21.モフモフとモフモフ
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ある日。森の中。
クマさんには出会ってないけれど(というかクマ系のモンスターに出会ったら確実に瞬殺。これから始まるはずの物語がジ・エンドだ)イエナは途方に暮れていた。
「ええっと……カナター! カナタ―!!」
とりあえず、相棒であるカナタを呼ぶ。困ったこと、自分の知識が足りなさそうな事態が起きた場合はまずカナタに聞く。これがイエナの中で鉄則となりつつあった。頼りすぎな自覚はあるが、そこはビジネスパートナーの特権として割り切ることにしている。
そもそも何故今カナタと森の中にいるかというと、マットレスの素材を得るためだ。当初はマットレス素材の調達をカナタが、ルーム内家具製作をイエナが担当していた。だが、家具がほぼ出来上がってもマットレスの素材は未だ揃っていない。
「……甲斐性がなくてごめん」
「素材が値上がりしてるんだもん、カナタのせいじゃないってば。採取の依頼なら私だって手伝えるし、ちゃっちゃと終わらせちゃいましょ」
そういう事情で現在に至る。
なのに、何故別行動しているかというと、なんのことはない『パーティチャット』とやらの実験中だったからだ。
カナタの言うカソウセカイの常識だと、パーティを組んでいれば離れていても意思疎通ができるらしい。これだけ聞くとものすごく便利である。ただ、それは音声ではなく、文字情報のみのやり取りになるそうな。それでも十分有用なので、まずはこの世界に存在しているのか実験してみよう、となったのだ。
それで、ある程度距離を置き、カナタができるかどうかを試していた次第である。同時進行で採取依頼もこなそうという、一石二鳥作戦でもある。ちなみに、依頼の方は結構早い段階でクリアしていた。あとは、カナタの実験終了を待つのみとなっていたのだが。
「どうした!? 何かあっ……えぇ?」
もしものことが起こった際には殻に籠もるカタツムリのごとくルームに逃げ込めるようにと、カナタは姿は見えなくても声が届く範囲にいるという話になっていた。なので、今のイエナの呼びかけを聞いてカナタはすぐに姿を現した。
そして、困惑の声をあげる。
それもそのはずだ。
「めぇ~~~」
「メェッ! メェッ!」
目の前に、二匹の羊がいたのだから。
片方はのんびりと草を食んでいるごく普通の白い羊。もう片方はこちらを威嚇するように忙しなく鳴いている黒い羊である。
「メリウールじゃないか! しかも片方はレア種!」
「ええと、魔物、だよね?」
「そう! でも、アクティブタイプじゃないし、何より今の俺たちにピッタリなんだ!」
カナタが食い気味に語りだす。
かなり興奮しているようで、いつもは落ち着いた色をしている黒い瞳がキラッキラと輝いていた。
「えっと、どういう?」
「ごめん、説明はあとで! イエナ、ルームに果物残ってなかったか? できれば甘味が強い方がいいんだけど……」
「よくわからないけれど、とってくればいいのね?」
「頼む! 俺、見張ってるから!」
言われるまま一度ルームに入る。キッチン回りにはちょっとずつ買い足している食料のうち、常温で保存できるものを置いていた。果物もその中にある。
「インベントリも無限じゃないから、そのうち氷の魔石で冷蔵庫も作ってみたいわね……っと、そうじゃなくて、果物よね。あーイチゴはもう食べちゃってたか」
リンゴとみかんをいくつか見繕ってルームの外に出る。
「カナタ、この二つしかなかったけど……」
「そっか。まぁあとは運だな。サンキュ。それでこいつらに餌付けしよう」
「餌付け……あ、もしかして前言ってたペット!?」
「そういうこと!」
以前、この二人だけだと旅が不安だ、という話をしたことがあった。信用できるかわからない人間をパーティに引き入れるのはリスクが高い。さりとてクラフターとレベルの低いギャンブラーでは戦闘面に強い不安がある。
戦えること、それに加えて騎乗ができるペットがいればいいのだが、という話だった。
それに該当するのがこの羊(正式名称はメリウール、らしいけれどまぁ羊でいいだろう)たちということになるようだ。
