196.たぶんきっと、お呼び出し
「えっ!? なになに!?」
「メェッ!? メェメェッ!!」
「めぇ~~?」
突然響き渡る音にイエナのみならずモフモフたちも大慌てだ。何せ、この安心安全なルームの中で、こんなことは一度たりとも起こったことはないのだから。
(次元の狭間と近い場所だからなんか反作用みたいなことが起こったとか!?)
何せこのルーム、不思議な空間にポツンと建っているようなものなのだ。同じく不思議空間な次元の狭間と場所が近いせいで、不思議な力同士が作用して何かが起きてもおかしくない気がする。
イエナが慌ててルームの外に一旦出ようと2匹を促そうとしたとき。
「そうか! イエナ、自室か? 作業部屋か? どこ置いた?」
「えっ何が!?」
「リエルから貰った『離れん貝』!」
言われて思い出すのは海辺の町や海底の村での記憶。
美人でややギャルい人魚の彼女から、旅立ちの日に貰った貝、もとい、亀の手だ。
「……私のは作業部屋!」
「俺のは自室にある。持ってきてリビング集合な。今後に関わりそうだからゲンたちも一緒に話そう。リビングで待ってて!」
「メェッ!」
「めぇ~~~!」
しっかりとした返事を聞いたらイエナは真っ直ぐ作業部屋へ。しかし、最近増築されたばかりの2階はまだモノを仮設置しただけの段階だ。カナタを見送ってからゆっくり配置しようと思っていたのが仇となった。
(えーっと、離れん貝は動いちゃうから確か小さな箱を作ってそこに入れてて……あ、そうだ! 貴重品置き場に一緒に置いてあるはず!)
階段を駆けあがりながら記憶を辿る。絶対に失くしたくないものはそこに全て置いてあるはずなのだ。
記憶通り、音源はすぐに見つかった。耳鳴りのような音が一層大きく響いてクラッとしたが、構わず近づいていく。
「あった!! ……えっ!? 何これどういう……いいか、カナタに聞けばきっとわかるもんね」
離れん貝を入れていた小箱は、何故か光を帯びながら微かに震えていた。どうやらこの振動で先ほどから高い音を出していたことが窺える。
ただ、自分では知識が不足していると判断し、そのまま小箱を抱えてリビングまでダッシュした。
「イエナ、あったか? 俺の方はこんな感じ」
カナタはすでにリビングへ戻っており、モフモフたちとも話がしやすいようにテーブルセットを一旦しまってくれたようだ。イエナを見て自分の小箱を差し出してきた。小箱はカナタの手の中で同じように音を出しながら光っている。
「私のも同じ。これって何が起きてるの?」
イエナも抱えていた小箱を掲げて見せた。
すると。
「めぇ~~~?」
「メッメェ!?」
音がピタリと止んだ。
もっふぃーが首を傾げ、ゲンは大きな目を真ん丸にしている。
小箱から取り出すと、離れん貝はまるで真珠のような輝きを放っていた。
「多分だけど、リエルからの呼び出し、だと思う」
「あっ、魔力を込めると鳴くって言ってた……あれ、離れん貝の鳴き声だったの!? っていうか光るっていうのも事前情報として教えといてよリエル!」
なんとなく、海の中で「てへぺろ~めんごめんご~」とリエルが言ってそうな気がする。
「俺も実際には聞いたことがなくて……でも、それ以外考えられなくないか?」
「確かに……あっ、光が消えちゃう」
話している間に離れん貝の光は弱々しく点滅し、やがて消えてしまった。光らなくなった離れん貝はどこか色褪せたように見える。何よりいつもの動きが止まっていた。
この離れん貝は、お互いくっつこうとする習性があるらしい。もともとはリエルたちが住む海底に自生していた亀の手だ。それを、リエルから分けてもらったもの。
『アンタたちがこれ持っててくれたら、アタシらも『あいつら元気に旅してんだなー』って思えるじゃん?』
とはリエルの言葉だ。お互い、遠くにいても元気なんだな、と思えるように。
「そういえば魔力を込めると鳴くって教えてくれたのミサだったわね」
「そうそう。彼女は迷子になったときのためにご両親から持たされてて……緊急時のヘルプ用に」
「つまりこれって、リエルがピンチってことよね!?」
「恐らくは。動いていたときは相変わらずポートラの港町の方に進みたがってたから、リエルがそっちにいることは間違いない、はず」
「少なくとも人さらいにあって遠くの街で売られそうって感じではない、のかしら。だとしても、わざわざこれを鳴らすのは緊急事態ってことでしょ!? 急がないと!」
「待って、イエナ。今すぐ出発は無理だ」
「……あ、ごめん。カナタも手紙書きたいって話してたばかりよね」
「いや、手紙はどうでもいい。……良くはないけど、生きてる限りなんとかなる。許可証だって、時間をかければまた手に入るだろうし。そんなことより、リエルを優先すべきだろ」
「そこは、カナタが納得してるなら」
こんなときなのに、ちょっとしたモヤモヤと、そうやって言い切る姿がかっこいいというトキメキという絶妙に方向性の違う感情が湧いてしまう。
ちなみに、モヤモヤの方は優先されるリエルに対しての嫉妬だ。恐らく非常事態な彼女にまで嫉妬してしまう自分に物凄く凹む。が、今は凹んでいられるような場合ではないので全力でその考えを放り投げた。
「うん、大丈夫。じっくり時間かけて手紙書けると思えば、まぁ。……で、リエルを優先したいのは山々なんだけど、今は夜で、真っ暗な山を下山するのは自殺行為だ」
次元の狭間に向かう洞窟には岩盤の裂け目がいくつもあって日が差し込んでいたし、光苔なども自生していた。洞窟としては明るい部類だろう。
けれど、夜になるとまた違った顔を見せるはずだ。
しかも魔物は大概夜になると活動が活発になると言われている。
確かに、今向かうのは危険だ。
「……そうだわ、夜だった。確かに自殺行為よね」
「それに一応麓の村で手続きもあるしな。入った記録はあるのに出ていった記録がない、なんてなったら最悪ベンス国から調査が入るかもしれない」
「そうよね。真夜中に駆け下りてってウッドさんを叩き起こすのも申し訳ないし……それにウッドさんっておしゃべり好きだから……」
人の好い笑顔でしゃべりまくるウッドを思い浮かべる。彼なら「ちょっとした面白い来訪者」としてイエナたちのことを話題にしそうだ。流石に名前までは出さないだろうけど、調べればすぐにわかってしまうに違いない。今後のことを考えても、国に目を付けられるようなマネは自重すべきだ。
「そもそも、真夜中に駆け下りるのが危ないってば。だから、総合的に考えると今日はすぐに休むのがベストだと思う。で、明日、できれば少し早めに行動できればなお良いんじゃないかな。……ゲンたちには少し負担になっちゃうけど」
「メェッ!」
「めぇ~~!」
カナタが申し訳なさそうに2匹を見るが、当の彼らはやる気満々のようだ。おっとりなもっふぃーすらも任せろという雰囲気をバリバリに出している。
「ありがとう、もっふぃー! ゲンちゃん!」
そうと決まれば、まずはモフモフたちを地下に連れて行き、寝る準備をバッチリ整えた。あとは特に打ち合わせもせず各々風呂の準備だの、明日の朝食の仕込みなどをし始める。
(……ところで、言いかけたのなんだったの~? ううう、今更聞く空気じゃないし……リエルの呼び出しの方が心配だしね……。見当違いの嫉妬してごめんってリエル~~!)
複雑な乙女心を抱えたまま、夜は更けていくのだった。
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