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26.現実はままならないもので

良ければ評価とブクマ、よろしくおねがいします!

 青い空、白い雲。そして、目の前に広がる一面の緑。

 ロケーションだけで言えば最高だ。

 そう、筋肉痛さえなければ。


「うう、寝て起きたら昨日よりはマシだけどそれでもしんどい~」


 広々とした草原の中で、イエナの弱音が響き渡る。

 街からは遠く離れた見通しの良い原っぱの真ん中に、2人と2匹は訪れていた。

 事前に冒険者ギルドから聞いていたので虫よけの準備は万端。多少の雲はあるけれど晴れと言っても過言ではない良い天気と、爽やかな風が吹く素敵な場所だ。

 基本的には人間に攻撃してこない低レベルの草食系の魔物がいるくらいで、危険が少ないここは「ミリアニ草原」と呼ばれている。


「メェメェ~」

「めぇ~~~」


 ペットの2匹もここの草がお気に召したらしい。特に普段不機嫌に見えることが多いゲンが、ちょっとのんびりしている様子が大変癒される。あとはもうちょっとサービスしてモフらせてくれればいいのだが。

 残念なことに、あちこちに鈍い筋肉の痛みがあるせいで折角の癒しの景色もイマイチ感動しきれない。今後この風景を思い出すときは筋肉痛とセットとなりそうだ。 


「ゲンたちに乗っての移動はこれからも続けるから慣れるしかないんだけど……ほんとキツイな。段々マシになってくと信じるしかない」


 あの気まずい沈黙のあと、2人は文字通り這ってなんとか自室のベッドへと辿り着き眠りについた。

 一晩たてばアラスッキリ、痛みが消えていた、なんて期待をしていたのだが、現実は甘くないようだ。今もしっかりと鈍痛がある。

 そりゃあ、昨日のピークに比べればだいぶマシではあるけれど。


「なんか今日は腕の方が痛いかも……」


「わかる。でも、この辺りの摘み終わったらまた移動だぞ」


「うわー……あの痛みが再び?」


「昨日みたいな長距離移動はしないつもり。無理、ダメ絶対。でも、筋肉痛ってある程度は動かないと痛みが長引くとか聞いたことあるからさ」


「そうなんだ? じゃあ頑張るかぁ」


 2人は羊たちに先導されながら雑草の中に生える「デトミリ草」という薬草を中心に採取している。これは他の数種の薬草と合わせると「毒消し」が完成するらしい。

 だが、イエナにはちょっと疑問があった。


「ねぇ毒消しっていうけど何の毒に効くの?」


「なんのってそりゃあ……全部?」


「そんなことってあり得るのかしら? だって、作り方は薬師の製作手帳の初歩の方に載ってるくらいで、材料の採取も簡単。なのにどんな毒にも効くだなんて無理があるんじゃ……」


 イエナには遠い世界の話ではあるけれど、お貴族様の界隈では稀に「毒殺された」だの「毒杯を賜った」だのという物騒ワードが出てくることがあるらしい。実際にあったとされる昔話でも、毒殺は割とメジャーだ。

 お貴族様関連じゃなくとも、天下の英雄がポイズンドラゴンの毒に冒されて亡くなってしまった悲劇もある。その悲劇を乗り越えて息子がかたき討ちをする感動ストーリーだった。

 けれど、この毒消しが全ての毒に効くのであれば、そんな噂話やストーリーは存在しないはずだ。


「……実は俺もちょっと気になってたんだよな。街のお店に行っても売っているモノのラインナップが結構違ってて、毒消しなんてのは見かけなかった。あっちでは定番アイテムだったんだけど。あ、その代わりあっちで見なかった虫よけはかなり豊富だった」


「今となっては虫よけも私が作れるから、それはまぁいいとして」


 レベルアップをするために、材料入手が比較的簡単だった薬師の手帳にも手を出したのだ。スキルの恩恵はやはりすごいもので、今まで全く手を出したことのない分野でもどうにか完成させられた。そして、基礎知識がつくと少しの応用なら利くものである。製作手帳には載っていなかった市販の虫よけも製作できるようになったのである。

 これは非常に助かった。主に、お財布事情的に。虫よけも常時使っていると馬鹿にならない出費だ。その点手作りであれば、こうやって旅の最中に生えている草をブレンドして製薬するだけなのでかなり安上り。お得、嬉しい。


「本当に毒消しを使ってレベルアップなんてできるの?」


「……やってみないとなんとも言えないな。うあ~~……でも、毒消しでポイズンスライム倒して、毒針入手ルートがギャンブラー育成においていっちばん楽なんだよぉ」


「メェッ!? メェー!!」


 情けない声を上げてカナタがへたり込んだ。

 それを心配したのか、ゲンが慌てたようにカナタに駆け寄り、次いでイエナを威嚇しはじめた。ゲンはカナタのことは飼い主としてしっかり認めているらしい。

 飼い主がいじめられたと思ったのか鳴き声をあげて抗議してくる。


「ゲ、ゲンちゃーん。私いじめてないって!」

「めぇ~~」


 主従仲がよろしくて大変結構なのだけれど、こればっかりは抗議されても困ってしまう。もっふぃーも宥めるように声をかけてくれているようだが、どうやら効果はなさそうだ。


「あーごめんごめん。ゲン、いじめられてないから。ありがとうな」


 カナタが声をかけたお陰でなんとかゲンは矛先を収めた。

 が、問題が解決したわけではない。


「ううう、私もゲンちゃんに懐かれたい」


「いやそっち!? レベルアップの話じゃなかった?」


「えーでもさぁ。ルート決めとかレベルアップの方法とかで私にできることないんだもん。そりゃ毒消しを量産するのは全然構わないけど、効果の程は試してみないと無理じゃない?」


「それはごもっとも。うーん……」


 そういうとカナタは難しい顔して黙り込んでしまった。思わずそっとゲンの様子を窺ってしまうが、今回はセーフらしい。威嚇されなくて密かにほっとしてしまった。


「うん、やっぱり当初の予定通り、この辺りで集められる素材大量入手してから移動しよう。毒消しが効かなかったら別のルート考えるよ。……ちょっと今は思い浮かばないけど。無理にルート変更しても今の筋肉痛だと長距離移動は無理だし、毒消し作りだってイエナのレベルアップって意味では無駄にはならない」


「了解。じゃあ採取頑張らないとね」


 方針が決まればあとは行動のみ。

 この日は一日のんびり採取と短距離移動を繰り返したのだった。


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