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195.ビジネスパートナー……?

 夕食後、カナタは少しスッキリした顔をしていた。少なくとも呆然自失状態からは脱したようなのでひとまず安心だ。

 とはいえ、泣き腫らした顔は痛々しいので、万能水を勧めておいた。


(……よく考えたら万能水が目の腫れにも効くよって私がわかってるの不自然じゃない!? ああああ、泣いたのバレたかも!? いやいや、目の腫れって一口に言っても色々あるだろうし……)


 などと一人もだもだしたり。

 カナタの顔がいつも通りに戻ったところで、少し遅くなってしまったがモフモフたちにも夕食を食べさせに行く。今日くらいは代わろうか、と提案したのだが、カナタにはやんわり断られた。


「ゲンともっふぃーも振り回しちゃったからさ。きちんと色々説明したいんだ。それに、パーティ皆で今後のことも話したい」


 とのこと。勿論イエナに異議があるわけもなく、2人揃って地下へと向かう。


「メェーッ!!!」


 2人分の足音が聞こえたせいだろう。あと数段で地下室というところでゲンが突進してきた。そのまま前を歩いていたカナタに激突する。


「うわっ!?」


「もっふぃーもおいでーー!」


「めぇ~~~」


 ギリギリバランスを崩さなかったカナタと甘えるように頭を擦りつけてくるゲン。その様子を見守っていたもっふぃーも呼んで、皆をぎゅーっと抱きしめた。


「もっふぃーもゲンちゃんも、イイ子にしてくれてありがとうね」


「ほんと、不甲斐ない主人でごめんな。ちゃんとご飯持ってきたから食べよう? ブラッシングもキッチリさせていただきます」


「メェッ! メェッ!」


「めぇ~~」


「ご飯もブラッシングも説明もしてって言ってるみたいよ」


「そりゃあもう」


 2匹に果物を献上し、ブラッシングタイムに入ってからカナタが語りだした。洞窟での話はカナタの世界の言語が多すぎて、モフモフたちだけではなくイエナもきちんとは理解できていなかったので助かる。

 カナタは時折悲しそうな顔をしたり、言葉を詰まらせながらもきちんと説明してくれた。


「そんなワケで、俺は元の世界へは帰れない。もしかしたら、何かの拍子に次元の狭間を塞ぐイベントみたいなことが起きたら別だけれど、その望みも薄いと思ってる」


「……そっか」


「メェ……」


「……めぇ」


 正直なんと言えばいいのかわからない。モフモフたちもそうだったようで、上手く反応できないでいた。


「えぇと、それで、さ。本当に本当に都合の良い話ではあるんだけど……イエナ」


「えっ!? 私!? なに!? なんでしょうか?」


 突然のご指名に一瞬飛び上がってしまう。


「正式に、俺とパーティを組んでほしい。いや、今までも正式なパーティだったんだけど……えぇと、改めてまた俺とパーティを組んで、一緒に旅をしてくれないか」


「えっ!?」


 思わぬ言葉にイエナの目が点になった。

 と、いうのも、イエナは「カナタが元の世界に帰れない」となった時点でごく自然と「これからもパーティを組んでどこかへ旅をする」と思い込んでいたのだ。


(あ、ああああああ。そうだよ、私とカナタの関係ってビジネスパートナーで! カナタをここまでつれてくるっていう業務提携した的なヤツだもんね! で、今、改めて業務提携の継続を提案されたってことなのよね! うわああ、私なんの確認もせず、ナチュラルに、図々しくも一緒に居られると思ってたの!? これが乙女心の為せる技ってやつ!? いや、ただの勘違いでは!? 恥ずかしい!!)


 自分の思い込みに愕然として返事が遅れる。その間をどう思ったものか、今度はカナタが慌て始めた。


「あ、えぇともしかしてパーティ解散したかった、か? 勿論、今まで通り、イエナがパーティを解消したいって思ったら、その時は言ってくれれば即解消するって約束するよ。でも、ほら、できることならゲンともっふぃーは引き離したくないなとか……あ、いやそれだけじゃなくて、さ」


「違う違う! パーティ解散したいなんて全っ然思ってないよ!」


 勢いよく首も手も横に振って否定する。そして、その勢いがつきすぎた。


「そうじゃなくて、私ったらカナタが帰れないってわかったらナチュラルに「また一緒に旅するんだな」って思い込んでて、自分でビックリしたっていうか……あ……」


 ペロリと本音を言ってしまったのである。

 自分のうっかりさ加減を呪いつつ、穴があったら入りたい。今ならかなり地下深くまで、自力で穴を掘れるからちょっと埋まってこようか、くらいまで考えてしまう。

 現実的に考えると、ルームの地下に穴をあけたら大変なことになってしまうのでやれないが。


「そ、そうか。それは、あの、なんて言うか……嬉しい、かな。いや、嬉しいデス、マジで」


 恥ずかしくてカナタの顔が見れずにうつむく。

 だが、彼は彼で顔を赤くしているのを必死に手で隠していたのだが。自分のことに必死なイエナは気付くことができなかった。


「えっと、じゃあ、パーティは継続で、お願いします」


「そうだな。俺からもよろしく」


「ヨロシクオネガイシマス」


 暫くの間、お互いに目線をさ迷わせながらの会話が続く。


「あ、えぇとそうだ。次の目的地の話もしたいところなんだけど、できれば少しここで時間を貰ってもいいかな?」


「いいけど、どうしたの?」


 今までの気まずさも忘れて、カナタの方を向いて尋ねる。


「……届くかわからないけれど、あの隙間に手紙を入れたくって」


 次元の狭間らしき場所には、確かに紙の束くらいなら入れられそうな隙間はあった。


「あぁ、手紙を書く時間が欲しいってことね! 勿論構わないわよ。……もっふぃーもゲンちゃんも大丈夫?」


「メェッ!!」

「めぇ~~」


 2匹に確認をとれば、大変良いお返事の鳴き声が返ってきた。特にゲンの方は、これからもカナタと一緒にいられるのが嬉しくてたまらない様子だ。


「それじゃあ今日は一旦休みましょうか。色々あったものね」


「……うん、そうだな」


「カナタ?」


 少し歯切れが悪いカナタが気になって、顔を覗き込む。


(やっぱりまだ無理してるのかな。これは先にお風呂入ってもらって、ゆっくり眠った方が良いかも)


 さてこの場合入浴剤は何がいいかと考え始めたイエナに、カナタが真剣な表情で向き直ってきた。バッチリ目が合ってしまい、ちょっとドキリとする。


「イエナ。この際だからきちんと伝えたいことがあるんだ。このタイミングだと、帰れなかったから保険で、とか誤解されそうだけど……やっぱり区切りとして今の方がいいかなって思うんだ」


「ん? うん?」


 確かにカナタの言う通り、色んな意味で区切りはついただろう。そこで改めて伝えたい、とは。なんだか都合の良いことを考えてしまいそうな自分を律して、しっかりとカナタの目を見つめる。


「俺は、イエナが……」


 そうして、カナタが何事かを言いかけた瞬間。


――リィイイイイイン


 耳鳴りのような、何かが割れるような。そんな音が響いた。


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