198.マジモンじゃん~
アデム商会から伝言を受けて5日ほど。
その間、一行はモフモフたちが無理しすぎないように注意しながらも、道なき道を走り続けた。街や村に寄り道はせず、ただひたすら真っ直ぐ突き進んだために、ポートラの港町には通常では考えられない早さで到達できそうだ。
「これだけ無茶な日程なのに、そこまで疲れがないってホント凄いよな」
「もっふぃーとゲンちゃんのお陰よね」
強行軍をしている自覚はあるので、休憩はこまめにとるようにしていた。今はその休憩時間である。たくさん走っていつもより食欲旺盛なモフモフにおやつの果物をあげ、イエナたちは体を伸ばしたり、自分の足で動いたりする時間だ。
「人間は同じ姿勢を続けると良くないんだ。12時間ゲームしっぱなしだったフレから怖い話を延々聞かされたんだ、俺は……」
と、ややウツロな目でカナタはそう語った。本当は『ふれ』とは? と尋ねたかったところだが、とりあえず何も聞かず言う通りにするのが吉だろう。実際、イエナとしても同じ姿勢で作業を続けると体が固まるということは製作中に何度もあったし。
健気なモフモフたちは連日走りづめにも関わらず文句ひとつ言っていない。そりゃあ人間の言葉を突然話し出したりするわけはないので当然だが。
「もっふぃーもゲンちゃんも調子が悪くなったらすぐに教えてね? 約束よ?」
「めぇ~~~!」
「メェッ! メェッ!」
聞こえてきた返事がわりの鳴き声は、かなりご機嫌な部類に思えた。やはり地下で回し車を回すよりも、外の世界を走り回る方が楽しいのだろう。
ゲンに至っては「私はまだまだやれるわよ!」と言っているような気さえする。一応本羊の自己申告以外にも、毎日のブラッシングタイムで念入りに蹄の様子などの健康状態もチェックは怠っていない。
「それもあるけど、イエナのルームの有難みだよ。夜安心して熟睡できるのってマジで最高」
カナタの実感の籠もった言葉には説得力がある。彼は気配察知スキルのせいで、壁が薄い宿では眠りが浅かったらしい。イエナに気配察知のスキルはないけれど、疲れがあるのに緊張で眠れない辛さはよくわかる。
(……いやまぁ私の場合は寝言とか聞かれたくないっていう私欲に塗れた理由であって、気を張って眠れなかったカナタと比べるのはナンセンスなんだけどぉ)
それはそれ。これはこれ。
眠れないと辛いのは生物ならなんでもそうだろう。ただ、要因は他にもあるとイエナは思う。
「睡眠も大事だけど食もじゃない? カナタのお陰で美味しいご飯食べれるし、そもそも豪運スキルのお陰で魔物を倒したらなんらかのドロップがあるっていうのも凄いことじゃないの」
「食べ物とは限らないけどな」
「素材なら私が余すことなく使うから任せて」
やや食い気味で返事をすると「それもそうか」と苦笑されてしまった。
「そうじゃなくて! カナタもいないとこんな強行軍無理って話よ!」
「じゃあ2人の力……いや、2人と2匹の力の総合力ってことで」
「うんうん、相性いいのよきっと」
そこまで言ってはたと気付く。
(……私、カナタが帰れないってわかってからだいぶゲンキンというか、ストッパーが外れてない? ダメダメ、ビジネスパートナー! あくまで! ビジネスパートナー! ……いやでも、でもさぁ……)
自分で言い出したビジネスパートナーという言葉が重くのしかかる。しかし、あのときはアレが正解だと思ったのだ。まさか自分が、繁忙期の工房で兄弟子たちとの雑魚寝経験もある自分が、こんな風になるだなんて。
――パァン!
ここは一発自分に気合いを入れるために両手でペシンと頬を叩いた……つもりなのだが、思いのほか大きな音が響いた。これでは伝説のスモーレスラーじゃないか。
「イエナ!?」
「めぇっ?」
「メェメェッ!?」
そしてその音は当然ながらカナタにも、モフモフたちにも聞こえているわけで。慌てて言い訳を並べ立てる。
「あ、ごめん! びっくりさせた!? 気合いをね、一発いれたくって」
リエルがピンチかもしれない、という状況で、ビジネスパートナーがどうこうなどと考え出す己に喝を入れたかったのだが、時と場所を考えるのを忘れていた。
「えぇと……やっぱり体キツイ?」
「違う違う! むしろもっふぃーたちのお陰で楽させてもらってるってば。ホントホント!」
そんな一幕もありつつ、一行は無事にポートラの港町付近まで辿り着いた。徒歩圏内に入ったらいつも通りモフモフたちにはルームに入ってもらう。勿論、今までの頑張りをたっぷり褒め称えた。全速力で駆け回れた満足感からか、2匹はとても得意げだった。ついでに、イエナたちも少し遅めのお昼休憩をとることに。
今から歩いても夕刻前には余裕でアデム商会まで到着できるはずだ。
「ポートラの港町では珍しい果物も輸入していたし、もっふぃーたちにまた買ってあげたいわね」
「あ、そうだ……海鮮丼食える……いやでも、まずはアデム商会で次にリエルの確認だよな」
「落ち着いたらっていうか、食事のときはカナタのお気に入りのお店行きましょうよ。えーと海洋丸だっけ?」
「うん、そんで世話になった宿の方が大洋丸だな。……暫く旅に出ていた間になんだか町の感じちょっと変わってる気がする」
段々と近づいてくるポートラの港町。しかし、その景色は記憶とは少し違う部分があった。
「あ、ホント。私たちが旅してる間に更に発展したのかしら」
「海岸付近に建物が増えたような気がするな。……それって海水で傷まないんだろうか」
「コーティング剤もあるし、高価な武器に使ってる保護魔法みたいなのを応用することもできるわね。それでもやっぱり限界はあるから、都度建て替え前提なんじゃないかしら?」
そんな話をしながら歩いていると、やっと町の入り口に到着。商会までの道を急いだ。本当であれば少~し休みたいところではあるが、今は何がどうなっているのかを確認するのが先決だ。
(実はあの強行軍でどうなるかと思ったけど、全身ちょっとだるい程度。私も成長してるのね……)
初めてモフモフたちに乗せてもらったあとは特に内ももとお尻に酷いダメージ(筋肉痛)を食らったのがもはや懐かしい。自身の成長にちょっとばかり喜びながら商会の扉をくぐった。
名前を告げ、伝言を受けてきたのだと申し出ると。
「イエナ様、カナタ様ですね。別館の方へとご案内させて頂きます!」
と言われた。
「別館?」
「はい、つい先日完成したばかりでして……いらして頂ければすぐにおわかりになるかと」
よくわからないが、案内されるがままについていく。しばらく進むと。
「あれ、さっき見た建物じゃない?」
「だな。海沿いのアレだ」
なんと、先ほど見た海岸沿いの建物はアデム商会が新たに建設した別館なのだという。人魚との取引という新規事業も始まって、新しい建物が必要となったのかも、と一人納得していると、いきなり懐かしい声が聞こえてきた。
「あーーーーー!! マジモンじゃん! おっひさ~!?」
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