199.再会
案内された場所に行くと、そこは室内なのに海だった。それ以上に衝撃なのは。
「あれ? 固まってる? 寝た? マジ~? 超ウケるんですけど~。起きて起きて~!」
「「リエル!?」」
そこにはイエナたちに離れん貝でSOSを寄越したはずの本人、いや、本人魚のリエルがいた。
「ヤバ~。なんか逞しくなってるくない? 会わなかったのなんてほんのちょっとの期間じゃん? ニンゲンって皆そうなの?」
リエルがいるのは間違いなく案内された建物の中だ。しかし、一歩足を踏み入れると砂地が広がっており、その先には波が打ち寄せている。どこからどう見ても砂浜だった。
リエルはその砂の上で尾びれをビッタンビッタンさせて興奮している。久しぶりの再会を喜びたいのは山々だが、思ってもいなかった登場に度肝を抜かれてしまった。
「えっ!? リエル、村は!? っていうか、離れん貝どうしたの? なんかあったってことよね?」
「えーとまずは久しぶり。あと人間皆こうではないって否定しておくな。それより、緊急事態とかが起きてるのか?」
「待って待って! いっぺんに喋られてもアタシ耳2つしかないからぁ~。そんでえーと、なんだっけ?」
意気込んで尋ねてくる2人が可笑しかったのか、リエルはケラケラ笑いながら水辺の方へ向かっていく。マイペースというかなんというか。ただ、彼女にとっては陸の上より水の中の方が落ち着くだろうことはわかっている。
(確かに久しぶりすぎて積もる話あるのよね。沢山おしゃべりしたーい……けど、今優先するべきは呼びだされた理由を知ることだわ)
「全く、アンタに任せてたら積もる話ばかりで本題にいつ入るかわかったもんじゃないね」
「あ、長老様! お久しぶりです」
「ご無沙汰してます」
アデム商会の言付けから、長老がいるのはある程度予想できていた。そしてリエルには申し訳ないけれど、長老の方が説明には向いているだろうと思ってしまった。
「全く、リエルがすまないね。さて、聞きたいことが山ほどあるだろうが……何から話すべきか……まぁ、そこに座るといい」
長老に促されて気付いたが、砂浜には人間用の椅子とテーブルが設置されていた。
「もしかしてここが人魚の村とアデム商会の取引の場所ですか?」
「アタリだよ。お互いにやりやすい場所がどうにも選定できなくてね。なら作っちまえと商会の方でホントに作っちまったのさ。人間てのは皆器用なもんなんだねぇ。まぁ、あたしらは海に繋がってりゃ別にウワモノは構わないんだけどさ」
波打ち際は浅瀬に見えるが少し先に行くと、人魚専用の通路、というか海の深いところまで繋がっている大穴があるらしい。陸で何か異変が起きても人魚であればそこから逃げられることが決め手となったようだ。
今はここで数日に一度のペースで海ウールを中心とした取引をしているのだそう。
「だが、その雲行きがちょっと怪しくなってきてね……」
「そうそう、激やばピンチパンチって感じで離れん貝つかっちった☆」
「リエルの独断ってこと?」
「いや、一応あたしも事前に言われてはいたよ。止めなかったのだから人魚の村の総意ということになる」
長老はふかーい溜め息を吐きながら、それでもリエルの独断ではないと言い切った。なんとなく、苦労が察せられる。
「なんか……お疲れ様です」
「いいさ。それより本題だがね。転生者のカナタに質問だ。長い触手を持ち毒を吐く海の魔物に覚えはないかい?」
「えっ!? そりゃいくつか該当しそうな魔物に心当たりはありますが……まさかそんなのが現れたんですか!?」
カナタが驚いて声をあげる。イエナの感覚だと海にもそれなりに魔物はいるだろうという感じなので、そこまで驚くのが何故かわからない。
不思議そうな顔をしていたのが長老に読み取られたのだろう。人魚側の事情を説明してくれた。
「海にも魔物はいる。そもそも海スライムも魔物だしね。しかし、馬鹿みたいに強いのはあたしが生きてきた中でもいなかったのさ。そうでなきゃ戦闘能力がほとんどない人魚が生き残れるわけないだろう?」
「ね~。アタシらが武器持って戦うとかタコが武器もった方がまだマシかもじゃーん?」
「流石にそれはないでしょ」
「んまぁ、ほんのジョーク。人魚ジョーク」
どんなだよ、というツッコミはリエルには無駄だろうと一旦飲み込む。
「でも、強そうなのが現れてしまった、と。確かにそれは、俺が来た方が相手を特定できるかもしれませんね」
「あぁ。アデム商会の方でも色々と気を遣ってくれているが、何せ海のことだ。しかも、影響はまだあたしたちの村くらいにしか出ていなくてね。他の商会の航路なんかには影響が出てないもんだから」
「下手に話を広げるとアデム商会と人魚の独占契約に割り込んでくるヤツが出てきちゃいそうってことですか?」
「そういうことだ。……あたしは長老として、他の人間まで無差別に信用することはできんのさ」
今までの人魚の歴史からすると、不用意に人間を信用することは難しいだろう。一昔前まで人魚攫いが横行し、裏の世界で売買されていたのだという。だからこそ彼女たちは海の奥深くで交流を絶っていたのだ。
「話はわかりました。俺で役に立てるなら勿論頑張ります。……この世界に骨を埋める決意もしたばっかりだし。ただ、今の情報だけだと相手を特定することはちょっと難しいですね。もう少し特徴なんかはありませんか?」
「えっとねー、まずウネウネでにゅるにゅるって感じ? で、近づくと毒出してきて~。その毒がマジヤバでさぁ。とりあえず刺激したくないワケ。海が汚染されたらアタシらだけじゃなく、海の生き物みーーーーんな困っちゃうじゃん?」
「うわぁ、それだけで退治困難って感じ……厄介ね。毒のサンプルがあれば私も役に立てるんだけど」
「えーー? イエナそんなんまでできちゃうの? マジパネェじゃん。成長? 成長ってヤツ? 服だけじゃないんだ? あ、そうそう。服って言えばさーミサが考えて~、そんで皆が今メッチャ凝ってるのがあって~……」
「リエル! リエルストップ。めちゃくちゃ興味あるし、是非見に行きたいしミサにも会いに行きたいけど、今そっちの話したら脱線して戻ってこれなくなるから!」
メチャクチャ興味をそそられる話である。ミサたちの話も聞きたいし、服の話も聞きたい。しかしながら、それは今ではない。
「……まさか製作の話題なのにイエナがストップする側に回るとは」
「カナタ? あとでお話しましょうね?」
かなり失礼なことを口から滑らせたカナタにニ゛ッ゛コ゛リ゛と(圧のある)笑顔を向ける。乙女心が暴走しようとも、聞き逃せない話題というものはあるのだ。
「おほん! で、その魔物の特徴だったね」
長老が大きく咳ばらいをして、話題を戻す。
その後もリエルに話を引っ掻き回されながらも、魔物の推測は続くのだった。
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