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212.人魚も交えた宴会

 ド直球かつ豪速球な質問をまともに食らい、イエナは言葉に詰まった。それはもう、思い切り。口だけはチョッキンギョのようにパクパクと開閉しているが、そこからまともな音は出てこない。精々、あ、とか、う、とかの母音をうめくのみだ。


(ど、どうしよう! どうしよう!? いや、でも今がチャンス? だって、今2人きりで、誰かがいるわけでもないし……)


 グルングルンと高速空回りをする思考。それでもどうにか状況を整理し、何かを話そうとしたとき。


「ストップ! 違う、そうじゃなくて。俺からちゃんと言わなきゃいけない……気がするから、今の質問ナシ!」


「へ? え、うん。わかった……かも?」


 カナタから質問が撤回された。ひとまず助かったような、肩透かしを食らったような、ちょっとばかり複雑な気持ちになる。


「俺も今、色々押し寄せてて混乱してて……。一旦整理したい、から……勝手でホントごめん。でも、ちょっと時間が欲しい」


「あ、時間ね。時間。私もあった方が嬉しい」


 先ほどは勢いのまま告白までしてしまおうと思ったけれど、時間が貰えるのであればそれに越したことはない。何しろ話というものは順番が大事なのだ。しっかりと組み立てる時間ができるのは有難いことである。

 というわけで、お互い合意の上で保留。逃げではなく戦略的撤退、あるいはより良い未来への転身と言ってほしい。

 ムチャクチャ気まずい沈黙の中、一緒に馬車へ。


「エルフの方が先に出てきたのに、お2人がなかなか出てこなかったから心配したんですよー」


 と、御者に言われてしまった。心配をかけて申し訳ない。

 そのまま流されるようにまずはロウヤの元へ。馬車はアデム商会所有なので当然と言えば当然だ。


「なるほど、ここ最近の妙に強い魔物はそのせいで……」


 ロウヤには渡さない情報はあったけど、嘘はナシで概ね正直に報告した。いつも良くしてくれる彼にはできる限り誠実でありたい。ほとんどがアリスに会いたい一心のウォルナーのせいで間違いないわけだし。

 その辺のつじつま合わせはカナタが上手くやってくれた、と思う。


「他ならぬお2人のお話です、間違いございませんでしょう。関係各位にもそのように伝えておきます。何はともあれ、お疲れ様でございました」


 なんとなく含みのある笑顔を向けられた気がする。……旅で手に入れた技術を生かしてまた何か納品しておこうと心に決めた。

 その後、アデム商会主催の慰労会に参加することに。


「それでは、無事討伐を祝しまして乾杯」


「「「「「乾杯!!!」」」」」


 ロウヤの音頭に続いて大勢の声が重なる。

 慰労会には人魚が参加することもあって、新たに建てられた別館が会場となった。なんと建物の中に砂浜が作られている上、外海に繋がる水路も設置されており、人魚にとって安心して海底から出て来られる場所になっているのだ。お陰で今回あまり交流のできなかった人魚たちとも話すことができた。

 波打ち際にはテーブルがいくつも置かれており、綺麗に盛り付けられた料理や色々な種類の飲み物がズラリと並んでいる。陸の食べ物にすっかり魅了された人魚たちは、早速近づいていって思い思いに楽しみ始めた。

 一方、フィッシャーを始めとする地元の漁師たちは、初めて見る人魚に遠慮気味だ。手元のグラスもあまり進んでいないようである。

 しかし、そんな空気をリエルが気にするはずもなく。


「ヘイヘイ、そっちのオジサンたちもカンパーイ! ってか、こっち来てくれないとアタシら陸上がるのマジきびぃって~。来て来て! はい、カンパーイ!」


 と声をかけまくっていた。

 お姉さま人魚たちは少々遠巻きだが、若い人魚たちはこれを機に人間との交流が進むかもしれない。

 そして、そんな騒がしい一角から離れたところで飲んでいたのは長老とガンダルフだった。


「意外とあの2人話が合うのかな」


「……そうかも」


 折を見て2人には互いがセイジュウロウの知人であることを話していた。実際にはどちらも知人と言うには浅からぬ間柄なのだが、それだけに思うところがあるかもしれない。なるべくサラリと話したつもりだったが、幸い揉めることもなく酒を酌み交わす仲になったようだ。

 ガンダルフが絡むことなく静かに飲んでいることが物凄く意外だったが。


「ヘイヘイ、ババ様もオジサンもカンパーイ!」


「うわっ、また出やがった!」


「……リエル、アンタどのくらい飲んだんだい!?」


 そんなところに空気を読まないリエルが突撃していったので、色々台無しにしてしまった感は否めない。


「乾杯突撃機の回収した方が良くない?」


「そうするか」


 苦笑を浮かべたカナタとともに、リエルの元へと向かう。


「リエル~。私とも乾杯しよ」


「ほら、果実水もらってきたぞ」


「あ~~! 2人とも、マジお疲れ~。ってか、マジで助けに来てくれてバリ感謝! ってことでカンパーイ!」


 リエルはやはり結構飲んでいたようで、アルコールの香りがする。カナタが手渡した果実水で少しは酔いが醒めると良いのだが。


「リエル、飲むと普段より更に明るくなるんだな」


「底抜けの明るさってヤツかしら」


「マジ? ビッカビカ? ヤバーイ、後光さしちゃーう」


 そんな風にケタケタと笑っていたリエルだが、唐突に真顔になった。


「2人とも、マジありがとうね。2人がいなかったらクラーゲンの正体も村のコたちが苦しんでる毒もわかんなくて激ヤバだったから」


 そう言ってイエナとカナタに深々と頭を下げてくる。


「やだ、顔上げてよ! でも、どういたしましてって言っておこうかな」


「だな。リエルはいつも通り明るい方がいいよ。……まぁ離れん貝を鳴らしたタイミングについてはちょっと抗議したい気持ちはあるけど」


(……そういえば、離れん貝が鳴る直前、カナタ何か言おうとしてたっけ?)


 色々と夢中で、今の今まで忘れていた。あのとき彼は何を言おうとしていたのだろうか。


「えっ!? もしかして2人のラブラブボンバー邪魔しちゃったカンジ!? ゴッメン、アタシもしかしてイナイルカに蹴られるカモカモカモシカー!」


「ちょっと待ってリエル! あなた酔ってるわね!? 酔ってるのよね!?」


「イルカに足ないだろ……いや、ドルフィンキック……?」


 と、そんな一幕もありつつ、概ね楽しく慰労会は終わった。後半はだいたいリエルに振り回されていた気がするけれど。

 お姉さま人魚に回収されたリエルを見届けてから、ややぐったりして宿に戻る。


「……モフモフはさいこう」


「めぇ~~~」


 宿に戻ってまずするべきことは、愛するモフモフたちへの報告、ご飯、ブラッシングだ。ただ、ちょっとばかりリエルの勢いと、本日起きた諸々で疲れていたイエナはブラッシングもそこそこにモフモフさせてもらっている。

 やはり、モフモフは最高である。もっふぃーはとてもデキる子なので、主人の疲れを察してか大人しくモフモフさせてくれた。


「ゲンも良い子で留守番ありがとうな」


「メェッ!」


 存分に構い倒し、今日あった出来事の共有もした。

 あとは普段であれば地下室から上がってきて、それぞれフリータイムに突入なのだが。

 コポコポという音を立てて、カナタがお茶を煎れてくれた。いつもならリラックスできるはずのお茶の香り。けれど、この後のことを考えるとあまりリラックスはできなかった。


「じゃ、倉庫の話の続きをしようか」


【お願い】


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