182.世界樹の枝から何作ろう?
無事妖精の村を出発した一行は順調にキョウメイジュの森を抜けた。正直、妖精たちが最後の悪戯をしかけてくるんじゃないかと警戒していたところがあったが、何事もなかったので拍子抜けしたほどだ。
「今日はお疲れ様~。あと、妖精たちの悪戯に怒らないでくれてありがとうね~。いい子~」
日も沈んできたのでルームに戻り、頑張って走ってくれたモフモフたちに丁寧にブラッシングをしていく。
「色々とお疲れ様。……まあ妖精たちもちょっとアレだったかなって思ったのか『モフモフのイキモノにこれあげて』ってくれたんだ」
カナタはそう言いながら渡された物を並べていく。だが、妖精たちから、と聞くと特にゲンが疑わし気な表情をした。悪戯されまくっていたので無理もない。
「大丈夫だよ。ほら、見て見て」
カナタは妖精がくれた物(種類は不明だが恐らく植物の実)をパクリと食べて見せた。大きさはサクランボくらい。中には小さな種が入っているが、このモフモフたちなら種ごとバリバリいけるだろう。
(味見させてもらったけど、糖度の高いイチゴみたいな味で美味しかったのよね。甘味大好き妖精たちなりのお詫びなのかも)
「メェッ……」
「めぇ~……」
2匹は恐る恐るといった風に実を食べる。目の前でカナタが食べたにも関わらずこの警戒っぷりだ。だが、一つ食べ終わった後は競うようにガツガツと食べていたので気に入ったらしい。
「世界樹の近くでとれた実だろうから、ご利益とかありそうだよな」
「ご利益があるかどうかはわからないけど、すっごく美味しいのは確かよね。やっぱり万能水で育ってるからかしら」
「ということは、家庭菜園スペースでも作って花瓶の水あげればすごい美味しい野菜が?」
「えっ……ちょっと興味あるかも。うーん、でもカナタに料理に使ってほしい気も……迷うところね。一旦保留で」
「ははは。料理に使うんだったらいつでも言ってくれよな。俺も興味あるし」
カナタの言葉にチクリと心にトゲが刺さる。
(そうは言うけどさ、帰っちゃうじゃん、カナタ。いつでも、じゃないじゃんね)
夢で自覚してしまってから、ちょっぴり情緒がおかしい。いや、今まで蓋をしていただけで感じていたことではあったのかもしれないけれど。
意識したくなくて、話題を無理やり変えた。
「それにしても、あんなに妖精に気に入られるだなんて思わなかったわね」
「そうだなぁ。『アンタたちなら住んでもいいのだわ!』だなんて言われると思わなかったよ。まぁ……8割くらいアイスとかの甘味目当てな感じするけど」
「特製アイスクリームはマジで個数限定だからちょっとねぇ。アイスが無くなれば用済み! って追い出されそう」
「そうしたらまたシターケ町に買い出しに行けばいいんじゃないか? 次行くときはまた町の規模が大きくなってるかもなぁ」
(もし町が発展していても、カナタとはもう一緒にそれを見られないのよね)
話題を変えても、思考はどうしてもそちらに囚われてしまう。
きっとイエナは悲しい思いをしないように、無意識のうちに蓋をしたのだ。けれど、夢見のお茶のせいで、その蓋はこじ開けられてしまった。何をしていてもカナタのことを考え、そして近い未来の避けられない別れに目を向けてしまう。
(……やだな、こんなウジウジした私。忘却薬、アリかもしれない)
「めぇ~~?」
「わ、ごめんごめん。手が止まってたね、もっふぃー」
不甲斐ない飼い主で申し訳ない、と思いつつブラッシングを再開する。世界樹の枝専用部屋の話などをしながら、癒しのモフモフタイムは終了となった。
癒しであるはずなのに、イエナの心にはモフモフでも癒し切れない傷が疼いたままだけれど。
それからは努めていつも通りに夕食や風呂の準備を分担して進めていく。イエナの担当は勿論風呂の準備の方だ。
カナタが目の前にいてもいなくても、どうしたって彼のことを考えてしまう。
(これに慣れるのが先か、お別れが先か。……あーもう、ピウのばかー! っていうのは八つ当たりなんだけどー!)
勢いのままガシガシと風呂掃除をする。1人の方がまだ奇行に走っても許されるだけ楽かもしれない。思い切りシャワーで水をぶちまけ、遮二無二風呂掃除をしていると、カナタから夕飯ができたと声がかかった。
「うわ、びしょ濡れじゃないか!」
「えへへ、ちょっと気合い入れたらやっちゃった」
「あーっと……風邪ひかないようにな。スープ、アツアツにしとくから」
びしょ濡れになったイエナを見ないように、けれど、さりげなく気遣って優しい言葉をかけてくれる。
そういうところ! そういうところだぞ! という言葉を飲み込んで軽く着替えてリビングへと向かった。
「お待たせ~」
多分、いつも通りの顔とテンションなはずだ。ちょっと風呂場では奇行に走ったけれど。
「そんなに待ってないよ。んじゃ食べようか」
2人でいただきますと声を合わせ、食事を始める。今日の夕食はコーンスープに固焼きパン。メインはワイルドボアのステーキだ。
「これ森に入る前に倒したやつよね」
「アタリ。迷いの森抜けたし、また魔物が出てくるだろうなー。美味しいドロップ品があるといいけど」
「カナタの豪運があるんだから、きっと大丈夫よ。あ、そういえば、この後はもうベンス国に入国するんだっけ?」
「そうそう。ただ、カザドみたいにチェックがあるわけじゃないらしい。でも情報収集はするに越したことはないかな」
「それもそうね。あ、あとアドバイス通り依頼も受けるんでしょう?」
「うん。だから、2日くらいは滞在するかな。食べたい料理があれば期間延ばしてもいいけど」
「そこまで食いしん坊じゃないですー……多分」
こういった会話はあと何回くらいできるだろうか、と考えてしまう。そんなジメジメした自分が嫌いだし、残り少ない機会を悲しい気持ちで迎えてしまうのも嫌だった。
(……作ろう、忘却薬。何をどう忘れちゃうのか、未知数なところもあって怖いけど。お守り代わりに。あまりにも辛かったら頼れるものがある……そう思うことができたら、きっともっと自然に笑えるはずだから)
忘れることが正解かはわからない。けれど、忘却薬を作ると決めたことにより、イエナの気持ちはほんの少し楽になったのだった。
【お願い】
此処まで読んでいただけた記念に下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです!
イマイチだったな、という場合でも☆一つだけでも入れていただけると参考になります
ブックマークも評価も作者のモチベに繋がりますので、是非よろしくおねがいいたします
書籍化作品もありますので↓のリンクからどうぞ





