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204.作戦の最終調整

 ロウヤ経由で地元の漁師に協力を打診したところ「そのままだと、クラゲは引っ張ることが難しいんじゃないか」という指摘を受けた。

 アデム商会で懇意にしている漁師のフィッシャーという人だ。


「実際に見てないからなんとも言えないが、ロープだと滑って難しいんじゃねぇか、と思います。一旦浮かせられるんだったら、船とか、板でもいい。とにかくそういった物に一旦落として、それを陸に引き上げる方がいい……んじゃねぇでしょうか」


 目の前にロウヤがいたため、ちょっぴり不自然な敬語混じりだったが、指摘そのものは大変有益である。勢いよく頭を下げて礼を言い、そのまま試作を手伝ってもらうことになった。折角本職がいるのだからアドバイスを聞きながら作った方が効率が良い。アデム商会の古い倉庫を製作場所にと提供されていたので、一緒に移動して開始だ。

 ああでもないこうでもない、と意見を出し合いながらモノを作り上げるのはとても楽しい。


「陸に引っ張り上げるならやっぱり板の方が抵抗少ないでしょうか……」


「下に丸太を置いておけばそこはどうとでもなるだろ。それより、浮いたヤツを落としたときに板ならそのまま沈むんじゃねぇか? 衝撃で割れるってことも考えられる」


 こんな具合に話し合いながら作業を進めていく。ロウヤが不足しそうな資材をあらかじめ手配してくれていたお陰であっという間に出来上がった。

 流石のイエナも船作りの経験はない、ということで浮きを付けた一枚板を準備。その上にクラーゲンをできるだけゆっくりと降ろし、陸に引っ張り上げるという形に落ち着いた。


「……あの、ところで……作業早すぎませんかね?」


「……他言無用でお願いいたしますよ。そうですね、どうやら形も決まったようですし、そろそろお送りいたしましょう。フィッシャー様もなにかとご多忙でしょうからねぇ」


「いや、あっしは――」


「どうぞご遠慮なさらず。今後も良きお付き合いをさせて頂きたいものです」


「は、はい……」


 というやり取りがあったことを、作業に夢中なイエナは気付かないのだった。


「こんなに大きな物作ったの初めて! すごーい! 不備はないと思うけどちょっと緊張しちゃうわね。最後にもう一回点検しておこうかな」


 普段はルームの中に収まるサイズでなければ作れなかったので、大物製作にウキウキしている。製作手帳にない物を作るのも久しぶりだ。全ての設計をイチから自分でやるのもまた楽しいものである。

 イエナが上機嫌で最終チェックを行っていると、別行動していたカナタとガンダルフがやってきた。


「うおっ? またなんか作りやがったのか。なんだ、こりゃあ……」


「これだけ大きいのは初めてじゃないか? お疲れイエナ」


「2人ともおかえりー。良さそうな場所あった? あとケンカしてない?」


「案の定つっかかってきたけどスルーしたから問題ないよ。あと、いい感じの砂浜もあった。あとはアデム商会さんの方で誰も使ってないか、最終チェックしてくれるって」


 2人は最終的に戦闘を行う場所の下見をしてきたのだ。相性がよろしくないのか、それともファーストコンタクトが最悪だったせいか、やっぱり多少衝突したらしい。


「つっかかってねぇよ。手合わせしろっつっただけだろうが」


「その必要性を感じない」


 冷たいカナタというのは中々見ることがないので、乙女心が出てきてちょっとニマッとしてしまいそうになる。


(ふふふ、レアなカナタだよね。私にももっふぃーたちにもすっごく優しいもん。いや、この扱いをされたいわけではないけどー)


「で、この大物はどうしたんだ?」


 カナタに話を振られ、慌てて今までの経緯を話す。


「クラーゲンが滑って縄がひっかからないだろう、か。言われてみれば納得だよな、クラゲだもん。頭の中で考えてるだけじゃダメってことか。やっぱりその道のプロに聞くって大事なんだなぁ……」


