30.快進撃の始まり
「じゃあ、開けるわね」
ルームのドアの前で2人は待機していた。
なお、2匹の羊は後方待機である。
「飯によるステータスアップよし、水鉄砲も装備した。圧力もかけてる。準備万端、いつでもこい!」
ポイズンスライムと再戦するにあたり、役割分担や準備はしっかり打ち合わせした。
まず、ご飯によるステータスアップ。今ある材料で作れて、器用さのステータスがアップする、ということでまた出汁巻きを作ることになった。攻撃力よりも何よりも、命中することが鍵だからだ。
そして、初撃はカナタが担当することになった。
ポイズンスライムとのレベル差が少ないイエナが試してもいいのだが、結局気配察知を持つカナタの方が良いという結論になった。イエナはドアを大きくあけて、視界を良くする係だ。それと、カナタの持つ水鉄砲に入った毒消し水が効かなかったときに、粉末の方を試す係でもある。
カナタが水鉄砲を持った理由は、前の世界でまだ馴染みがあったから、だそうだ。
「3,2,1……」
「ゼロ!!」
2人でカウントダウンをしてドアを開ける。
扉の外の世界は先程も見たどこか陰鬱な雰囲気のある湿地帯。独特な色の水たまりの中から、カナタはポイズンスライムの気配を探す。
「いたっ!」
言うが早いか、カナタはそちらに照準を合わせてトリガーをひいた。
狙いはバッチリで、毒消し水がビシャアと音を立ててポイズンスライムに命中する。
『……ッッ!?』
声にならない悲鳴のようなものが聞こえた気がする。
ポイズンスライムにとっては完全に不意打ちだったようだ。もがくようにウネウネと不定形な体を動かしながら、スウッと最後には消えていった。
そして、ポイズンスライムがいた場所に光に包まれた何かが落ちるのが見える。
「ドロップアイテム、か?」
「倒したのよね?」
二人とも、あまりのあっけなさに半信半疑だ。
だって、カナタがあれだけ危険な目にあった相手なのに。そんな気持ちの表れか、しばし、妙な沈黙が流れる。
「メェッ! メェ~ッ!」
その沈黙を切り裂くように、ゲンが鳴いてカナタに突撃していった。
「わっ、ゲン、どうした? ……って、そうか、ゲン、レベル上がったのか!」
「あ、じゃあもっふぃーも……上がってるわ! すごーいレベルアップおめでとう!」
「めぇ~~~」
慌ててもっふぃーのレベルも確認したところ、彼もバッチリ3レベルに上がっていた。もっふぃーも喜んでいるらしく、いつもの鳴き声よりトーンが弾んでいるような気がする。
そもそも今まで戦ってこなかったのでレベルは1だったのだが、それが一気に2レベルも上がったのである。
お祝いついでに、モフモフを堪能させてもらう。やはり今までの張り詰めていた空気をこのモフモフで癒してもらわねばなるまい。
「じゃあカナタも?」
「俺はギリギリレベルは上がらなかったけど、そもそも依頼を受けてレベルが上がったばっかりだったから仕方がない。でも、それより何より倒せる! 遠距離から狙撃できて、しかも一撃。イエナ本当にありがとう!」
「やったわね!」
格上のポイズンスライムを無事に倒せたこと、そしてレベルの上昇が近いことに2人のテンションが上がる。
思わず勢いよくハイタッチをした。
パチィンと良い音が鳴り、手にちょっとした痛みがあったが、そんなの気にならないくらいだ。
「まずはドロップ品拾わないとモッタイナイ!」
「俺が行ってくるよ。周囲にもう1匹いないとも限らないし。多分ドロップ品は毒だとは思うんだけど……」
そう言ってカナタは周囲を警戒しながら一旦ルームから出ていった。
万が一に備え、イエナは一応スリングショットを構える。姿が見える距離とはいえ、油断は禁物だ。
「普通のドロップだとポイズンスライムの毒で、レアだと毒針だっけ? カナタのスキルでレアが当たってたら最高なんだけど」
魔物のドロップ品は、通常ドロップとレアドロップに分けられる。もちろんドロップしないという場合も多いのだが、流石はギャンブラー、初討伐で初ドロップ品をゲットしたようだ。
「あぁ、やっぱり毒の方だ。それでも初討伐にしては上出来じゃないか?」
ひょい、とドロップ品を拾い上げたカナタが教えてくれた。
周囲には何もいなかったようで、ひょいっとまたルーム内に戻ってくる。
「そっか。でも、毒も色々と使い道が多いからいいんじゃないかな? 最悪売ればいいし」
「大量の毒を売りさばきに来る冒険者って、普通に考えてちょっと怖いな」
言われて脳裏に不審な目線を送ってくる冒険者ギルド職員が浮かんだ。確かに、イエナが職員だったとしてもあまり良いイメージは持てないかもしれない。
ならばこれは却下だ。
イエナの理想は目立たず、地味に、快適なカタツムリ旅なのだ。
まぁ、職人として目立つ分には、少しはアリかもしれないけれど。
「う、うーん。じゃあこれは取り扱いに気を付けつつ、私が有効活用させてもらうってことで」
「だな。それにしてもイエナ、本当にありがとう。イエナがいなかったら倒せなかったよ。よくこんな方法思いついたな。お陰でガンガン倒せそうだ」
カナタが心底嬉しそうな表情で水鉄砲を見ている。今回は威力重視で見た目は結構イビツなため、そんな目で見られると少々恥ずかしい。間に合わせの品なので『会心作』にもできなかったし。
「こちらこそありがと。褒められて悪い気はしないかな。ただ、改善点もまだまだあるし、あとこっちのスリングショットの方も実験して欲しいわね。あ、あとガンガン倒すって言っても武器に合わせた毒消し作らなきゃだからちょっと時間貰うわよ?」
脳内に湧き出てくる武器の改善案を一旦横に置いておき、今後の話をする。
今のところどちらも試作のため、弾となる毒消し玉や毒消し水はあまり量を作っていない。急ごしらえなので、どちらの武器も耐久度も気になるところだ。
「そうだな、倒せたのが嬉しいからって調子に乗るのは良くない。色々試しつつやっていこう」
結局、その日はスリングショットの試し打ちと、それぞれの武器の改善に時間を費やした。
スリングショットでもポイズンスライムを倒せることが確認でき、最終的にカナタのレベルは3上がったのだった。
【お願い】
このお話が少しでもお気に召しましたら、本編最新話の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです!
イマイチだったな、という場合でも☆一つだけでも入れていただけると参考になります
ブックマークも評価も作者のモチベに繋がりますので、是非よろしくおねがいいたします
書籍化作品もありますので↓のリンクからどうぞ





