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171.シターケ町のグルメ

「美味し~~い!」


「すごいな……材料が違うだけでこんなに美味しいのか」


 2人は旅の途中で出会った農夫に勧められて、シターケ町に到着していた。昔ながらの民家と真新しい建物が混在した通りを、荷馬車や手押し車が行き交っている。道端には物珍しそうに辺りを見回している一団。比較的軽装な様子を見ると、近隣からの観光なのだろうか。一方で、きっちりとした旅装に身を包んだ商人らしき姿も見受けられた。確かに村から町へと発展したという活気が感じられる。

 いつも通り宿をとったあと、2人は早速食べ歩きに出かけた。お目当てはこの町の特産であるというブルーカウである。ブルーカウと言えば「幻の乳」と言われるほど牛乳が有名だが、実はその肉も密かなブームが起こるくらい美味らしい。ワクワクしながら向かった2人だったが、なんとブルーカウステーキは人気すぎて予約が1ヶ月先までいっぱいだと聞かされた。

 しょんぼりしているとお店の人から「肉はダメでも牛乳なら味わえますよ」と案内されて来たのがこの軽食屋である。ブルーカウの牛乳を使ったお菓子がメインで、目玉商品は今2人が味わっているアイスクリームだそうだ。


「どうしよう、いくらでも食べたい!」


「それはお腹壊すからやめような。でも気持ちはめっちゃわかる」


 普通のアイスクリームよりも少々お値段は張るけれど、今のイエナたちに出せないレベルではない。むしろ、この味を楽しめるのなら実質無料。

 そんなワケのわからない単語が頭をよぎるくらいには美味しい。


(ペチュンの暖炉の前で食べるアイスクリームこそナンバーワン! って思ってたけどこれは……世の中ってひろい……そして、アイスクリーム最高……あ、もしかしてこれを暖炉の前で食べるのが最強なのでは!?)


 イエナが至高のアイスクリームのランク付けを更新していると、そばかすがチャーミングな店員が気さくに話しかけてきてくれた。


「そう言ってもらえると嬉しいわなぁ。ただなー、店長はまぁだこれの味に納得しとらんのよ」


「えっこんなに美味しいのに!?」


「そうなんだわ。クイーン様の蜂蜜にブルーカウの牛乳を贅沢に使っとるんだけども、卵がなぁ」


「なるほど。これ、普通の鶏卵を使ってるってことですね」


 料理のこととなると興味津々なカナタが相槌を打つ。やはりこの美味しさの秘訣は素晴らしい食材にあるらしい。勿論、このアイスクリームを作っているらしい店長の技術も確かなのだろうけれど。


「そうそう~。魔物の卵で美味しいヤツがあるんでねぇべかって仕事ほっぽりだして探しに行っちまいそうなんだわ。店長は魔物使いでねくて調理師だからなぁ。行っても無駄だべって皆で止めてるんだわ」


「美味しい魔物産の卵、かぁ……コケーットリスとかは鳥系魔物ではあるけど、卵って産むのかしら?」


「まず魔物が飼い慣らせるかの問題だしな。というか、よくクイーンビーと契約できましたね」


 この世界の魔物使いは魔物の使役をしない。そもそも使役できると知らない、というのが正しい言い方だろうか。といっても、今頃、あの一面の銀世界ではスノースライムが使役され大活躍しているはずだ。

 ともあれ、この地域の魔物使いが使役できるとはちょっと想像しづらいのは確かである。


「契約っちゃあ契約かなぁ。クイーン様と契約したのはヴァーナードっていう魔物使いの旦那でねぇ。毎日きれいに咲いた花を持ってはキラービーに刺されない範囲で植えてったんだと」


「毎日お花を持って……魔物相手じゃなければ凄くロマンチックな話ね」


「成功するまでは『ヴァーナードの旦那おかしくなっちまったんだべか』って言われてたんだわ。今となったらヴァーナードサマサマの扱いだけどねぇ。今やヴァーナード養蜂場の社長さんよ」