「うんうん。これも、フィッシャーさんからアドバイスを貰いながら作ったのよ。……ってあれ? そのフィッシャーさんは……」


「先程お送りいたしました。中々ご多忙な方ですので」


 傍らに控えていたロウヤがニッコリ笑顔で答えてくる。


「そうなんですか。ちゃんとお礼言いたかったのに……。でも、お陰でクラーゲンをきちんと陸までエスコートできると思います!」


「エスコートって……陸揚げされたら死ぬだけだろうがそのクラゲ……」


 ボソリとガンダルフからツッコミを受けるが気にしない。というか、ガンダルフがいるなら丁度良い。


「あ、そうだ! ガンダルフ、今の武器の具合はどう? 見せて! そんで今回は壊れないように作るから! ほら、出してはやくはやく」


「うおっ!? わかった! わかったから、そんなグイグイくるんじゃねぇ!」


 イエナにせがまれてインベントリから取り出した武器は、やはり多少傷んでいた。


「ぐぬぬ、私の腕よりガンダルフの破壊力の方がまだ強いのね」


「どんな勝負だそりゃ。今までで一番長持ちしてんだぞ。スペアに1つも手ぇ付けてねぇくらいだからな」


「そうなの!? なら嬉しいわ」


 だとしても、やはり破壊されないように手を尽くすべきだろう。ガンダルフから使い心地を聞きつつ、武器の改善を図る。

 楽しそうにガンダルフと話すイエナを、ちょっぴり面白くなさそうな顔をして見ているカナタ、という図に気が付いていたのはロウヤだけだった。


「これで大体の準備は整ったと思われます。いつ決行が良いでしょうかね」


 それぞれ一段落したと思われるところで、ロウヤが皆に問いかける。


「……早い方がいいよな」


「ガンダルフの武器調整だけだったらすぐ終わります! まずは倒すこと優先で改良は時間をかけたっていいしね」


 最初に応じたのはカナタだった。次いでイエナも元気良く答える。 

 ちなみに、まひなおしはこれまでの時間でかなりの量を作り終わっている。手持ちの材料だけだと少々心許なかったのだが、流石はアデム商会。当然のように材料を提供して頂き、完成品は全てお買い上げと相成った。勿論元会頭、ロウヤの差配である。

 イエナとしては「リエルからヘルプを貰ったし、友達を助けたいのだからお金はいらない。むしろ材料費を払いたいくらいだ」と主張したのだが、案の定通らなかった、という経緯があったりする。彼との交渉に勝利するにはまだまだまだまだ経験値が足りない。一生かかっても足りる気はしないのだが。


「時間かけるつもりかよ……お前が凝ったらどんだけかかるんだ? まぁいい。俺は倒すだけだからいつでも構わねぇ」


 ガンダルフだけがげんなりとした表情で応じたが、決行自体に否やはないようだった。それぞれの答えを聞いて、ロウヤは大きく頷く。


「うちのお抱えの天気師の予報によりますと、明後日以降から徐々に荒れ模様になるようです。天候は良い方が不測の事態にも備えられるでしょう。ですから、あとは誘導する人魚の皆様さえよろしければ、明日決行するのが最善かと」


「わかりました!」


「了解です。ガンダルフ、予備の武器も全部出して!」


「わぁーったよ。……おいイエナ、引っ張んなって!」


 三者三様の返答を聞いて、ロウヤは今一度大きく頷く。


「では、私は長老様と漁師の方々にその旨伝えて参ります。もし変更等ございましたら宿へご連絡いたします」


「わかりました。何から何までありがとうございます」


「皆様明日までに英気を養っておいてくださいね。ガンダルフ、あなたは今夜くらい酒を控えるように」


「一言多いんだよ、てめぇは!」


 普通に飲む気だったらしいガンダルフは釘を刺されて不満げな怒鳴り声をあげたのだった。

【お願い】


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