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閑話 171.5 ルームの使い方

 広くなったルームの地下室にて。イエナは愛しのモフモフたちがより快適な生活を送れるように、と更なる改善に励んでいた。

 その1つが、大きな回し車である。

 以前から作ってあげたいと思っていたメリウールサイズの回し車なのだが、いかんせん今までは荷物もあったせいで難しかった。幸い地下室は天井が高いので置けなくはなかったが、置いてしまうと圧迫感が出るだろうと予想されたので気が進まなかったのだ。

 しかし、部屋が拡張された今ならばいける。


「うん、これでオッケーね! これでもっふぃーとゲンちゃんの運動不足解消間違いなし!」


「……ハムスターじゃないんだけどな」


 荷物置き場にと改装していた倉庫部分も解体してスッキリ満足なイエナとは裏腹に、ちょっと苦笑気味のカナタがいる。

 ただ、彼のペットであるゲンは使い方を教えると喜んで回し始めた。本羊がいいならいいか、と思い直さざるをえないようだ。


「そういえば……ねぇ、そっちの世界ではルームってどんな風に使ってるの?」


 ガラガラとゲンが勢いよく回し車の上を走る音をバックに、イエナは作りながら浮かんでいた疑問をぶつける。


「どんな風にって……突然どうしたんだ?」


「突然ってわけでもないんだけどさ。今、ルームのあちこちを改装してるじゃない? それで製作手帳の家具のところもじっくり見るようになったんだけど……手帳にはなんか妙なのがあるっていうか……」


「妙って、例えば?」


「樹木そのもの、とか。竹とか、小さな滝とか、苔むした岩とか」


 最早家具なのか、と問いたくなるものが多数。今ならかなりスペースはあるので実験的に作ってもいいのだが、意味が見い出せず手が出せない。何より、不要になってもどこかで売却できる気がしないのだ。そうなるとただのスペース圧迫物でしかない。

 今現在はスペースに余裕があるけれど、将来どうなるのかは未知数だ。


「他にも色々作ることができるみたいではあるんだけど、これらで一体どんな部屋にしてるんだろうって思ったのよね」


 今までだって、カナタに聞くと有効な活用方法を教えてもらえることが多々あった。今後の部屋の模様替えの参考にできないかと尋ねてみたのだが、当のカナタは複雑な顔をしている。


「もっともな疑問だと思うんだけど、どんな部屋って言われても俺そっちは専門外だからなぁ……」


「そういえばそんなこと言ってたわね」


 エンジョイゼイがどうのこうの、と以前言っていたような記憶がある。未だにその言葉の意味はわかっていないけれど。

 カナタが再度説明していないのだから、覚えていなくても構わない言葉なのだろうとは思っている。


「えーと……。まず、大前提としてなんだけれど、ルームに家の機能を期待してるヤツが少なかったんだよな」


「へ? 家の機能って……?」


「俺たちがルームに帰ってきてやってること。ご飯食べるとか、お風呂入るとか、寝るとか、ペットの世話するとか」


「えぇ? じゃあ何するのよ」


「主に交流と、理想の空間作りって感じ……だと思う、多分」


「???」


 説明されているのだが、サッパリ理解ができない。頭の中と言わず周囲にもクエスチョンマークがグルグルと回り始めたところで、カナタが具体例を絞りだしてくれた。


「えーと例えばなんだけど、なんかこう、貴族がお茶するような場所ってあるじゃん。たくさんの緑と花があって……」


「ガゼボのことかな?」


 イエナの脳裏にグルングルン縦ロールなお貴族お嬢様が優雅にお茶をしている様子が浮かぶ。そんなお嬢様が眺める庭園にある、色とりどりの花に囲まれた真っ白な石造りの小さな建物。それがイエナの想像するガゼボだ。勿論貴族の庭になど行ったことはないので、調べた知識から想像しただけなのだが。


「多分それ。そういうイメージでルームを飾り立てるんだ。プランターとかも家具にあったと思うんだけど、それで植物を飾って、植物風のカーペットも敷いてさ」


「ルームなのに、わざわざ屋外を作るのね……」


 言われてみれば確かにそういった家具も載っていた。それなら滝も苔むした岩も装飾として必要になるだろう。


「他にもバー作ったり、家をまるごとプラネタリウム……疑似的な夜空を作ってみたり。あと撮影……えーと一番かっこいい瞬間を見てもらうためのステージを作ったりとか」


「なんとなくわかってきたわ。私たちみたいに生活する日常空間じゃなくって、非日常な空間を作って、それを見せ合ったりしてたわけね」


「そうそう! 人の数だけアイデアがあって、それに応えるためにどんどん種類が増えてったんだよ。あと奇想天外な使い方もあるし」


「奇想天外って……?」


「……ここで再現可能なのかはわかんないけど、板にティーカップ埋め込んでドアにしたりとか」


「それは素直にドアノブ作りましょうよ」


 確かに奇想天外ではあるが、それこそまともに作ればいいだけの気がする。


「まぁ、そうできない理由が色々とあってさ。とりあえず、質問の答えにはなった?」


「あ、うん。ありがと。ただ、部屋の模様替えの参考にはちょっとならなかったかも」


 思い切り広くなったルーム内。イエナとカナタの私室を広くするにしても限度があった。無暗に広くしても、お互いあまり使い途がない。

 カナタと話し合った結果、使われる宛てのない客間が誕生したが、やはりこれも無駄だった気がする。

 ちなみに2階はまるごと作業部屋と収納スペースで確定している。絶賛イエナが仕分け中なのだが、終わる気がしない。


「お風呂も広くしてもらったしなぁ……めちゃくちゃ贅沢だけど、なんかこう……持て余すよな。俺のリクエストなのに思わず水の魔石の消費量考えちゃったよ」


「元に戻すことも可能だし、水の魔石はきちんと在庫あるからそこは平気よ。気になるなら今までのサイズのお風呂もう1つ作ってもいいし」


「いやぁ……掃除大変になるしそれはいいよ」


「大きなお家ってそういうデメリットがあるわよね……」


「まぁイエナのお陰でホウキとチリトリの掃除じゃないから楽だよ」


「カナタが色々アイデアくれるからこっちも凄く助かるわ。乾燥機なんてすごくいいわよね! 洗濯物がすぐ乾いちゃうなんてホント便利。……前言ってた自走する掃除機も作れたらいいのになぁ……」


「流石にそれはな。俺も仕組みわかってないし」


「あ、でも待って。今なら私にはミコトの魔法図案という強い味方がいるじゃない……応用して作れないかしら?」


 話題はいつの間にか家具から便利な生活用具へと移っていった。

 余っているスペースをどうするかという結論は出ず、良い運動をしてご機嫌になったゲンの鳴き声が響いていた。


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