176.妖精と交換会
妖精たちに案内されて、イエナとカナタは村の広場のような場所にやってきた。
なお、この時点でもっふぃーとゲンはルームに戻している。妖精たちのアプローチから逃れるためだ。彼らはどうにもモフモフが気になるらしい。その気持ちは痛いほどわかる。モフモフは至高だ。
しかしながら、そのアプローチの方法がモフモフの中に潜り込んだり逆に引っ張ったりと、悪戯としか思えないような行動だったので、2匹はすっかり閉口してしまったのだ。勿論、イエナとカナタも止めるよう言ったのだが、彼らはどこ吹く風。もっふぃーだけではなくゲンまで、走り回れる外よりも室内希望の様子を見せたので、2匹の心の安寧のためにも隔離することにしたのだった。是非ルーム内でのんびり過ごしたり、回し車でストレス解消していてほしい。
(ルームに帰ったら果物を献上しなければ……あと乱されたモフモフも丁寧にブラッシングするからね!!)
心の中で愛しのモフモフたちに手を合わせながら、イエナは辺りの様子に目をやった。
村の広場は当然ながら妖精たちのサイズで作られているので、人間には小さすぎる。そのためイエナは急ピッチで簡単な椅子とテーブルを作製することにした。
「何をするつもりなのぉ~?」
「もしかして~、人間の椅子~?」
「わ、はやーい! すごーい!」
「モフモフたちがいなくなってつまんなかったけど、これはこれで面白いのだわ!」
製作の様子が珍しいのか、周囲を飛び回る妖精たち。ちょっぴり邪魔くさかったが、視界を塞ぐわけでなし。純粋に好奇心から様々な角度で見ているのだろうと思うと嗜める気も起きなかった。
「あ、でっかいテーブルだ~」
「コレってニンゲンサイズってワケ!?」
「私たちのも作って~!」
リクエストされてしまうと応えたくなってしまうのが職人ゴコロ。しょうがないなぁと思いながら妖精サイズの椅子とテーブルも製作してしまうイエナだった。
「うーん、ホントすごい。注文されて即座に対応とか流石だよ」
カナタに褒めてもらって上機嫌になったところで、完成したテーブルでお話をすることとなった。
待望の交換会である。
「キミたちは約束を守って素晴らしい甘味を味わわせてくれたよねぇ。それに、こんなステキな椅子とテーブルも作ってくれたしさ。だから、僕たちもちょっとサービスしちゃう、かもねぇ~」
シウが口火を切ると、妖精たちはテーブルの上に色々並べて出した。
「まずは欲しがってた妖精綿だよねぇ~」
「こっちはチョウチョの鱗粉ってワケ!」
「このお花、かわいいでしょぉ~?」
「キラキラの枝!」
念願の妖精綿をゲット。まだふんわりとした綿花状態なので、ここから布の形にするには色々加工しなければいけないが、その程度のことは全く苦にはならない。むしろ加工しながらじっくり特性を調べたいところである。
何もしなくてもキラキラと光るアストラモルフォの鱗粉は装飾にうってつけだ。今まで作ることができなかったポーションの材料にもなるらしい。その際は塗り薬にするのがベストだろうか。いくらキレイでも口にするには勇気がいる。
その他にもこの辺りにしか自生しない植物を大量に貰った。正直何に使えるかは不明なモノも多いけれど、煎じてみれば薬効があるかもしれないし、そうじゃなくても見た目が可愛いものが多い。装飾の図案の見本になりそうだ。
そして、イエナがどれだけ頑張ってもキレイな形で手に入れられなかったキョウメイジュの枝も頂いてしまった。
どれをとっても妖精の村でしか手に入らないお宝の山である。
「すごーい! ありがとう!! この素材たちで何作ろうかしら……夢が膨らむわね!!」
「うん、ルーム帰ってからじっくり考えような。皆、ありがとう」
カナタは今にも生産欲が暴走しそうなイエナを軽く制し、妖精たちにお礼を述べる。そこでやっぱりふんぞり返りながら声をかけてきたのがピウだ。
「このアタシは夜にしか咲かないお花のトコに案内してあげるのだわ! 光栄に思いなさい、ニンゲン!」
「あら、ピウにしては良いこと言うじゃない~」
「ナイスアイデアってワケ!」
「お泊りって何いるかなぁ? 寝床と、ごはん?」
「ニンゲンって何食べるの~? カエル?」
「カ、カエルは食べないかなぁ~」
あまり露骨に嫌がると面白がって悪戯に利用されそうな気はする。さりとて断らなければ善意で出されかねない。笑顔はひきつっていそうだが、できるだけ自然にお断り申し上げる。
万一カエルが出された場合、妖精が喜びそうな反応をする自信しかない。
「ご飯と言えば、妖精が普段何食べてるか興味あるな。料理とかってするのか?」
イエナのそんな様子を感じ取ってくれたらしく、カナタが話を逸らした。ナイスアシスト、カナタ。
「普段? んー、お花の蜜とかぁ」
「お茶も飲むわねぇ~」
「そもそもそんなに食べなくてもいいってワケ!」
「なるほど。お湯沸かしてお茶飲む程度なんだな。だからクッキーとか珍しいのか」
「ねぇ、カナタ。アナタもっと甘いもの持ってるのだわ?」
カナタが一人で納得しているとピウがそんなことを言い出した。
周囲の妖精たちもおねだりモードに入っている。
「そうだなぁ。じゃあこれから何か作ってくるから、その代わりに一つ、お願い聞いてもらえないか?」
「内容によるのだわ!」
「世界樹の元へ連れて行ってほしいのだけど……」
妖精の村近くにあるという樹木。
イエナが知っているのは物凄く巨大であるとか、世界がこの木から始まったとか、そのレベルだ。
素材としても伝説級のシロモノで、なんだか凄いものが製作できるらしいという噂しか聞いたことがない。そのなんだか凄いものが具体的に何か知らないのだけれど。
「なんで世界樹のこと知ってるのだわ!? 折角アタシが案内して驚かせようとしてたのに……がっかりなのだわ!」
「え? そうだったの? 嬉しいなぁ。世界樹ってお話で聞いただけで全然想像もついていないのよね」
「ふ、ふん。最初から連れてってあげるつもりだったのだわ。感謝するのだわ! そっちはちょっぴり遠いし、明日にするのだわ。今晩はお花見するのだから!」
「ありがとう。じゃあお礼の甘味っていうか、お花見用甘味を今から作るかぁ。アイスも美味しいけどあれは長く楽しめないから、やっぱり焼き菓子かなぁ」
「今アンタが思い浮かべたものぜーーーんぶ作るのだわ! それがいいのだわ!」
「えぇ……? うーん、まぁ、ぼちぼち」
そんな会話をしながら、夜のお花見のために一度その場は解散となる。
カナタは妖精たちがリクエストした甘味を作りにキッチンへ、イエナは新しく手に入れた妖精の村産の素材を持ってホクホクしながらルームの2階へと向かうのだった。
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