「凄い根気強い方なのはわかりました」


 言葉の通じない魔物相手に来る日も来る日も花を植えていく。しかも、恐ろしい護衛がいるところへだ。確かに周囲が心配してそんなことを言うのもわかる。カナタも上手い言い回しをしたものだ。


「なんか確信もってやってたらしいけどなんだったんだろうねぇ。誰かにアドバイスでも貰ったのかもしれんけど……ともかく、お陰様で村が町にまでなったんだわ」


「私たちもそのお陰でこんな美味しいモノ食べられたしね。あっそうだ。普通にご飯を食べるんだったらどこがオススメですか? あと蜂蜜も買えたりします?」


 アイスクリームの美味しさに全てが吹っ飛びかけていたが、本来の目的はクイーンビーのドロップ品だ。カナタが言うには「妖精綿を交換するならそれが確実。けれど、他の甘味でも確率で交換してくれた」とのことだ。

 であれば、美味しい甘味があれば代替品としてなんとかなるのではないだろうか。何しろ「豪運」のカナタがいることだし。


「ブルーカウの肉料理は申し訳ねぇが1ヶ月は待つねぇ。でも、牛乳系の料理ならこの通りにある牛の角を飾ってる店がおすすめだわ。それからクイーン様の蜂蜜だったら、蜂蜜を使ったお菓子のお店にちょこっと入荷してるよ。欲しいなら朝イチで並ぶ羽目になるかもねぇ」


 そばかすの店員は丁寧に店の場所を教えてくれた。その間にもアイスクリームは溶けてしまうので、イエナは行儀が悪いと思いながらも食べつつ耳を傾ける。

 メモをとることはできなかったが、大体はこの町のメインストリートで事足りるようだ。


「色々ありがとう。ごちそうさまでした」


「なんのなんの~。またのご来店を~」


 アイスクリームを食べ終わって、カナタと並んでメインストリートを歩く。


「どこの店もすごく賑わってるのね」


「屋台も多い気がする。……フライドポテトってなんかクイーンビーとかブルーカウ関係あるんだろうか」


「そこは突っ込んだら野暮ってモノよ、きっと。とりあえずどうする? おすすめされたお店行ってみる?」


「そうしよう。それから、早めに宿に退散して朝イチで蜂蜜購入かな。ロイヤルハニーはこうなったら無理だと思うから、その分蜂蜜だけでも確実にゲットしておきたい」


「りょうかーい。……あ、あの店じゃない? 牛角の飾り! ……ちょっと並びそうだけど待てる?」


 世の中には待つのが嫌いな人も一定数いる。カナタはどうだろうと聞いてみれば、思った通り彼は平気なタチなようだった。


「折角だから並ぼうか。なんなら俺が待っててイエナは屋台見に行ってもいいよ」


 カナタの提案はとても魅力的ではあるが、どうせなら一緒に行動したい。最後の旅なのだし。


「屋台は並んで、アレ美味しそう~とかやるのが楽しいんじゃない。一緒に並びましょ」


 2人で話していれば、順番待ちの時間もどうってことないだろう。少々風が冷たいけれど、その分あとで注文する予定のアツアツ牛乳料理が美味しく感じるはずだ。


「そういえば、さっきハニービーがお手伝いした果物って売り出してるの見えたわね」


「いいな、それ。ゲンたちのお土産にしよう」


 思いがけなくこの町に立ち寄ることになったので、一旦ルームに戻ってもらったモフモフたちはお留守番が延長になってしまった。お詫びの意味も込めて美味しそうなものを選ばなければ。

 そんな会話をしていると列はジワジワと短くなっていく。

 なお、次の日蜂蜜を買いに朝イチで並んだイエナたちだったが、予想よりも売り切れが早く結局この町のグルメをもう1日堪能することとなった。


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