187.やっぱり大型魔物
「思ってたよりも情報集まったわね」
アムドの町滞在2日目。到着した当日は作戦会議をしたくらいだったので、実質的な活動開始はこの日からになる。そう考えると、活動初日でなかなかの成果があったように思う。
「イエナのお陰だよ。あと、商業ギルドの情報網もすごいな」
冒険者ギルドで依頼をこなしてきたカナタは、目立つのを避けるために、積極的な情報収集は行わなかった。
その代わり、イエナが商業ギルドでちょっと頑張ってみたのだ。
といっても、別に特別なことをしたわけではない。先に町の市場を巡ってみて、足りていなさそうな物資を納品しただけだ。そんな中でも、やはりポーションの類は潤沢とは言えないようだった。
(ポーション作るのってちょっとコツがいるものね。まぁ私には製作手帳があったし、ストラグルブルのときに散々作ったから手慣れちゃったけど)
ポーションを納品した際に、大層感謝してくれた商業ギルド職員からかなり情報が貰えたのだ。雑談のついでに「何故ポーションがそこまで不足してるのか。もう少し作って来た方が良いだろうか」と尋ねたところ色々と話してくれたのだ。
曰く、
「樹海沿いの街道にでっかい魔物が現れちゃったらしいんですよ。大きな蚊みたいなヤツらしいんですけど、ホントにでっかいらしくって……。なんでも牛を串刺しにして血を吸ってたとか。羽音が大きいから接近には気付けるんですけど、牛を連れて逃げるのも大変じゃないですか。で当然退治は試みたんですが、飛んで逃げるから矢は足りなくなるし、魔法使いの方も魔力切れ起こすしで……あの、もしかして魔力ポーションも持ってたりしませんか?」
とのことだった。
なので、怪しまれない程度の量の魔力ポーションをインベントリから取り出して納品してきた。是非適正価格で役立ててほしいと思う。
「もうちょっと突っ込んで聞けたかもしれないけど、早めの撤退してきたわ。で、カナタはその魔物に心当たりあるんだよね?」
「うん。色々ヒント貰ったからな。ソイツの名前はモスキートーン。羽音がめちゃくちゃ特徴的だから、接近されてもかなり気付きやすいとは思う。吸血攻撃と空を飛んでるのが厄介だけど、ストラグルブルやボルケノタートルよりも体力がないから倒しやすい部類ではあると思う」
カナタの説明にイエナは小さく苦笑した。現れた魔物が大規模討伐の対象だという大型魔物でなければ良いと心の片隅で願っていたけれど、どうやら彼はとっくに想定していたらしい。いい加減甘い考えは捨てて腹を決めよう。
「カナタの言う倒しやすいって、それこっちの皆にとっても?」
「ごめん、難しいかも。でも大型魔物の中ではだいぶマシだよ。羽を燃やしちゃえばあとは叩き放題だし。ただ……」
そこでカナタは一度言い淀む。表情も硬かった。
「召喚条件が、なんとも言えないんだよな」
「なんとも言えないって? ……やっぱり誰かの手が入ってる感じ?」
「モスキートーンの召喚条件なんだけど……妖精の村で見たアストラモルフォって覚えてる?」
あの素晴らしい景色に一役買っていた、うっすら青緑色に光る蝶々。一応魔物の一種らしいが、こちらから攻撃しない限りはただ飛んでいるだけで、妖精たちとも共存していた。
「勿論よ、あのキレイな蝶々よね」
「そうそう。あれの亜種で赤く光るヤツがいるんだ。それを捕獲して連れ歩くと、アイツが現れるっていう条件なんだよな」
蝶々には当然ながら羽があるため、ヒラヒラフワフワと飛んでうっかりキョウメイジュの森を出てしまうということがないとは言い切れない。実際、そういって迷子になったアストラモルフォがキョウメイジュの森の外で倒されて、希少ながらも素材として出回っているのだから。
「そりゃまた微妙な……。ちなみに、亜種って生まれる場所は普通のアストラモルフォと一緒? どのくらいの確率?」
「生息地は普通のアストラモルフォと一緒だから、あの辺りで間違いない。だから、ヒラヒラ迷い込むのは、ないとは言い切れないかな。ただ、確率は100匹に1匹いるかなーくらい。実際俺たちも見てないもんな」
「カナタの豪運があっても見かけてないものねぇ」
「えぇと、一応訂正するけど、ギャンブラーの豪運は戦闘に関する面に発揮されるスキルだからな? 命中率だのドロップ率だのだから。そんな人生全般を解決できるような凄いスキルじゃない……はず。え、違うよな?」
自分のスキルについて自信がなくなり、半透明の枠を呼び出して確認しているらしいカナタ。他人が出している枠は見えないため、ちょっと不可思議な光景である。
「……詳細に書いてないな」
「まぁまぁ。運が良いんだぞーって思い込んだ方が運が開ける気がしない? ゲン担ぎみたいな感じで」
「そういうもんか? まぁ、話が脱線したけど、そんな感じで結構レアではあるんだよな。赤アストラモルフォ。それが偶然樹海から飛び出して、更に偶然召喚地点に迷い込むなんてことがあるかっていうとさぁ……」
「限りなく真っ黒に近いグレーって感じねぇ……」
そもそも今まで見かけていなかった大型魔物がここ最近次々に発見されている。ボルケノタートルはドワーフの国で1年以上放置されていたため、最近とは言えないかもしれないけれど、ストラグルブルとモスキートーンは出現間隔がほとんど空いていない。
「それに偶然で済ますよりも、最悪の事態を考えて動いた方がいいと思うんだ」
「賛成。とはいえ、モスキートーン退治に参加する気になるかっていうと、したくはないかなぁ」
モスキートーンを召喚した黒幕がいると仮定した場合、正直退治には行きたくない。放火犯は火事現場を見に来るというし、召喚者が戦いを観戦していることもありそうだ。少なくとも知らないところで認識されるのは避けたい。
「俺も同感だよ。今後のことを考えても極力目立たないほうがいい。だからそういったのには参加せずに後方支援かなって思ってる。……またイエナ頼りになっちゃうけど」
ストラグルブルの時のように、カナタも物資運搬などで支援する手はあるけれど、できるだけ危険なことはしてほしくない。となれば、可能なのはイエナの製作物による支援だ。
それだけになってしまうのがもどかしいらしく、カナタは複雑な表情をしている。だからこそ、イエナは努めて明るい声で、具体的な提案をする。
「大型魔物にも通用する道具作りなんてやりがいあるじゃないの。とりあえずモスキートーンって蚊でしょ? 虫よけのお香効くかしら?」
「やってみる価値はあると思う。あと、あいつらアストラモルフォが好物だから、妖精から貰った鱗粉を撒き餌みたいに使えないかな?」
「あ、それいいかも。待ち伏せしてれば罠にかけることだってできるものね。あとはそれをどうやって使ってもらうかなんだけど……」
「そういえば、この町にもアデム商会の店舗があったよ。そっちに卸してみるのはどうだろう?」
2人で考えられる案を出し合う。隠密カタツムリは継続しつつ、いるかどうかもハッキリしない仮想敵を探りながら、というのはなかなか骨が折れそうだ。
けれど、少なくともこうやって話し合いができる間は、きっとなんとかなるだろうと思えるイエナだった。
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