213.恋心とパーティの行く末
「えぇと……まず俺の方から話させてほしいんだけど、いいか?」
「あ、うん。どうぞ」
そうは言ったものの、イエナとしては少しばかり困った事態になった。てっきり忘却薬のあれこれについて聞かれると思っていたのだ。それで暴露ついでに色々とぶちまけるというのが、イエナの想定していた段どりだった。順番大事。
当然ながら、ぶちまけるにあたっては相当悩んだ。そこら中を転げ回って悶絶したかったくらいに。
だって、もし、ぶちまけてNOと言われてしまったら、もう旅は続けられないだろう。
(一方的に特別な感情を向けてくる相手と、四六時中一緒にいるのってしんどいじゃん)
そういう部分で悩みまくったけれど、結局は告白すると決めた。パーティ解散の危機、とかのデメリットも考慮した上で、だ。
なぜなら、やっぱり好きな人には誠実でいたいから。
そしてカナタもきっと、誠実に断ってくれる人だと信頼しているから。
(カナタはたぶん、私が好きになっちゃったって言ったら真剣に考えた上で、ハッキリと「ゴメンナサイ」って言える人だもん。……そういうところが好きだからさぁ~もうしょうがないよね)
もう腹はくくった。
いざ尋常に勝負!
そんな心持ちではあったのだが、カナタが先手を取りたいというのであればそこは譲るつもりである。……決して怖じ気づいたわけではなく。これも乙女心の為せるワザだったり。
(……カナタから話したいって言うならそれを止める理由ないし、ね)
ということでカナタの話を先に聞くことに。
そのカナタはというと、なんだか緊張しているように見えた。確かにこれから話すことはパーティの行く末を決めるだろうとは双方理解していたので、緊張してもおかしくはない。
(うーん。やっぱ私、末期かも。そういう顔もかっこいいなぁとか思っちゃってる)
このトキメキがもうちょっとしたらなくなるかもしれない。すごく残念だし、未練はあるけれど、だからといってズルズルその機会を後回しにするのは絶対にイヤだ。
揺れる乙女心のままで、カナタの言葉を待つ。
「……俺は、イエナが好きだ」
幻聴が聞こえた。もしかしたら目の前のカナタ自体が幻覚かもしれない。
イエナが自分の目や耳を疑っている間に、カナタは言葉を続けてくる。
「帰れなくなったからって何をムシのいいことを、とか、ビジネスパートナーっていう約束破りだろ、とか……色々俺も考えて……けど、これからも一緒に旅をしたいからこそ、きちんと伝えたいって思ったんだ。俺は、イエナのことを恋愛的な意味で好きだ」
「わ、私も!」
カナタの言葉に、思わず食い気味で重ねる。
誠実であろうとしてくれているカナタに、きちんと応えたくて。
「私も、カナタが好き、だよ。ちゃんと、恋愛的な意味で」
言ってから、カァーと頬に血が上ってきた。絶対に今、自分は真っ赤になっているだろう。カナタを見れば、彼はズルいことに片手で顔の下半分を覆っていた。それでも、短い髪から覗く耳は、熟れたリンゴのように赤い。
「照れる、な」
「照れるね。……でも、いつから? 私は恥ずかしながら、妖精に夢見のお茶ご馳走になって自覚させられた感じ」
「俺も自覚させられたのは妖精のせいだな。……こうなったから、お陰、とも言えるけど。自覚しないようにしてたんだ。俺は結局元の世界に帰りたいっていう気持ちの方を優先していたから。絶対に置いて行っちゃうんだから、すごい頑張って目を逸らしてた」
やってくれたよな、ピウ、と苦笑しながら続けた。
頭の中で、ピウを筆頭とした妖精たちがクスクス笑いながら飛び回る。今の2人を見たらきっとあの妖精たちは楽しそうにからかってくるに違いない。
「私も、自覚させられちゃったあと、目を逸らそうって頑張ってた。だから、忘却薬を作ったんだ」
ついでに、倉庫での問いの答えもここで自白しておく。別に悪いことをしたわけではない、と思うのだけれど、やっぱりなんとなく後ろめたい。
今思えば完全な逃げだったのだろう。けれど、あのときの選択が間違いだったとは言い切れない。悲しい雰囲気でカナタを送り出したくなかったし、モフモフたちに心配をかけたくなかったから。
「あぁ、そういうことだったのか」
「逃げだってわかってたけど、どうしてもね。でも、それが巡り巡ってウォルナーの役にたったから、結果としては良かったのかな? ……っていうか、もしかしたら世界樹がそこまで読んでたのかも、って気もするし」
世界樹は、我が子であるウォルナーを守りたかったのではないか、なんて思ってしまう。人智の及ばぬ存在の考えはわからないけれど。
「世界樹の親心って奴かな。そうだといいな」
「うん。あ、それでね、カナタ。私、色々落ち着いたらもう一度世界樹のところに行きたいと思ってるんだ」
「それは構わないけど、どうして?」
「あの枝、本当に私が持ってていいのかなって……」
カナタの知識にもなかったほどのレアアイテム。その人智を超えた力は忘却薬一つとってみても歴然だろう。勿論悪用する気なんて毛頭ないけれど、ただの人間である自分には身に余るのでは、と不安になる。
「……いいんじゃないか? 行ってみよう。ウォルナーがどうなったかも気になるしな」
「あ、そうね! 行ったら会えるかしら」
カナタはあくまで穏やかに後押しをしてくれた。
いつの間にか、2人の話は次の旅の目的地に移行する。それは、ある意味いつも通りの会話だ。
その、いつも通りをこれからも続けられるのだと思うと、今までになく嬉しい。これからも、カナタと、モフモフたちとの旅が続くのだ。そう考えるだけでイエナの声は弾んだ。
「カナタはまずもう一度エバ山に向かいたいわよね。またノヴァータのギルド長にお願いしにいく?」
「いや、今度は正攻法で許可を得てもいいんじゃないかって思ってる。勿論早い方が嬉しいんだけど……手紙の内容じっくり考えられるしさ。あと、きちんと正攻法知っていれば、いつでも手紙を出しやすいっていうメリットもあるし。ただ、それにイエナを付き合わせることになるけど……」
「何言ってるのよ、水臭い。そのくらい全然余裕よ。それに、今回エバ奇石にお目にかかれなかったから、次回は是非って思ってたしね」
「あぁ、それどころじゃなかったもんな」
旅の話はまだまだ続く。
最初の約束にあったミスリルをゲットするために、大陸中央に聳え立つ鉱山に行くだとか。
夏になったら、きっと景色が変わっているだろうペチュンの街に再度行ってみたいだとか。
旅をする時間も、旅の目的地を決める時間も、これからはたくさんあるのだと思うと胸が躍った。しかし、残念ながらそのために徹夜をすることはちょっとよろしくないわけで。
愛しのモフモフたちに余計な心配をかけないためにも、今夜のところは解散となった。そこでちょっぴり、イエナの中に悪戯心が芽生える。
「じゃあ、カナタ。ビジネスパートナー解消ってことでいいわよね?」
ニィっと笑ってカナタに問いかける。すると、カナタも同じように、ちょっと悪戯めいた顔で返してきた。
「勿論。これからは、恋人兼パートナーとしてよろしくな」
その言葉に詰まってしまったイエナ。言った彼も少し照れた顔をしていたので、この勝負は『あいこ』ということにしたい。
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