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22.楽しい製作タイム

「もっふぃー! 頑張ってくるから元気でね。ちゃんとご飯食べるのよ? 私がいない間、カナタの言うことよく聞いてね?」


「めぇ~~~」


 まるで今生の別れのようなワンシーンである。が、別に全くそんなことはない。

 ただ単にイエナが真っ白な羊に抱きついてモフモフを補充しているだけだ。モフモフは正義であり癒しである。


「メェッ!! メェッ!!」


 茶番はいい加減にしろ、という天の声を代弁するが如く、黒い羊のゲンがイエナにツッコミタックルをしてくる。


「わっ、イタッ、イタタ、ゲンちゃん落ち着いて」


「こら、ゲン! ダメだって!」


 一応、餌付けをした方がご主人ということになり、ゲンの主人であるカナタが諫めてくれた。そのお陰か、それとも気が済んだのか。ゲンはプイッと定位置となったリビングの隅っこへと移動した。

 そう、ここはイエナの『ルーム』の中。しかもリビングなので2人と2匹が過ごすには少々狭い。というか、2匹だけでも狭く感じると思う。


「ゲンちゃんのご機嫌を良くするためにも、レベル上げ頑張らないとね」


 イエナのレベルは今24。これが25になると『ルーム拡張』というスキルをゲットできる。それがあればこの『ルーム』に地下室が増えるのだ。

 拡張された地下室を2匹専用の部屋にしよう、というのがカナタと出した結論である。


「わかった、応援してるよ。ゲンたちには通じるかわかんないけど色々説明しておくから。最低限、トイレの場所は覚えてもらわないとだしな」


「よろしくね。じゃあ、私は部屋で製作するから。あ、なんかあったときのためにドアは開けておくわねー」


 もう一度もっふぃーのモフモフを楽しんでから、己の戦場へと向かう。

 いつでも出ていけるようにとすっかり片付けたはずの、イエナの部屋。その床は、見るも無残に作業道具と素材で埋め尽くされている。


「片付けはあとでよ、あとで。もっふぃー達のお陰で旅の移動は楽にできるし、あとはベッドマットとブーツ。それから、もっふぃー達のお部屋! 頑張らなきゃ!」


 今後の快適なカタツムリ旅の命運をかけた戦いが、今始まろうとしていた。が、その様子は大変地味である。


「まずは……そうそうレベルアップのために作ったことのないモノを製作して……」


 カナタによると、ハウジンガーが効率よくレベルを上げるには、とにかく手あたり次第作ってみることが大事らしい。初回製作ボーナスがつく、とかなんとか。

 そうなると製作手帳に載っているものを片っ端から作りたい衝動に駆られるのだが、そうは問屋が卸さない。

 理由は簡単、材料に限りがあるからだ。


(必須なのはベッドマット2つと旅用のブーツを2種。ベッドマットは同じものを2つ作るとして、ブーツは私とカナタのは別のモノを作らなきゃいけないのよね)


 身に着けるものがステータスに影響を及ぼす、というのはマゼランから貰った作業用手袋を装備して実感している。それと同様のことがイエナの作る装備品でも起きるらしい。

 今までステータスの存在そのものを知らなかったのだから、装備によってステータスが変わるなんて考えつくはずもない。しかし、実際は以前から感じていたことがあった。

 両親のお下がりを使ってもイマイチ上手く作れる気がしなかっただとか、マゼランの作業道具を無断使用して大失敗した不届きな先輩がいただとか。

 そういった過去の出来事を照らし合わせてみると、今の自分に合った装備でないと、実力は発揮できないのではないか、と。

 その予測はカナタの説明で正しいものだとわかった。適正装備、というものがあり、それぞれのジョブとレベルに合わせた装備をしないとステータスが下がってしまうのだ。

 試しにカナタがマゼランに貰った作業手袋を装備したところ、ステータスが大幅にダウンした。本人もかなりの違和感があったらしい。なので、ブーツはギャンブラー用とハウジンガー用の2種類が必要になる。

 適正装備というのは今後の快適旅にとても影響があるようだ。


「その前に、避難避難~っと」


 ブーツとベッドマットに必要な素材を、床から拾い上げては次々インベントリに入れていく。間違って使ってしまわないようにという対策だ。熱中した自分がうっかりをやらかさないとは、悲しいことに言い切れないので。

 移動を終えたところで製作手帳を見ると、自分のレベルで作ることができる製作物がズラリと並んでいる。しかもご丁寧に、必要な素材とその量までわかるのである。大変便利すぎる機能だ。

 その中から残っている素材で製作可能かつ、初回製作ボーナスが狙えるものを片っ端から作り、経験値を稼ぎまくる。

 そして。


(カナタに教えて貰ったスキルの詳細メモ。これを駆使すれば私にも『会心作』が製作できるはず……)


 しっかりスキルの確認ができたお陰で、手が届かないと思っていた『会心作』も今ならできる気がする。


「あっちの世界では『会心作』がデフォルトだったなぁ。そっちの方がステータス上昇率がいいから。勿論オシャレで身に着ける場合だってあるから、『会心作』以外は無価値、なんて言わないけど」


 とはカナタの言だ。

 カナタの世界の職人と同じように、今のイエナは製作手帳やスキル一覧を見ることができる。条件は一緒なのだから『会心作』だって作れるはずだ。

 まずは『ルーム拡張』を覚えるためにも、レベルを25にする。

 その上で必須製作物である2種類のブーツとベッドマット2つを『会心作』に仕上げるのが本日のミッションである。


「よーし、始めよっか。できれば無駄にならないモノがいいよね……」


 不必要なモノは売ればよい、とカナタは言っていたが、どうしてもモッタイナイ精神が働く。レベル上げのための製作物でも、できることなら自分の手元で大事に使いたい。

 条件に見合うものをピックアップして、製作計画を紙に書き出す。計画が決まれば、あとは実践あるのみ。


「あ、この工程ってスキルはこういう風になってるのね……。えーっとメモはどこだ……あ、ちょっと失敗したかも!! リ、リカバリーできる!?」


 メモとにらめっこしながら、今まで培ってきた技術を総動員する。

 その結果多少のミスはあったけれど、無事に『会心作』のブーツとベッドマットを製作することに成功した。


「おつかれー。すっごい集中力だったな」


「ひゃっ!?」


「めぇめぇ~~」

「メェッ!」


 自分の手で作り上げた『会心作』にうっとりしていると、突然後ろから声がかけられた。びっくりしたなんてものじゃない。

 カナタの他に2匹の鳴き声のオマケ付きである。

 もっふぃーが労わるように「モフってもいいよ」という感じで近づいてきてくれたので思う存分モフモフを楽しむことにする。


「驚かさないでよねーまったく」


「悪い悪い。でも、腹減ってるかなと思って。ルーム内で簡単なモノだけど作っといたから食べよう。あと、2匹の部屋予定の地下も拡張されてたよ」


 そう言われると、ゲンキンなモノでお腹がグゥと鳴った。時間もかなり経過していたらしい。


「ホント!? めちゃくちゃ気になる~……けど、お腹も空いたし……。う、うーん。ちょっとだけ! ちょっとだけ地下覗いて、それからご飯にする!」


 空腹を訴える胃袋に素直に従いたいところだけれど、地下室も気になる。本能vs職人ゴコロ。結果、僅差で職人ゴコロが勝ったようだ。

 視界の隅で必死に存在を主張する、あちこちに転がっている素材の切れ端やクズ、散乱した道具の存在は一度見ないことにして、ルームへと入り込む。

 そんなイエナの足取りは大変軽やかだった。


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