」
結局メイン武器は水鉄砲になった。スリングショットに使う毒消し玉製作が少々手間であることと、毒消し水よりも材料を多く使うためだ。
スリングショットは複数のポイズンスライムに出くわした際にイエナが使う程度の活躍となっている。それでも倒すことはできていたし、問題はない。
水鉄砲の方は改良を重ね『会心作』と言っていい出来栄えになった。カナタがポソリと「製作手帳に載ってなくても会心作ってできるんだな」と呟いていたのが印象的である。
「そう残念そうな声だすなよ。イエナの武器製作は本当に助かった。めちゃくちゃ貢献してもらってる。その証拠にイエナだってレベル結構上がったじゃないか。ハウジンガーは戦闘でレベル上がりにくいんだぞ?」
「そうそう、レベルが上がってステータスもアップしたからまた色々作れるようになってるのよね! 勿論もっふぃーたちもレベルアップしてるし!」
ポイズンスライムを乱獲したお陰で、ゲンたちも含めたパーティの平均レベルは32に到達していた。最初はレベル1だったゲンともっふぃーの伸びが特に著しい。
「メェッ……」
「めぇ~~」
なお、レベルが上がったのにも関わらず活躍の場が未だにないゲンは、ちょっぴり不服そうに鳴いているけれど。もっふぃーは相変わらずのんびりだ。むしろ本当にレベルが爆上がりしたのか、見た目での変化はわからない。
「ここからはレベルアップ効率がすごく悪くなっていくんだ。ポイズンスライムのレベルを超えちゃったんだよ」
「あ、そっか。格上相手だったからこその破格のレベルアップだったっけ」
「そうそう。そういうこと。あと何より、食料の備蓄が心もとない。果物が切れたら折角レベルを上げたゲンともっふぃーにそっぽ向かれて最終的には家出になっちゃうから」
ムベノ湿地帯は、色々と植物はあるものの羊たちのお気に召す草はほとんどないらしい。彼らが好きな果物の自生も期待できず、あるのは見るからに毒なんじゃないかと思えるビビッドな色の実ばかり。
それなりに食料は買い込んできたつもりではあるが、確かに結構減っていた。
好き放題改良ができる上に、稀にレアな薬草を見つけて研究できる。そういった点ではここでの生活も悪くなかったが、羊たちの癒しには代えられない。
「それはヤダ! じゃあ早いとこ移動しましょ」
「レベルアップと、目当ての毒針ゲットもできたしな。しかも複数。それ以外にもこの辺でしかとれない薬草だか毒草だかも手に入ったし、成果としては上々すぎるよ。本当にイエナに足向けて寝られないなー」
なんだか定番化してきた気がするこのやりとり。何かにつけて拝んでくる。もしかして、カナタの世界ではそれが定番の感謝のポーズなのだろうかと勘ぐってしまう。
ただ、こうも毎度だとイエナのスルースキルも上がるものだ。
「だから拝むのやめてってば。そんなことより移動はもっふぃーたちにお願いする? ちょっと地面べちゃべちゃだけど走れなくはなさそう。足ふきマットと改造版水鉄砲も作ったから足元汚れてもすぐキレイにしてあげられるわよ」
改造版水鉄砲は、羊たちの足元が汚れた際にさっと流せるように作った簡易シャワーのようなモノである。材料があればもうちょっと大型のものも作って全身洗えるようにしてあげたいものだ。
「そりゃいいな。じゃあ、2匹には運動不足解消も兼ねて走ってもらおう。結構湿地帯の奥まで進んできちゃったからイエナも武器は持ってくれよ。俺だけじゃ対応できない事も考えられる」
「了解。じゃあもっふぃーもゲンちゃんもよろしくね」
軽く装備の点検をして、外に出る。
レベルは上がれど地下室での運動しかできていなかった2匹は元気いっぱいな模様だ。早速騎乗させてもらうと、ぐちゃぐちゃな足元も何のそので走り出した。ちょっぴり泥が跳ねるけれど、そこはまぁご愛敬だ。
「なんか2匹とも走るスピードも上がってない?」
「そんな馬鹿な、と言いたいけど、運動不足解消とかレベルアップとかでテンション上がってるのはあるかもなぁ……と、ゲンストップ。ドロップ拾わせて。うん、いいこだ」
会話の最中にも、気配察知をフル活用しているカナタが道中を塞ぐような場所にいるポイズンスライムを毒消し水鉄砲で倒していく。騎乗中であっても照準がブレないのはカナタの腕がいいのもあるけれど、きっとイエナの水鉄砲の性能もあるに違いない。何せ、会心作なのだし。
そんな感じに走り続けること1時間強。
「景色変わってきたわね。確かに湿地帯も物珍しかったけど、やっぱりこういう雰囲気の方が見ていて気持ちいいわ!」
毒々しくジメッとした雰囲気から、普通の森林へと景色が変わっていく。
同じ緑でも爽やかな印象だ。
空気も湿気を含んだものから徐々にカラッとしたものになっていくのを肌で感じている。湿地帯を完全に抜けると、快晴の空が見えた。
「雨じゃなくて良かったな。一旦このあたりで休憩しようか。ゲンたちも久々に新鮮な草食べたいだろうし」
「あ、カナタ見て! あそこに実がなってるけどとれないかな? もっふぃーが行きたがってる」
「なんだろう? とりあえず行ってみるか」
気分はまるでピクニックだ。お弁当はないけれど、簡単な軽食ならルームで作ってくることはできる。
とりあえずもっふぃーが興味津々の実がなっている木の根もとまで行くことにした。
周囲はそこそこ見晴らしが良く、それにプラスしてカナタの気配察知スキルがあるので、何か魔物がいてもルームに逃げ込むことは可能だろう。
「うーん……なってるけど、どうやってとろう?」
「スリングショットで打てないか? 石ころなら探せばあると思う」
「あ、確かに」
そうやって撃ち落とした実だが、人間にはちょっと酸っぱかった。ゲンともっふぃーは気にならないらしく、むしゃむしゃと美味しそうに食べている。
そんなのどかな休憩をはさんで、イエナたちは次なる街へと向かったのだった。
なお、以前よりは軽いものの、内ももと尻と背中の筋肉痛がまた2人を襲うのは、次の日の事である。
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