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203.知り合いだったんですね

「やっぱり! ガンダルフ!」


「え? ガンダルフ!?」


 イエナの声に、考え込んでいたカナタが顔を上げた。ガンダルフ本人はと言えばあんぐりと口を開けて驚いている。


「もしや、コレとお知り合いなのですか?」


 横に立っていたロウヤは、珍しくぞんざいな口ぶりでガンダルフを見返している。先ほども感じたのだが、もしかしたら彼とガンダルフは親しいのかもしれない。


「はい。カザドに行った際にお世話に……お世話しました?」


「お、おい。世話したのはこっちだろうが!」


「え? うーん……カナタどっちだと思う?」


「俺らが世話したな。間違いない」


「てめぇ! 一発殴らせろ」


「やだ」


 普段は大人びて見えるカナタも、対ガンダルフとなるとちょっと子どもっぽくなるんだったなぁと思い出して、イエナはこっそり苦笑した。ロウヤですらいつもの丁寧な物腰が乱されている様子だし、ガンダルフには気張った空気を和らげるような才能があるのかもしれない。

 ぎゃあぎゃあと言い争い、というか一方的にガンダルフがつっかかっているのを他所に、ロウヤに話しかける。


「ロウヤさんもお知り合いだったんですね」


「腐れ縁でございます。粗暴で品もありませんが、力は一流ですので。また、浅慮故にうっかり口を滑らせて情報を漏らすような真似もしでかしかねませんが、そこは私の方で契約しておきますのでご安心ください」


「えっ……いいんですか? っていうか、ガンダルフそれ承諾するんですか?」


「ご心配には及びません。彼はアデム商会にも、私個人にも借りがありますので」


「ロウヤ! テメェにはもうねぇだろうが!」


「ガンダルフ……この世には利子というものが存在するのですよ」


「はぁ? わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇぞてめぇ」


 このやり取りだけで色々と察することができた。恐らく、いつも通り武器を壊したとかでガンダルフがロウヤにお金か、それに相当する武器を借りてしまったのだろう。とても優しそうなロウヤだが、その根っこは、というか、骨の髄までバッチリ商人だ。出会い方が違えば自分もこのような関係になっていたのかも、とちょっと遠い目をしてしまうイエナだった。


「あ、でも今回の作戦にガンダルフがいてくれたらすっごく心強いわ!」


 とはいえ、ガンダルフが強力な助っ人になるのは間違いない。強すぎて武器が保たないという欠点はあるが、そこはイエナが補えばいいだけ。むしろ、職人としてはリベンジマッチとさえ言えるかもしれない。何しろ前回のボルケノタートル討伐では製作した武器を次々と壊されたのだから。


(今度こそ、ガンダルフの馬鹿力に負けない武器を! うん、燃えてきた~!)


「お? おう、そうかよ」


「まったく、そっちでワチャワチャしてないであたしらにも紹介しておくれ」


「これは大変失礼いたしました。こちらは『武器壊し』という二つ名を持つ野蛮人でして……」


「おいてめぇ、まともに紹介する気あんのか? って人魚!?」


「あははは、今まで気付いてなかったの? ウケるー!」


 まるでドタバタコメディのようなやり取りが続いたが、リエルというムードメーカーのお陰もあってドワーフと人魚という異色の顔合わせは平穏の内に済んだのだった。


「ったく、アコギな手で俺を縛りやがって……」


 約1名平穏ではない者もいるようだが。


「でも、ガンダルフはロウヤさんにそれだけ信頼されてるってことじゃないの。いくら腕っぷしが強くても信用できなきゃ、こんな大事な取引先に紹介なんてされないわよ?」


 こんなに有難いことってないのに、という気持ちで嗜めるように言うと、一瞬場が静まり返った。ロウヤもガンダルフも気まずそうに目を逸らし合っている。


「え? あれ?」


「全く。若いってのはいいねぇ。それより、自己紹介も終わったんだ。次の段階に進もうじゃないか。カナタ、倒す算段ってのはついたって言ってたね?」


 妙な空気になりかけたところを、長老がどうにか切り替えてくれた。流石の手腕である。あのロウヤもドワーフであるガンダルフも、長老から見るとまだまだ若いというのがなんだか面白く感じた。


(あ、そういえば、長老とガンダルフってセイジュウロウ繋がりなのよね。落ち着いたらそのこと伝えても良さそう)


 そんなことを考えているうちに、話を振られたカナタが今回の作戦を話し始めた。


「クラーゲンの最大の難点は、海にいることです。物理攻撃も魔法攻撃も海の水が阻んでしまう。しかも逃げられたら人魚でもない限り追いかけることは不可能です」


「アタシらがおっかけたら今度は返り討ちだしね~。そんでそんで?」


「うん、リエルはマジで無茶しないでくれ。絶対だからな? で、話を戻しますね。えぇと、海が難点なんだったら、クラーゲンを陸に引っ張り上げればいいというのが俺の出した結論です」


 カナタの言葉にロウヤや長老が難しい顔をした。


「理屈はわかります。ですが、そんなことをどうやって?」


「網で引き上げるにしてもその間に麻痺毒は吐くんじゃないかい?」


 疑問を口にする2人とは対照的に、ガンダルフが訳知り顔で指をパチンと鳴らした。


「わかった。イエナのアレだな?」


「そういうことだ」


 カナタから目くばせを貰い、イエナも発言する。


「私、旅の間に重力魔法を覚えたんです。ガンダルフとカナタも見ていますが、大きな魔物を宙に浮かせることもできました。なので、今回も同じ要領でクラーゲンを宙に浮かせたいと思います。ただ……私にできることは浮かせることのみですので」


「そこでガンダルフの出番かな」


「縄でもひっかけて引っ張るってことか? ……ひっかかるか?」


「なるほど、そのような作戦ですか。でしたら、地元の漁師に声をかけてみましょう。ガンダルフにやらせると縄を引きちぎりかねない」


「おめぇ、一言多いんだよ!」


「マジ!? めっちゃ怪力じゃーん。それ見てみたいかも~?」


 ロウヤの発言にガンダルフがキレると、リエルがケラケラと笑い飛ばす。そのお陰でガンダルフがスンッとなった。流石ムードメーカーリエル。


「作戦はかなりシンプルです。イエナが浮かせて、地面に引っ張り上げて、あとはタコ殴り。引っ張り上げることさえできれば俺とガンダルフがいれば十分だと思います。倒す過程で麻痺毒が地面にぶちまけられることは考えられるので、場所は選ばなきゃいけないですけど」


「それなら海への影響も少なそうだね。助かるよ」


「ねーねー。それってさぁ、海岸の方まで誘導しなきゃなくなくない? アタシやる?」


 そうなのだ。どうやってクラーゲンを誘導するかとか、どの地点で倒すだとか、そういったことはまだ決められていない。


「そうなんだよな……そういうちょっと危険な役目があったり、まだ詰め切れてない部分もあります。なので、相談に乗って頂きたいのですが」


「勿論ですとも」


 ロウヤがしっかりと頷いてくれた。そうして、作戦会議が本格的に始まった。

 若干1名を除いて。


「だぁら、こういう場で俺が役に立つわけねぇだろうが……飲みに行かせろよ、馬鹿がよ……」


 ぐったりしているガンダルフの泣き言は、またしてもリエルに笑い飛ばされたのだった。


【お願い】


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