181.伝説級アイテムから作れるもの
世界樹に枝を分けてもらったあと、ひとまずはまた妖精の村に帰ることになった。次の場所へそのまま出発しても良かったのだが、ピウを筆頭としたその場にいた妖精たちに盛大にゴネられたのだ。
「どっか行っちゃうなら最後にアイスを寄越すのだわ! やだやだやだもう一回食べたいのだわ! 食べさせてくれないなら皆で幻惑魔法かけまくってやるのだわ!」
という半ば脅しのような駄々こねに、カナタと苦笑しながら応じたのである。
最初こそアレだったし、そのあともあんな目に遭ったが、最終的にはとても良くしてもらった。明日の朝に最後のアイスを振る舞ってから出発するくらいはお安い御用だ。アイスをお腹いっぱい食べた直後ならピウの駄々こねも発動しづらいだろう、という思惑もあったりするが。
さて、そうと決まればアイスの準備はカナタに任せ、真っ先にイエナがするべきなのは、世界樹の枝の居場所作りだった。
「多少日当たりが悪くても、火の魔石のライトでもなんとかなるってシウは言ってたけど……やっぱり居心地が良いほうがいいわよね」
あれこれ考えた結果、2階の作業部屋を少し改造することにした。といっても、大掛かりなものではなく窓を取り付けただけである。この不思議なルームという空間は、窓を取り付けると全て磨りガラスの嵌め殺し仕様になる。そのくせ、日光はごく当たり前のように採り込むことができるのだ。
ついでに言うと、どんな向きにルームの扉を出そうとも東西南北は固定。入口が北側で、面した壁が南となっていることが太陽の動きからわかっている。
世界樹の枝専用に区切った部屋は南と東に窓を作っておいた。外の景色は見えなくとも、晴れの日はばっちり日光が差し込むはずである。
「……あとはこの枝をきちんと育てなきゃなのよね。うっ、プレッシャーが……」
世界樹の葉というレアアイテムが5枚もついたこの枝を、枯らさず、腐らせず、きちんと管理しなければと思うと、重圧に胃がキリキリしそうだ。これから毎日のルーティンに枝の手入れをきっちりと加えなければ。
それ自体はさほど手間なことではない。ただうっかりすることがありそうで心配なだけだ。
もっふぃーとゲンには、ブラッシングの際に本日の出来事を共有している。ついでに、万が一枝の世話を忘れていたら注意して欲しいとも伝えていた。賢いあの2匹であれば、寝過ごした時なんかに教えてくれるはずだ。
「カナタによると、この世界で持ってる人はいないんじゃないかと言われる希少な枝……ホントにいいのかしら、貰っちゃって」
伝説の素材とまで言われる世界樹の葉。それだけでなく、半永久的に「万能水」が製作可能な世界樹の枝までもがここにある。
今は大きな花瓶に水を入れて、そこに世界樹の枝を挿している形だ。この花瓶の中の水が、明日には「万能水」になっている。毎日、花瓶一杯分の万能水が生まれるということだ。
「貯水庫みたいなのもいる、かなぁ。新鮮さを考えた場合どうなの? いや、でも妖精たちみたいに気軽にお茶にするにはちょっと……」
ちなみにカナタは「余ったら料理に使わせてもらうよ」とのこと。レアではあるが伝説というほどではないらしい。確かに製作手帳にもしっかりと素材として記載されている。
イエナとしては万能水をお茶や料理に使うというのは、正直躊躇いを感じてしまう。結局、根が貧乏性なのだ。ただ、カナタが料理に使った場合どのくらい美味しくなるのか、というのは物凄く興味がある。少なくとも、普通のポーションをハイポーションにするために万能水を使うくらいならそっちの方が断然良い。ハイレベルな薬が欲しいのならば、自分が腕を上げればよいだけなのだから。
「もっとこれぞってヤツないのかしら……」
先ほどから製作手帳とにらめっこをしているけれど、そういった製作物は見当たらない。折角世界樹が与えてくれたのだから、有効活用したいのだが。
「そもそも世界樹はなんで私に枝ごとくれたんだろう」
カナタが言うには、あちらの世界では世界樹は自分が認めた相手に葉を渡すことがあるらしい。というか、そういうイベントがあるそうだ。この葉を役立ててほしい、ということなんだとか。
妖精たちからの通訳も期待したのだが、全員の話を総合しても「くれるって言ってるんだから考えすぎずに受け取ればぁ~?」という感じだった。要するに、全く通訳してくれていない。深読みすると、世界樹が意志を伝えないでほしいと頼んだのではないかと勘ぐりたくなってしまう。
「うーー。わかんない! わかんないから私らしく素材研究しちゃおうかな! 製作手帳見ててもなんのヒントもないし! ……って、あれ?」
製作手帳には検索機能がついており、イエナはこれをかなり活用している。今回も「万能水」で検索し、余すことなく隅々まで見た。そこに、違和感がある。
「夢見のお茶って、ないの?」
イエナがとっても気まずい夢を見た、ピウが煎れてくれたアレ。妖精の村ではこの万能水が常飲され、お茶を作るときも使っていると聞いた気がするのだが。
再度万能水で検索をしたが、夢見のお茶という製作物は出てこなかった。
「てことは、夢見のお茶の効能に万能水は関係ないってこと? うーん」
なんだか納得いかなくて、今度は夢見という言葉で検索してみる。すると……。
「ん? あ、なるほど。イベント専用のカテゴリっていうのがあるのね!?」
そういえば以前カナタがタブがどうとか言っていた気がする。これのことだったのかと納得しながら見てみると、夢見のお茶は確かに存在していた。作る気はサラサラないけれど。
そして、イベント専用カテゴリにはたくさんのアイテムが記載されていた。
「特別なイベントの時にしか使われないアイテム……用途がかなり限定されているって感じかも。……あら?」
奇病を治すための薬から、何のために使うんだ、というようなアイテムまでたくさんの種類がある。流石世界樹、伝説級のアイテムだと納得していると、とあるアイテムの名前に目が止まった。
『忘却薬』。
「ええと……対象物を思い描きながら飲むことで、その対象を忘れることができる薬……」
製作手帳の説明文を読みながら思い浮かんだのは、今朝夢見のお茶の効能で見てしまった夢のこと。
「いやいや、まさかそんな……」
ないないと手を振ってみるけれど、脳裏に忘却薬の名前がこびりついて離れない。製作手帳には効果と共に、必要な材料と簡単な手順まで書いてある。
忘却薬に必要な素材は手持ちで揃ってることも確認してしまった。特殊な道具も必要なく、作業部屋で事足りそうなことも。
「……作ったところで効能を試すことはできないわけだし! 一発勝負だし! そもそも使いどころが……」
それでも、可能性を考えてしまう。
目を逸らしていたけれど、あの夢のせいで自覚してしまった自分の気持ち。どうしたってカナタとの別れは辛いものになるだろう。それならばいっそ、カナタを見送ったあと彼のことを忘れてしまえば――。
そこまで考えたところで。
――コンコン
ノックの音が響いた。
「ひゃあい!」
このルームでノックをするのはただ一人。今イエナの脳裏を占めていたカナタだ。
「そろそろ消灯しないか? 寝ないと明日が辛いぞ」
「わ、わかった! こんな時間だったのね。教えてくれてありがと! 今片付けるからちょっと待って!」
チラリと時計を確認したが、確かに普段の消灯時間を回っている。どのくらい時間を忘れて悩んでいたのだろうかと自分に苦笑してしまった。
その日、イエナの作業場の机の上には、忘却薬の素材と必要な作業道具が並べられたまま消灯となった。
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