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28.職人の腕の見せ所

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「……ポーション、まっず」


「手帳通りに作ったからそれは諦めて頂戴。……本当に効くといいんだけど」


「効くだろ多分。なんてったって毒消しはきちんと効いたんだから。俺の知ってるポーションと同じだと、時間をかけてゆっくり体力が回復してくモノなんだよな、コレ。だから、暫く休んでれば平気」


 ゲンに手伝ってもらい、カナタを部屋まで運ぶ。

 格上のポイズンスライムから食らった攻撃で、カナタはかなり疲弊していた。裏技でレベル上げ作戦が失敗に終わったという精神的ダメージも大きいのかもしれない。

 とりあえず、ポーションの口直しに水と果物を置いておく。

 空気を読んでいるのか、好物の果物を前に2匹は大人しくしていた。ゲンに至っては主人であるカナタが心配なのか、無駄にウロウロと落ち着かない様子である。


「とにかく、カナタは一旦休んでて。ゲンちゃん、もっふぃー。何かあったら呼びに来てほしいの。私、作業場にいるから」


「メェッ!」

「めぇ~~~」


 言われなくても! と言いたげなゲンと、いつも通りのもっふぃーの返事にちょっと安心する。少なくとも2匹とも委縮したりはしていないらしい。頼もしいペットたちだ。それに賢いので、こう言っておけば何かあったとしてもきちんと伝令の役目を果たしてくれるだろう。


「作業場って……何するんだ?」


「ちょっと、思いついたことがあってね。いい? ちゃんと大人しく寝てるのよ!」


 そう言ってイエナは作業部屋へと場所を移す。

 イエナの作業部屋は、現在たくさんの薬草と製薬道具であふれかえっている。誰に見せるわけでもないので、雑然としているのはまぁいいだろう。片付けは、一段落してからやればいいのだ。


「えーっと、コレと、コレと……」


 あちこちに散らばっているモノの中から、毒消しの材料を集める。


「そもそも、なんで毒消しが丸薬なのかって思っていたのよね。他の薬も作ってみたけど、形状色々なのに」


 例えばポーションは液状だ。ギリギリ飲めなくはない味の代物だが、もしかしたらアレは傷口にふりかけるモノなのかもしれないとも思う。逆に毒消しは丸薬で、カナタは飲んだり傷口に砕いて刷り込んだりもしたとのこと。どちらで効果が出たかはちょっとわからないけれど、体内に入った毒を無効化するのには飲んだ方が良さそうだし、傷口にちょっとついていた毒を無効化するには直接ぶっかけた方が良いような気もする。


(製作手帳に載っている薬って形状見本はあるけれど、どんな風に使うかまでは書いていないのよね。飲むのか塗るのかが曖昧。カナタもどっちかまではわからないって言ってたし)


 カナタが言うには「使う」という行為さえすれば効果が表れてたので気に留めていなかった、らしい。現物を見て初めて「そういえばどうするんだ?」となったんだとか。

 それで結局今回は丸薬を投げてみたのだが、結果はアレである。

 ただ、ポイズンスライムは、あの丸薬を嫌がるような素振りはしていた。


(イヤではあるけれど、当たっただけでは効果がなかった。もしかしたらポイズンスライムが飲み込んでくれたら効果はあったのかも。でも、ポイズンスライムは何処が口か全然わかんない)


 スライムと一緒であればあのドロドロの体で対象を包み込んで、ゆっくりと消化をするはずだ。なので飲み込む意思さえあれば全身が口のようなもの、と考えていいのかもしれない。

 ただ、嫌いなものを飲み込んではくれないだろう。

 しかし、全身を覆うほどに毒消しをぶっかけられてしまったらどうだろうか。


「まずは、粉末状に。こっちは丸薬砕くだけだから簡単よね。というか、まとめる工程がいらなかったのか……そっちのが手軽じゃん」


 人間相手の毒消しならば飲みやすいように粉よりは丸薬だろう。けれど、ポイズンスライム相手ならむしろ全身にぶっかける勢いで粉末状の方が良いはずだ。

 薬研を用いてゴリゴリとすり潰していく。


「問題は粉をどうやってぶつけるか、よね。ぶつかった際に中身が弾けて散らばる工夫をしないと……卵みたいな感じにすればいいのかしら」


 試行錯誤しながら、とりあえず試作を重ねていく。

 最終的に小さめの卵くらいの大きさで殻を作り、その中に粉末をいれた。殻自体も毒消しの粉末を練って作ったので、恐らく効果は期待できる。


「あとは、毒消しの水薬バージョンの製作ね」


 こちらはカナタに飲ませたポーションの応用だ。薬効を損なわないようにして液体に溶かしていく。これ自体はさほど難しい作業ではない。

 絶対に口に含みたくない匂いがする上に、なんとなく粘つく触感の液体が完成してしまったが、自分が飲むわけではないので問題ないということにしておく。


(なるほど、水薬にすると絶対に飲み込みたくない感じになるから丸薬だったのかも?)


 そんな感想を抱きながら、最後の作業に取り掛かる。

 桶いっぱいに作った毒消しの水薬だが、そのままポイズンスライムにかけるのはなかなか大変だろう。出来ることなら、ルームの中から遠距離でポイズンスライムに当ててしまいたい。


「なら、水鉄砲を作るしかないわよね!」


 子供の頃、木工職人だった父が木の筒で簡単な水鉄砲を作ってくれた。空気で圧力をかけて水を飛ばすタイプで、思っていたよりも水が飛んで行ったことを覚えている。

 今回はそれの強化バージョンを作るのだ。


「なるべく遠くに飛ばしたいから……んーー、なんか製作手帳に参考になるものないかな……あ、ボウガン? ボウガンかー。あ、でも粉薬を飛ばす方だったら改造すればいけるかも?」


 たまに迷走をしながらも、イエナはどんどん試作を続けていく。

 あまりにも部屋にこもっている時間が長くなりすぎて、心配したもっふぃーが扉に軽く体当たりするまで作業は続いた。


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