175.妖精と最強アイスクリーム
「言われた通りみんなマイスプーン持ってきたよぉ~」
皆を代表してシウがそう教えてくれた。ちなみにコトの発端であるピウはツンとそっぽを向いているけれど、その手にはしっかりとスプーンが握られている。
「そっか、ありがとう。もう少しで完成だから待っててくれよ」
カナタは盛り付け用の大皿に手際よく食材を並べている。色とりどりのフルーツだったり、ソルトクッキーだったり。
「今回はみんなでつっついて食べる形なんだけど、くれぐれもケンカしないでくれよ。最終的に『美味しかったけど他の人が邪魔で食べられなかったからやっぱりあげない』もナシな」
「ふん、ちゃんと美味しかったらあげるのだわ。でもでも、美味しくなかったら1個もあげないんだから!」
ピウはそう言ってはいるものの、視線はチラチラとイエナの目の前にある道具と、カナタの手元の美味しそうな盛り付けの間を忙しなく行き来している。
イエナの目の前にあるのは、先日作ったばかりのアイスクリーム製造器だ。作り置きのアイスも冷凍庫にパンッパンに詰まってはいるけれど、折角だから作りたてを食べてもらおう、というのが狙いである。
この妖精の村がある樹海は、自生する植物の影響なのか、冬でもかなり暖かい。この場所に焼き菓子を持ってくる人はいても、溶けてしまうアイスクリームを持ってくる人などほぼいないだろう。当然、妖精の村から出たことのない妖精たちは初めての経験になるはずだ。
「喜んでくれるといいわね」
妖精綿が欲しいというのはあるけれど、初めての経験に妖精たちが喜んでくれれば一番嬉しい。
「そうだなぁ。よし、そろそろ良さそう?」
「多分ね。……今度タイマー機能つけようかしら」
このアイスクリーム製造器はまだまだ試作段階なのであちこちに足りない部分がある。完成した当初はアイスクリームの美味しさに目がくらんで、細部まで注意が及んでいなかった。が、今こうしてみるとタイマー機能があった方が便利だし、他にも改良できそうな点が見えてくる。
とはいえ、今は改良タイムではないのだ。あとでゆっくりとやればいい。
「それは今度な。じゃ、俺盛り付けしちゃうから後片付け頼んでもいいか?」
「もちろんよ。アイスはスピード勝負だもの」
今回、妖精の村ではルームをおおっぴらに出すことにした。勿論カナタと相談した上でだ。
その結論に至った理由としては、まず妖精は森から外へは出て行かないこと。人間の世界にわざわざ広めるようなマネはしないはずだ。
そしてもう1つの理由は、妖精は困った人を見るためにおかしな嘘をつく習性があること。万が一この村にまた人が迷い込んで、妖精たちがルームの話をしてしまったとしても「妖精がまたホラを吹いている」と思われるだろうからだ。
そんなわけで、ドンと出しっぱなしのルームにアイスクリーム製造器を持ってイエナは一旦引っ込む。
「次も美味しいアイスを食べるためには大事な工程……なんだけど、ここも改善したいわねー。分解掃除結構手間!」
器具の手入れはお手のものではあるけれど、手間は少ないに越したことはない。分解しつつキッチンでさっさとアイスクリーム製造器の洗浄を済ませる。やはりルームが使えるのは便利だ。これが屋外だったら携帯シャワーがあっても結構時間がかかっただろう。
そうして元居た場所に戻るとーー。
「あぁ! 狙ってたイチゴがないのだわ!?」
「はやいもの勝ちってワケ!」
「いい加減お皿の前からどきなさぁ~い!」
「アンタこそ羽根を引っ張るのはやめてぇ~」
「うっ……頭がっ……!!」
そこは戦場だった。
カナタが彩りにと飾り付けたフルーツを奪い合う者。少しでも多く食べようと大皿から離れない者。そして、欲張ったため冷たいものを食べすぎたとき特有の頭痛に襲われてのたうつ者。
「うーん、アイス戦争」
「お帰り~。いやぁ……妖精って結構食い意地張ってるんだなぁ」
カナタが若干呆れを滲ませた声色で迎えてくれた。確かに、あんなに可愛らしいのにアイスを奪い合う様は小さな修羅といった感じだ。
「カナタのアイスがとっても美味しかったってことにしましょ」
「美味しく食べてくれるのは嬉しいけど、それでこんな戦場になるのはなぁ……」
「期間限定で争うのは人も妖精も同じなのよね、きっと」
提供量が限られているのだから多少の争いは仕方がないことだ。イエナたちが永遠にここに留まるわけにはいかないのだし。
「あ、あぁ……無くなってしまったのだわ」
「そりゃ食べたらなくなるな」
なんだかデジャブを感じるピウとカナタのやりとりである。
「どう? とっても美味しかったでしょう?」
「めちゃくちゃ最高の味だったってワケ!」
「口がとってもシヤワセだぁ~」
「でも頭が痛くなるのはなぁ……」
一部眉をしかめた者もいるが、概ね好評のようだ。
「頭痛は欲張って一度にたくさん食べたからよ」
「だってだって、これ皆が奪い合う上に溶けちゃうのだわ!! なんでもうないのだわ!?」
「ピウは最初にスタートダッシュをキメたせいで早々に脱落してたもんな」
「気安く名前を呼んでるのだわ!? いつの間になのだわ!?」
「えーと、ともかく最初に出された条件は十分満たしてると思うんだけどな~? ダメ?」
「うっ……なのだわ」
「うふふ、ピウはなんて言うのかしらぁ~?」
「ピウの完敗ってワケ!」
「もし美味しくないって言ったら今後ピウの分が浮くわよぉ」
「うるさいうるさーい! なのだわ! しょうがないから認めてあげるのだわ!」
どうやら妖精は悔しいと空中で地団太を踏むらしい。その様子も可愛らしく見えるので妖精は得なのかも。
そんなこんなで、やっと妖精と取引ができるようだ。
「あははは、ピウから一本とる人間、気に入ったよぉ~」
「妖精綿だけじゃあ釣り合わないくらい美味しかったってワケ!」
「アタシたちは悪戯好きだけど、恩知らずってわけじゃないわぁ~」
「君たち、少しくらいゆっくりしていくでしょぉ~? 欲しいものがあるみたいだしさぁ~。ようこそ、妖精の村へ~」
シウが皆を代表して挨拶をしてくれた。そうなると、イエナたちも改めて挨拶をするべきだろう。というか、今までのゴタゴタで名乗ってすらいなかった。
「少しの間だけどよろしくね。イエナって言います」
「カナタだ。ちょっとお邪魔させてもらうよ」
「ふんっ! 仕方ないから歓迎してあげるのだわ! アタシはピウ! ピウ様とお呼びなのだわ!!」
「知ってそうだけど、僕はシウだよぉ~。あ、あそこでふんぞり返ってるアレは無視してもいいよぉ~」
「無視は酷いのだわ!? ……もう~~~~!! 今に見てるのだわ! 見返してやるのだわ!」
こうして、妖精たちに歓迎される形で村への滞在が決まったのだった。
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