ちょっと威嚇気味の黒い羊を刺激しないように、コロコロとリンゴとみかんを転がす。
すると、すぐに白い方が気付いて食べようとした。
「メェッ!」
それを黒い方がどついて止めた。どうやら黒い方は気性が荒そうだ。
「めぇ~~~」
対して、白い方はなんだかのんびりとしている。どつかれたことすら気にしていないのか。二匹はそのうち額を寄せ合うような格好をしだした。まるで話し合いを始めたみたいに見える。
「食べてくれるといいんだけどなー」
「食べたらそれでペットとして言うこと聞いてくれるの?」
「少なくとも俺の知ってる情報がこの世界でも通用すれば、餌を食べた時点でペットになるはず。勿論定期的に餌は与えないとだめだけど。こいつらはメリウールっていう種族で、一人乗りの騎獣になってくれる。戦闘でも結構有用で、蹴りが結構強力なんだよな。黒い方はレアだからちゃんと育てればいい戦力になってくれそう」
カナタが解説をしている間に、羊たちの間でも結論が出たらしい。
なんというか、黒い方はプンスコ怒っているようにも見えるけれど、結局二匹とも転がした果物を食べてくれた。
「お、脈ありっぽい。一応直接手から食わせた方がいいかな」
そう言ってカナタは手の上にりんごをのせる。イエナもそれに倣うと、白い方がイエナの手から、黒い方がカナタから餌付けされた形になった。
「成功だな」
「そうなんだ!? これからよろしくね!」
そうやって手を差し伸べると白い方は人懐っこくすり寄ってきた。多少毛並みは汚れているが、そのあたりの川で洗ってあげればふわっふわになるだろう。
そのうちモコモコの羊毛を貰えるかもしれない。
「か、かわいい」
だが、もう一匹の黒い方には「フン!」とでも言うようにそっぽを向かれてしまった。機嫌をとるために果物を差し出してみてもツンツンされる。
「これは餌付けした人にしか懐かないってこと?」
「いやぁ……性格じゃないか? ほら」
言われて目を向けると、白い方はカナタの手からももしゃもしゃ果物を食べている。
「えぇ? なんでカナタだけ両方に懐かれてるのー」
ちょっとズルいと思う。イエナだって黒い方もモフりたい。
「まぁおいおい慣れたら大丈夫じゃないか? それよりほら、こいつらのステータスも見れるぞ」
「えっ!? あ、本当だ。パーティメンバー扱いみたいなものかしら」
最近では半透明な枠の扱いにも慣れてきた。
ただ、その枠内に書かれていることの意味が未だによくわからないだけで。
「実際パーティの強力な戦力になってくれると思う。やっぱりギャンブラーだと純粋な攻撃力とかは心許ないからな」
「だったら名前つけてあげようよ。せっかくメンバーになったんだし、種族名だと味気ないじゃない」
「確かに呼び名はあった方がいいな。じゃあ、餌あげた方にそれぞれ名前つけてやるってのは?」
カナタの提案に同意し、考えることしばし。
「カナタ、決まった?」
「色々考えたけどゲンでいいかなって」
カナタは黒い方を撫でながら「よろしくなー、ゲン」と挨拶をしている。黒いの、ゲンもまんざらじゃないようでちょっと嬉しそうだ。
「そっちは?」
「モフモフだからもっふぃー!」
自信満々のイエナの解答。そして何故か流れる沈黙。どこからともなく木の葉がひらりと風に吹かれて空中で舞い、そして地面へ落ちた。
「……ま、まぁいいんじゃないか? そいつも納得してるっぽいし」
「よろしくねー、もっふぃー! それにしても、この子たちって戦えるんだ?」
いかにも気の強そうな黒い方はともかく、白い方はなんというか、のんびり屋っぽく見えて戦いと結びつかない。
「本人……本羊? の性格もあるだろうけど、戦えるはず。本格的に旅立てるようになったら低レベルの魔物から徐々に慣らしていこう。それよりも、こいつらが仲間になったことで、俺らには緊急の課題ができたな」
「えっ? 何?」
この二匹のお陰で旅がまた楽になるはずなのに、問題とは。
不安になったイエナに、カナタが真剣な表情で伝える。
「こいつらの餌代と、寝床だ」
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