202.クラーゲン討伐作戦会議
「たっだいま~。あったよ~。海沿いにけんきゅーじょって感じの建物~。でもさぁ、全っ然無人じゃなかったんですけどぉ~?」
「危うく捕まるところだったわ……リエルったら私たちの話なんか聞かずに突っ込むものだから」
「長老~! リエルのお守り2人じゃ無理ですって~」
リエルと、彼女に付き合って偵察をしてくれた人魚たちが報告にきてくれた。半分はリエルの暴走についての泣き言のようだけれど。それについては大変お疲れさまでした、と思う。
だが、それよりも注目すべきなのは。
「無人じゃなかった!?」
カナタが驚きのあまり大きな声を出した。それに対してリエルが唇を尖らせる。
「そだよー。バリバリ油断して行っちゃったからマジヤバかった~」
「油断するな、気をつけろって言ったじゃないの!」
「リエルはマグロなの? 動かないと死ぬの? このお馬鹿! 長老~あたしら戻りますからね~」
「あぁ、悪かったね。ただ、この件が解決するまではまたあるかもしれんから、そのときはよろしく頼んだよ」
えぇ~という声が聞こえたが、最後には楽し気に笑いながら付き添いの人魚たちは帰っていった。文句は言うけれど、引きずらない感じがなんとも人魚っぽい。
「無人じゃない……まだ研究所は機能している、ということはイベントも起きていない。なのに、脱走はしている……リエル!」
暫く考え込んでいたカナタだが、何かを思いついたようにリエルを呼ぶ。
「ほいほい」
「研究所に人がいたってどこで確認したんだ?」
「え、普通に海に面してるところは入れたんだよね。こう、なんてーの? 鉄格子みたいなヤツはあったんだけど、よく見たら地面側? に穴あいててさぁ」
「鉄格子は健在で、地面に穴……? ……えーと、こういう感じ?」
リエルの話を聞きながらイエナが想像図を描いて彼女に見せる。
「えーっとー。あ、ちゃうちゃう。んと、この鉄格子は地面に刺さってて~、で、穴がパッカーンしてたのがこの辺でさぁ~……穴ってか、そこの通路みたいなヤツのでかいバージョンっていうか」
その図をリエルに修正してもらい、ようやく詳細が判明した。
まず研究所の地下室に当たる部分が海と繋がった洞窟のような形になっていたらしい。そこに鉄格子を設置し、クラーゲンを逃がさないように飼育していた、と考えられる。鉄格子はきちんとはまっており、老朽化もしてなかったそうだ。だが、たった今付き添いの人魚たちが通っていったような海底に繋がる通路が開いていたという。
「……どういうことだ?」
「アタシにはさっぱりプー。見たことはバッチリ教えたからファイトー!」
「うん、ありがと。確かに貴重な情報だわ」
「あ、あとあと。村に寄ったときに、うっかり推定クラーゲンの毒喰らっちゃったヤツに話聞いてこれたよ。やっぱねぇ『毒浴びたときはパニクッちゃったけど、よく考えれば痺れて動けなくなってたかも』ってさ。あ、イエナそんでさぁ。まだちょっぴりシビレビレしてたっぽいから、まひなおし渡しちゃった、メンゴ~」
「それは全然いいのよ! むしろ、困ってる人に渡すのは当然だわ。……それで、まひなおし効いたの?」
「うん、ばっちし! オケマル~~」
リエルが両手で大きく円を作る。困っている人が減るのは良いことだ。
しかし、はた、とあることに気付く。
「……あれ? じゃあ、リエルはまひなおしナシでクラーゲンがいるかもしれないところ泳ぎ回ってたってこと?」
恐る恐る尋ねると、リエルの目が勢いよくジャバジャバと泳いだ。
「……わはは」
「ちょっとー!?」
「いやいや、結果オーライじゃん? 残ってた麻痺も治ってハッピッピー! オケ!」
「それは結果論だ、馬鹿たれ。……だが、結果として相手が麻痺毒を使うことも、まひなおしが有効なことも証明されたな。相手はクラーゲンで確定していいと思うが、カナタの考えは?」
「そう、ですね。クラーゲンであることは確定でいいかと思います。それであれば昨日イエナと対応策は考えました。ただ、それでも俺だけじゃ力が足りないので、ロウヤさんとも相談したいところですが……。ただ、そう、なんで脱走できたかという部分が……なんでだ?」
