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29.新武器完成

「ごめんごめん、作業してたら夢中になっちゃった」


「いや、いいんだけど……。もっふぃーもゲンもありがとな」


 イエナが作業に熱中していた時間、カナタはそれなりに休むことができたようだ。顔色も悪くないし、先程腕を見せてもらったけれど傷はほぼ癒えていた。


「ポーション、効果あるのね……」


「製作してもらってて助かったよ。今後もポーションの材料とかあれば積極的に採取したいな。ところで、今までなんの作業してたんだ?」


「あ、ええと……結論から言うと、ポイズンスライムと再戦したいな、と思って」


 どう説明したものか、と一瞬迷ったが、結局ストレートに口にすることにした。

 案の定、一度失敗してしまったカナタの反応は良くない。


「あんまり賛成したくはないけど……どうしてそうなったんだ?」


 やはりカナタは再戦はしたくはないらしい。ただ、それでも理由を聞いてくれるあたりデキるビジネスパートナーだな、と思う。

 そんな彼を説得するべく、ポイズンスライムを倒すべきという主張を始めた。


「まず、ポイズンスライムがルームの外で待ち構えている可能性があるってのが一つ」


「それはあるかもしれない。でも、ここで数日籠城してれば流石にいなくなる可能性の方が高くないか?」


「それはあるかも。でも、カナタの目的を叶えるのは早い方がいいでしょ?」


 カナタはできるだけ早く「次元の狭間」へ行きたがっている。それはそうだろう。イエナだって、同じ立場だったら早く元の世界へ帰りたいと思っただろう。少なくとも、どうしても帰れそうにないとわかるまではあがきたいのが人情ではないだろうか。


「そりゃあ、まあ……。だからといって勝算がない戦いをするわけにはいかないだろ。一度失敗してるんだぞ」


「毒消しが全く効かなかったワケじゃないと思うの。その証拠にカナタの毒はなくなったじゃない?」


「あいつにだって毒消しはあたったぞ。けど倒せなかったじゃないか」


 自分の作戦の失敗をカナタは苦々しく口にする。

 けど、完全な失敗だったとイエナには思えない。


「カナタは夢中で見えてなかったかもしれないけど、ポイズンスライムは毒消しを嫌がるような動きをしていたわ」


 そこから、イエナは仮説を口にする。

 カナタに毒消しが効いたのは体内に入れたことにより、薬効がきちんと発揮されたのではないか。反対にあのときのポイズンスライムは、体内には入っていなかった。

 毒消しの効果を発揮させるには、全身に浴びさせるなどをして強制的に体内に入れるのがベストではないか、と。


「そりゃあ理屈としてはそうかもだけど……」


 カナタの主張が弱まる。

 今だ、とばかりにイエナは畳みかける姿勢に入った。


「で、やりやすくするために武器を2つ用意したわ」


 ドン、とインベントリから2種類の武器を取り出す。

 一つはスリングショットという腕に取り付ける形のパチンコと毒消し玉のセット。

 最初はボウガンも考えたのだが矢に変わる形状の毒消しを考えることが難しかった。その点パチンコであれば毒消し玉に力を入れすぎて割らない限りはなんとかなる。

 もう一つは毒消し水をたっぷり詰め込んだ水鉄砲。数回空気栓を引っ張って空気を抜くことで圧力をかけ、より遠くまで毒消し水を噴射できる。しかも噴射口を閉めたり緩めたりすることで出てくる水を一直線にも霧状にもコントロールできる。


「時間かかってると思ったらこんなのを2種類も作ってたのか……どっちも全然知らない武器だ」


「そりゃあ私のオリジナルだもの」


 参考にした武器やオモチャはあるけれど、用途に合わせてきちんと改良・改造している。カナタの知識にないのは当然だ。

 カナタはじっくりと2つの対ポイズンスライム用の武器を見つめる。角度を変えたり、ちょっと弾いてみたり。


(作品を見せる瞬間って凄く緊張するわね……)


 採点されているような気になりながら、カナタの反応を待つ。


「毒消しが水薬になってる……これ、効果は消えてない?」


「どちらも製薬の基本に従って製作したから大丈夫なはず。スリングショットに使う毒消し玉も、外側は丸薬と同じ程度の強度のモノで、当たれば砕けるわ。中身は粉末で、外側と同じものを粉末にしたの。上手くいけば結構散らばる予定。とはいえ、どちらもぶっつけ本番になる武器であることは間違いないわ」


 理論上は、どちらもきちんと作動するはずである。

 ただし、これは毒消しでポイズンスライムが倒せるという前提ありきだ。その情報自体が間違いだった時は失敗になる。


「でも、試す価値はあると思う。特にどっちも距離をとって戦えるようにしてあるから、ルームの中から攻撃できるはずだし」


「あぁそうか。安全地帯からの狙撃ができる。それはいいな。……ごめん、正直、失敗してちょっと怖くなってるんだ」


 カナタには知識がある。けれど、それは本当に知識なだけで、経験に基づいたものではない。多分、カナタは今まで格上の魔物から攻撃を受けるだなんて経験はしていないのだろう。

 それはイエナだって同じだ。正直、目の前で怪我をしたカナタを見ただけで、とても怖い。

 だけど、まだ打てる手がある。まだ、尻尾を巻いて逃げる時じゃない、とイエナは思うのだ。

 そんな気持ちを込めて、努めて明るく声をかける。


「そりゃ毒まで食らってるから当然でしょ。でもこれなら安全な場所から、2人で攻撃できるわ。ちょっと水鉄砲で出入口びしゃびしゃになるかもだけど、そのくらいお掃除すればいいだけでしょ?」


 何度だって、生きてる限りはやり直せる。失敗を元に試行錯誤を繰り返して成功に導くのは製作でも同じだ。


「そう、だな。やってみる価値はある。サンキュ、イエナ」


「どういたしまして」


 かくして2人はポイズンスライムとの再戦へ挑むのだった。


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