19.快適カタツムリのレベルアップ
「おおおおお!!」
ルーム内にイエナの歓喜の声が高らかに響き渡った。
歓喜の声というよりは、雄叫び、と言えるかもしれない。うら若き乙女があげていいものか……。
「ほんとに上がってる! しかも手袋装備すると更に上がる!!」
カナタの勧めに従って、戻って来るなり自分のステータスを確認してみた結果。
必要な装備や家具を効率よく作るために、ステータスやスキル欄と常ににらめっこしていたので以前のステータスはバッチリ覚えている。そこから換算すると、上昇幅が結構あることは一目瞭然だった。
「こっちでも装備はステータスに関係あるんだなぁ。早めに確認できて良かった。あ、その手袋はクラフター系統のジョブだと終盤まで使える神アイテムだよ」
カナタはカナタで何やら感慨深げに頷いている。乙女の雄叫び(?)に動じないどころかアドバイスまでしてくれるとは、何とありがたいビジネスパートナーであろうか。
(ステータスがここまで上がるなら効率が全然変わるじゃない! 製作計画を練り直さなきゃ……あ、でもその前にちょっと使い心地を試してみたい気も……)
師匠から作業用手袋を贈られた職人は大成する、というジンクスというか言い伝えがある。製作物が周囲の職人より一段上に見える、なんて囁かれたり。恐らくカナタの言うレアというのがそれに当たるのだろう。所謂職人の『会心作』という奴だ。今の自分であれば、もしかするとできるかもしれない。
幸い、と言っては何だがルーム内には材料や製作道具がいくつも転がっていた。
イエナの脚はついフラフラとそちらに向かってしまい――。
「あっちだと『愛弟子へ』って名前のイベントなんだよな。師匠からの激励みたいな流れでさ。だから、師匠さんの考えてること予測できたってワケ……って、おい! 部屋のレイアウトやるんじゃないのか!? 何早速製作しようとしてんの!?」
「はッ…!?」
ウンチクを語っていたカナタにガッシリ襟首を掴まれた。どうやら職業病が出てしまったようだ。
「あ、ごめん。ついつい……」
コホンと一つ咳ばらいをして、大興奮をなかったことにする。なかったことになった。なったといったらなった。
実際カナタの話を全く聞いていなかったわけではない。その証拠に『イベント』という言葉をきちんと聞き取れている。
イエナの感覚でイベントというと、街の創立記念日だとか誰かの誕生日だとか、そういった特別な日のことだ。だが、カナタのいうイベントはちょっと違うようで、その差になんだかむずむずする。そういうモノだと慣れるしかないのだが。
「えーと、イベントっていうと、カナタの目的と同じ括りのやつ?」
「そうそう、大枠としてはおんなじ感じだな。俺の行きたい場所って普段は行けなくて、イベントの時だけマップに現れるんだ。少なくともイエナのお陰でこっちの世界でもイベントが発生するってわかったからホント感謝」
イエナにとって大収穫となった一連のイベントは、カナタにとっても一つの収穫になったらしい。まだまだ意味のわからない単語はあったけれど、元の世界に帰りたいカナタにとって、イベントの有無が重要なのはわかった。
とはいえ、そこで拝まれるのはちょっと……。
カナタは妙に拝んでくるクセがあるのかもしれない。理由はどうあれ、落ち着かない気分になる。
「……そういうの対応に困るってば。部屋のレイアウト、さっさとやっちゃおう」
とりあえずインベントリからベッドフレームを取り出した。予定ではマットレスの方が先に出来上がるはずだったが、いまだに材料が揃えられていないので枠のみという状態だ。
――ガタン
「この辺でいい?」
「あ、もう少し右の方が良いかな。そうは言うけどさ、俺にとっては向こうで起きる単なるイベントの一つだったんだよ。でも、現実だとああいう風になるんだーって……ちょっと俺感動してる」
唐突に始めた家具設置だが、カナタはそれにきちんとのってきて拝むのをやめてくれた。
言われて一旦インベントリに戻し、もう一度出してきて置き直す。指示通り、今度はちょっと右側だ。
――ゴトン
「う~ん、壁にぴったりくっ付けられる?」
「りょうかーい……この微調整ってやっぱ手間よね」
再びインベントリにしまい、出して置き直す。設置する位置を微調整するのにちょっと骨が折れる。が、それと同時に楽しいなと思うのはハウジンガージョブの適性の為せる技だろうか。
――ゴトトン
「重いモノを持ち上げなくていいだけ俺はすげーー楽だとは思うんだけどな。あっちにあったらどれだけ便利だったんだか……。あったら悪用の方法、山ほど思いつくからなくて平和で良かったと思うべきなんだろうか」
ちなみに、ルーム内では家具等をインベントリで出し入れすることは、持ち主のイエナにしかできない。一度ルームに設置したものは、カナタのインベントリに入れようとしてもできなかったのだ。なので、二人がとれる選択肢は二つ。力業で家具を移動するか、イエナのインベントリから出し入れするか。
結果は見ての通り、二人とも迷わず体力の消耗が少ない後者を選んだ。
「この辺?」
「うん、オッケー。サンキュ」
残る棚と机も同様の要領で設置した。多少手間はかかったが、目論見通り身体的な疲れはない。
「……全部揃えたら余計狭く感じるわね。本当にこれで良かったの?」
躊躇いながらも尋ねてみる。元々カナタが申し出てきた私室の範囲が狭いことは承知していた。だが、実際に目の当たりにすると、みっちみち感がヤバイ。どのくらいかというと、息が詰まりそうな気がするくらいには。本当に良いのだろうかという疑問がわくのも仕方がないことだと思う。
「いいんだよ。俺はクラフターする気ないから道具置き場とかは必要ないし。そんなスペースあるならイエナの作業部屋を充実させた方がいい。あと、イエナのレベルが上がればルーム拡張ってスキル覚えるからそうなってからでも構わないってのもある」
「え、ここ広くなるの!? それ見越してたんだ?」
『拡張』という言葉を聞いてイエナはホッと息を吐く。
「そういうわけじゃないけど、部屋はほんと狭くていいんだ。こっちじゃデュアルモニターディスプレイとかゲーミングチェアとか置く必要がないから。あと、ルーム拡張スキルは名前の通り広がるんじゃなく、地下室ができるよ」
「……そっちの専門用語? そっちの言葉? が多すぎて理解できないの多いから教えて欲しいんだけど……」
事前にカナタからわからないであろう用語の説明メモを渡されていたのだが、イマイチ理解できなかった。
「あ~デュアルモニターとかはスキルじゃないから覚えなくて大丈夫。こっちの世界だと不要なものだし」
「えーとごめん。そもそもの話、スキルとは? 技術? でもそれならルーム拡張技術っておかしいわよね?」
「……!? 俺スキルの説明してなかった!?」
驚愕の表情を浮かべるカナタに、イエナはこっくりと頷いてみせた。
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