カナタは口元に手を当てて考え込む。確かに昨日聞いたイベントの内容と比べると、脱走の流れが大きく異なっている。
(何が起きてるんだろう。鉄格子じゃなく地面の方にクラーゲンが通れる通路がって……正直地面を掘る方が手間だよね)
もし、クラーゲンを脱走させようと何者かが動いたとして。地面を掘るよりも鉄格子を破壊する方が、労力が少なくて済むはずだ。クラーゲンは大きなクラゲと聞いているから、鉄格子を数本壊せばその柔らかな体でにゅるりと出てこれる気がする。わざわざ地面を掘った理由があるのだろうか。
「失礼いたします。ちょうど今、最適な協力者が到着しましたので皆様にご紹介を……と、思ったのですが何やらお取込み中でしょうか?」
皆が考え込んでいたところに、ちょうどロウヤが訪ねてきた。協力者を連れてきたとのことなのだが、どういった人物だろうか。信用ができて、かつ腕利きだと今回の作戦ではとても有難いのだが。
「協力者? まぁアンタがわざわざ紹介するくらいだから信用できるんだろうさ。それは構わないよ。……その前に一つ聞いてもいいかい?」
「はい、なんなりと」
「ウチの若いのがねぇ、あの魔物の手がかりがないか、と辺りを捜索してたんだよ。そしたら海岸沿いに妙な研究所みたいなのを見つけた、と言っていてねぇ。デカイ水棲生物を飼ってた形跡があるとか」
「……なるほど。具体的に場所はお分かりになりますか?」
「えーっとねぇ。あっちにグワーっと泳いでったあたり的な?」
リエルが身振り手振りで示すも、流石にそれだけではわからない。ロウヤの付き人がさっと懐から地図を取り出してくれたため、それで確認する。
「これは隣領のロイーワ伯爵の研究施設ですね。ただ、実態はその寄り親のオーショック侯爵に貸し出している、と聞き及んでおりますが」
「そいつらはどんな人間なんだい?」
「そうですね……。この度の人魚の村との取引に大変興味をお持ちです。元々、ポートラの港町で盛んな交易にも多大な関心を寄せておいででした。この港町を治めるトーモマ伯爵に様々な交渉を申し入れていらっしゃるようで」
ロウヤの言葉はとても丁寧ではあるが、声音の端々からトゲがはみ出ている。お貴族様の悪口を大っぴらには言えないという人間臭い事情を長老は汲み取ったらしく、苦々しい顔をした。
「地位ってのはめんどくさいねぇ」
ただ、ロウヤの話からすると、このいかにも胡散臭そうなお貴族様がどうにかなったという情報は今のところないらしい。つまり、このイベントの発端である悪徳貴族の処刑、というのは起きていないのだ。
(イベントは起きていないのに、魔物だけが逃げている。ううん、誰かに逃がされている。一体何が起こってるの……?)
カナタもそのことに気付いているようで、難しい顔をして考えに耽っている。
「まぁいいさ。それで? 協力者だったかい? こっちも魔物を特定できそうだから人手は有難いが……どんな人間なんだい?」
「強さは保証いたしますよ。ただ、少々扱いづらいことも懸念されますので、何かあれば私の方に。では、今連れて参りますので」
そう言ってロウヤは一旦退室する。すると、扉の向こうで何やら騒いでいる声が聞こえてきた。
「いや、いらねぇだろ。顔合わせだとか。俺は魔物を倒せばいいだけだろぉが」
「今その方法を考えているところだ、と言ってるだろうが。討ち漏らしは許されん」
ロウヤの口調がかなり砕けている。もしかして、彼と親しい人間なのかもしれない。だが、それよりも気になったのが、その声だ。
なんというか、どこかで聞いたことある、ような。
「だから、俺に作戦なんぞ考えられるわけねぇだろ。勝手に誰かが立てて命令しろよ。討ち取るだけはやってやるからよ」
荒々しい口調に、作戦を立てられないと胸を張って言うところ。思わず誰かさんを連想して、イエナは思わずその正体を確かめに行く。
「あ、やっぱり!!」
そうっと開けた扉の向こうには、思った通りの人物がいかにもめんどくさそうな顔で立っていたのだった。
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