172.キョウメイジュの森
多少時間はかかったものの、結局蜂の魔物と戦うことなく目当ての甘味をたっぷりと入手することができた。
シターケ町特産の「クイーン様の蜂蜜」を始めとして、クッキーやビスケットなどの加工品。それからハニービーが手伝ったという果物も購入した。これはモフモフたちに大好評で、傷まないうちに美味しく食べさせてあげたいものである。
そして。
「じゃあ、開けるわよ」
「ドキドキするな……」
2人の前にはコロンとしたフォルムのナニカがあった。イエナの新作の道具である。
緊張した表情でイエナが蓋を開けるとそこにはーー。
「で、できてる!? できてるっぽい!」
「やったなイエナ! あ、折角だから可愛く盛りつけよっか。借りていいか?」
「勿論!」
新作道具、それはイエナの欲望がふんだんに詰まったモノ。その名も「アイスクリーム製造機」である。氷の魔石で冷やし、風の魔石を用いて撹拌する。イエナの技術をこれでもかと注ぎ込んだ逸品だ。
更に、材料はシターケ町特産のブルーカウの牛乳とクイーンビーの蜂蜜を惜しげもなく使い、町の名物の再現をとことんまで追求したのである。
「はい、完成」
「うわぁ~~カワイイ!!」
カナタは手早くアイスクリームの周囲に果物とクッキーで飾りつけをしてくれた。見た目も可愛くてとてもウキウキする。
2人声を揃えていただきますをして、一口。
「「美味しい!」」
いただきますに続いて声が揃った。
「これ売れちゃうよ~!」
「そうだな、マジで美味しい! でも新鮮な材料の入手ってなるとシターケ町じゃないとな。これも期間限定の美味しさか」
「冷凍した方が持つわよね? 傷む前に作って保存したい!」
「そうしよう! いや、ホント美味しいな。アイスクリーム製造機、万歳! アイスって時間見て空気入れるために何度か混ぜなきゃいけないから結構手間だったんだよ。それがイエナのお陰で手間いらずで食べられるのホントすごい。ありがたいよ」
「えっへっへ。私もこれでアイスが食べれるの嬉しい~!」
食は日常生活において重要なファクターになり得る。モフモフたちは美味な果物に巡り合い、イエナとカナタは至高とも言えるデザートを作ることができるようになった。気力充実な一行は、妖精の村がある広大な樹海を目指して再び走り始めた。樹海には何か熱源があるのか、この時期にしてはさほど寒さを感じない。北に向かって走り続けているにもかかわらず、春秋用の薄手の長袖あたりがちょうど良い感じだ。
「妖精の村が近くになると、凄く景色がきれいなんだ。その手前の森も俺は好きだったなぁ」
「迷いの森のこと?」
イエナの知る妖精は、小さくて可愛らしいが気まぐれで悪戯好き。そして、彼らの住む場所に辿り着くには迷いの森を抜けなければならない、と聞いたことがあった。
「そうそう。やっぱり有名な話なんだな」
「建国のお話と同じくらい良く聞くかも。定番ってやつかな」
「あ、見えてきたぞ。あそこが今話してた迷いの森だ」
「えっ……? あれが?」
カナタが示す先には森とは思えない不自然なキラメキがあった。太陽を反射してキラキラと眩しい。
何事かと近づいてみると。
「メェッ!?」
「めぇ~~~?」
モフモフたちが驚いたのも無理はない。キラキラの正体はなんと木だったのだ。
「もしかして、これってキョウメイジュ?」
「うん、そう言われるらしいな」
「そうなんだ! 実物は初めて見た! 採取しようとしても砕けちゃってうまく素材に使えないって聞くけど、確かにこれは難しそう……。触っても痛そう……」
キョウメイジュ、というのは2種類の書き方がある。共鳴樹と鏡明樹。そのどちらもが正解である。
手のひらほどのサイズがある葉も、しっかりとした太さの幹も、本物の鏡の欠片で出来ているように見える。その上、魔法を使うと確率で反射するという性質もあるらしい。この2つの特徴から全く違う漢字があてはめられている。
「怪我しない範囲なら採取チャレンジしてもいいんじゃないか?」
「うん、ちょっとやってみていい?」
「もちろん!」
ということでチャレンジしてみた。
が、結果はやはり惨敗だった。
まず幹を切り倒そうと試みて薪割り用の斧を振るってみたのだが、傷つけた部分から無数のヒビが入って鏡の特性が失われてしまった。枝を折ろうとしても、葉を切り取ろうとしても結果は同じ。どうにか手に入ったのは、少しくすんだキョウメイジュの枯れ葉だけだった。
目的の迷いの森直前で時間を貰ったというのにこのありさまで、イエナは少し凹んでしまった。
「これだとキョウメイジュの特性が全然……」
「確かにあんまり映りはよくないな。だからこそちゃんとした葉っぱの形で入手できたんだろうけど。……でも、これを研究素材にっていうのはイエナならできそうじゃないか?」
カナタのフォローの言葉が身に染みる。
しかし、甘えてばかりもいられない。
「時間とらせてごめんね。先に進もう! ……でも、この森本当に迷いそうね」
キョウメイジュのあちらこちらに自分たちの姿が映る。今はまだ迷いの森と通常の森の境目あたりにいるため場所を把握できているが、全てキョウメイジュに囲まれてしまえば方角がわからなくなってしまう。コンパスの類いが一切使えなくなるのだ。それがキョウメイジュのせいなのか、森の磁場のせいなのかは解明されていないらしい。が、事実なのは既にカナタがコンパスを取り出して確認済みである。
太陽の位置で判断する方法も、生い茂る葉の乱反射で太陽そのものを確認できない状態だ。
たとえ目印を置いたとしても、その目印も映し出すため実物なのか鏡像なのかがわからなくなる。まさに「迷いの森」の名にふさわしい困った森だ。
そんなところに魔物まで出てきたら更に大変になるのは予想できた。ただ、カナタがいるのでそこまで心配してはいないのだけれど。
「うん、普通に進むと迷う。とりあえず、注意点としては、イエナも知ってたみたいだけど戦闘になってしまった場合、魔法を使わないこと。俺がいくら豪運スキル持ちであっても、どうなるかわからないから」
「はーい! 万一戦闘になっても重力魔法は使わないでおくわ」
「俺も実際にここに立ってみて、戦闘するのちょっとイヤだなって思ったから極力避けるように動くよ。……攻撃がキョウメイジュに当たると破片が飛んで危なそうだもんな」
イエナがキョウメイジュ採取チャレンジをした際にも、破片がそれなりに飛び散った。イエナたちは特製ブーツを履いているが、愛しのモフモフたちの蹄が心配になる。
「あんまりスピード出すとキョウメイジュにぶつかりそうだし、もっふぃーたちにはお留守番してもらう?」
「メェッ!? メェッメェッ!!」
「めぇ~~~~~!」
イエナの言葉に2匹が同時に反応する。ゲンはわかりやすく不満そうだし、もっふぃーも珍しく嫌がる素振りを見せた。
「一緒に行きたいってさ」
「かわいい……連れて行こっか。でも、じゃあ乗せてもらわない方が良いかな?」
「そうだな。足元に気を付けてゆっくり皆歩いて行こう」
「で、この見るからに迷いそうな森を、どうやって攻略するの?」
モフモフたちとともに行くのはいいとして、肝心のそこが聞けていない。すると、カナタはニヤリと笑みを浮かべたのだった。
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