201.もしかして討伐できるくない?
「えー? デカビックラゲってこと? まじぃ? あ~~、でも確かにそれっぽいポイポイポピーかも」
「ポイポイポピーかぁ。そんな魔物いそうッポイピーだしね。じゃあやっぱり『まひなおし』は役に立つかも」
「イエナ、飲まれてるぞ。ちょっと待って、落ち着いてくれ」
「若いの同士、会話成り立ってる……んだろうよ。きっと。知らんけど」
「待ってください長老様。俺も若いはずなんです!」
ちょっとしたワチャワチャはありつつ、リエルたちにカナタの推測を話す。だがあくまで現時点の推測であり、確定情報ではない。
「そんならさぁ~。アタシがパパッと行ってバーッて確認すれば良くない?」
「え? いや、それは危ないだろ」
「そうよ。確認はそれこそ冒険者ギルドに依頼するとか……」
今人魚の村を困らせている魔物が、カナタが推測したクラーゲンなのだとしたら、海辺に研究施設があるはずなのだ。クラーゲンはそこから脱走してきたのだから。もぬけの殻になった研究施設の確認と、毒のサンプルでもあればほぼ確定と言って良いだろう。
とはいえ、リエルを行かせるのは危険極まりない。「もぬけの殻になった」は、現時点ではあくまで推測の域を出ていないのだ。怪しさが大爆発している研究施設に人魚が行くだなんてカモモがネギを含めた具材を背負って鍋に飛び込むようなものだ。
だが、イエナたちの心配をよそにリエルはケラケラ笑っている。
「だいじょびだいじょび~。海で最速っていえばアタシら人魚だし? なんかあってもガチで逃げ切れるって~。ってワケで、いってきマッスル~」
流石リエル。即断即決即行動である。
が、しかし、それはあまりにも早すぎる。
「えっ、ちょ、待って!」
イエナが止めようとするも、すでにリエルは外海に出る通路まで泳いでいた。何度でも言うが決断も行動も早すぎる。
「ちょっとお待ちリエル!」
「んえ~?」
長老が大きな声を上げて、やっとリエルは止まった。危ないところだった。
「まったく……一人で暴走するんじゃないよ! 最悪アンタが攫われでもしたらどうするんだい。ただでさえデカい魔物対策でてんやわんやなんだよ。その上でアンタの捜索もだなんてどう考えても尾びれが回らんよ」
「だから~、捕まらなきゃいいだけじゃん~?」
「やかましい。どうしても行くってんなら村に寄ってあと2人は連れて行きな。ついでに離れん貝も持って行くんだ」
「え~? まぁでも確かにそっちの方がちょい手間だけど安全確実っポイポイ?」
長老からの的確なアドバイスに胸を撫でおろすイエナとカナタ。
リエルが一旦ストップしたので、ついでとばかりにイエナもインベントリからとある物を差し出す。
「リエル。どうしてもって言うならこれも持ってって」
「へ? ナニコレ?」
「一般的なまひなおしと、毒消し。とりあえずこの2つがあればうっかりその魔物と出遭っちゃっても少しは安心でしょ」
「イエナ天才!? てゆーか、それって観察チャンスじゃーん。クラゲかどうかじっくり見て……」
「危ないマネはダメ! これはあくまで運悪く遭遇しちゃったとき用よ! 心配してるんだから!」
「……うっす」
強い口調で言えば、流石のリエルも神妙な顔をした。
とはいえ、そんな表情がもつのも十数秒のこと。イエナからまひなおしと毒消しを受け取ったあとはいつもの笑顔に戻った。
「お土産、期待しててねー!」
そう言ってザブンと外海へと繋がる通路へ泳いでいった。
「……お土産……毒のサンプルかしら?」
「普通に偵察結果とかじゃないか? ていうか、無事に帰ってきてくれるだけでいいんだけどな。ほんと、危なっかしいというか」
「アレがすまんな……。さて、気を取り直して、相手がそのクラーゲンとかいう魔物だと仮定してこれから話を進めていこうじゃないさ」
リエルを見送り、長老が話を再開する。
「カナタ、アンタはアレを倒せそうかい?」
「倒すだけであれば……」
昨日先に話を聞いていたイエナはカナタの言葉にウンウンと頷いた。
クラーゲンを倒すというイベントは、そこそこなレベルの冒険者が複数人でパーティを組んでいれば難なく成功させられるらしい。そして「ゲームハイジン」なカナタは幾度となく1人で倒してきたのだという。
大規模討伐対象の大型魔物とは比べるべくもない弱さらしい。
ただし、それはあくまでカナタの世界にあるゲームの基準だ。現実世界のこちらではそこまで上手くいくとは限らない。
「その口ぶりだと普通に戦うのはまずそうだね? 何があるんだい?」
「あいつが撒き散らす毒が問題ですね。今でも問題になっているのでしょうけれど、戦闘になったら今の比ではないくらい撒き散らすことが予想できます」
魔物にとっては命の危機だ。どんな手を使っても攻撃してくる敵を撃退しようとするだろう。その撃退方法の中に毒の撒き散らしが含まれていないわけがない。
「まひなおしを海に撒いたとしても、今度はそのせいで海の生態系に悪影響がでちゃいそうね」
麻痺毒の中和だけであればどうにかはできる。しかし、それはあくまで人魚を含むある程度のサイズの生物にだけ。海に棲む魚や微生物辺りまでの影響はどうなるか薬の製作者のイエナにも予測がつかない。
「それは長老として飲み込めんな……しかし、あいつを野放しにするわけにも……。ちなみにこの辺りの冒険者に協力を求めた場合はどうなりそうだい?」
「そうですね……俺1人よりは理論上早く倒せるとは思います。でも、その場合イキマモリは使わない方が無難ですよね。ってことは船上での戦いになる……倒されるかもしれないとなったときにクラーゲンが逃走する可能性もあるので」
カナタの知識では、魔物が逃げるなんてことはごく一部の種族を除いては有り得ない行動らしい。でも、イエナたちはストラグルブルから逃げようとする植物系魔物を目撃している。クラーゲンも同じように逃げる可能性は否定できない。
「ふむ……海の中に逃げられれば人間になす術はないか……。かといって、人間のパーティにイキマモリを貸し出したとしても、きちんと戦えるとは限らないしねぇ」
「そもそも泳げるかっていう問題から始まりますからね」
「私が海中に行ったときは、ずっともっふぃーに頼ってたものね……。しかも、水の抵抗とかもあるから海中で戦うのは難しそう」
「「「…………」」」
3人の間に沈黙が流れる。
「ち、ちなみに弱点とかはないの?」
「それが、特にないんだよな……。脅威になる攻撃も麻痺毒だけで、まひなおしさえあれば問題はなかったんだ。環境度外視の世界だったから」
早く倒せるような弱点はなし。倒そうとすると迷惑な麻痺毒を撒き散らし、しかも逃亡の恐れもある。
「め、めんどくさ……。いっそのこと陸に引き上げられたらいいのに」
「あぁ、海の魔物だから陸に上げただけでダメージ受けてくれそうだな。まぁ麻痺毒は撒き散らすだろうけど」
「人が使ってない土地なら許してもらえるんじゃないかしら? あとで中和することはできると思うし」
「それは確かに。でもまぁ実際問題としてそんなでかい魔物を陸に引き上げるだなんてそんなことができるわけが……」
そこで一度カナタの言葉が止まり、ジッとイエナを見つめてくる。
「……もしかして、できるくない?」
イエナの口から飛び出てきた言葉には、リエルの口調が移っていたのだった。
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