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168.カナタの最終武器

「さて、じゃあ取り組みますか」


 無事に旅のルートが決まった翌日。さぁ走るわよ、とばかりに意気込むゲンをカナタに宥めててもらい、出発前に時間を作った。

 カナタの新武器「デスサイズ」を製作するためである。

 なお、もっふぃーはいつも通りのんびりしていた。可愛いのでひとモフモフさせてもらってから作業部屋に来た次第である。


「材料よーし! 製作手帳よーし!」


 初めて製作する場合は、材料を必要分の3倍は用意しておくことがイエナの信条である。とはいえ、レベルが格段に上がったここ最近では、初製作で失敗することは稀だった。だが、用心に越したことはない。何せ、これがカナタの最終武器となるのだから。


(まぁそれで緊張するかと言えば、そうでもないんだけど)


 確かにカナタの最終武器であるのは事実。ただ、この旅で多くの製作物を生み出してきた自信が今のイエナにはあった。今回だって、きっと大丈夫だ、と。

 旅に出たばかりの頃から技術だけでなく、精神面も成長したなぁと我が事ながら思えるようになった。


「よし、頑張るぞー」


 デスサイズを作るにあたって重要なのは、死光石の扱いである。死光石は一般的な鉱石よりもやや硬度が劣る。特に硬くて丈夫な鉱石が豊富なカザドで重要視されていなかった原因がそこにあるのだろう。

 ただし、死光石の真髄は硬さではなく、僅かに帯びている魔力だ。

 この魔力を上手く引き出しながら加工することによって、即死効果を持つ凶悪な武器になるのである。


(おお、確かにクセがある鉱石だわ。素直な鉱石が山とあるカザドではあまり使われなかったのもわかる~)


 死光石たちと対話するかのように、時には宥め、時には叱咤して思う方向に魔力を誘導する。足りない部分を他の鉱石で補おうとすると、機嫌を損ねるのでまた宥めにかかる。

 そんなことを繰り返していると、死光石が根負けしたかのように素直になった。


「……完成ね」


 黒光りする大きな刃と、対照的に細身ながらも強靱さを秘めた漆黒の柄。過剰な装飾のないシルエットが却って凄味のようなものを感じさせる。イエナの手には少し重いが、カナタには恐らく丁度良いはずだ。

 仕上がったデスサイズに指を滑らせて最終チェック。勿論、刃部分は慎重に。


「よし、オッケー。なんだけど、何か違和感が……」


 デスサイズに違和感はない。むしろ、全く手抜きナシの会心作だと胸を張って言える。

 そちらではなく、どちらかといえば自分自身が何か変わったというか……。


「あっ!? もしかしてレベル上がってる!?」


 デスサイズの製作で、経験値が溜まったようだ。急いで半透明の枠を呼びだすと、ほんのちょっとではあるがステータスも上がっており、振り分ける分のポイントも増えている。

 そして何より、覚えられるスキルが増えていた。


「ここでやっと区切りなのね。これはちょっと感慨深いかも……っと、いけない。浸ってる場合じゃないわ」


 レベルが上がったのは嬉しいけれど、今はそれよりもカナタの喜ぶ顔が見たい。それに、地底から待たせっきりだった2匹が元気に駆け回るところも。

 自分のレベルアップは一旦横に置いておいて、皆が待つリビングに向かう。


「カナター! ゲンちゃん、もっふぃー! お待たせ!」


「メェーーーー!!」


「めぇめぇ」


 真っ先に迎えてくれたのは2匹のモフモフだ。もっとも、ゲンはちょっと文句を言っているように感じる。


「うん、ごめんごめん。待たせちゃったね。もっふぃーも待っててくれてありがとうー!」


「おーい。待ってたのはモフモフたちだけじゃないんだけどー?」


 ちゃっかりモフモフに抱きつくと、上からわざとらしく拗ねたような声音がかかった。

 見上げれば声とは裏腹に期待に目を輝かせているカナタがいる。


「あはは、ゴメンゴメン。はい、待望の最終武器でーす!」


 照れくさい気持ちも相まって、ちょっとおどけた口調でインベントリからデスサイズを取り出して渡す。

 丁寧な手つきで受け取ったカナタはまず握る場所を確かめた。何度か持ち替えて、それからじっくりとあちこちを眺める。


(ドキドキする~。でも前みたいに「気に入ってくれるかな」みたいな不安な気持ちはそんなにないかも)


 どうやら満足したようで、カナタが笑顔を向けてきた。それと、なんだかソワソワソワソワしている気がする。


「やっぱりイエナの作ったヤツは凄いな。手に持った瞬間馴染むっていうか、とにかく凄い……うわー俺の語彙力やっぱりない~! ともかく、凄い! ので早く出発して、試したい!」


「メェッ!!!」


 カナタに呼応するようにゲンもやる気満々だ。やはり主人の機嫌が良いとペットにも伝染するのだろうか。


「そう言ってもらえるとやっぱり嬉しいわね。じゃ、出発しましょうか」


 ルートは既に決めてある。エバ山へと向かう方角、その途中にある森がとりあえずの目的地だ。そこまでの間に魔物とも遭遇するだろう。


「あーでも此処から森までだと歯ごたえのある魔物ってほとんどいないんだよなぁ」


「でも、今までほぼイチコロリの遠距離武器だったわけだし、ちょっと弱めの魔物で近接武器の練習したほうが良くない?」


「それもそうか。ボルケノタートルで近接武器デビューしたみたいなものだし、バカラともリーチが違うから油断は禁物だよな」


 イエナの言葉にカナタは素直に頷く。隠密カタツムリ旅は慎重がモットーだ。今後はノヴァータの冒険者ギルド長ニーイのアドバイス通り、ギルドでの依頼もちょこちょこ請けながら進む予定である。カナタにとっても新しい武器の手慣らしになって丁度良いのではないだろうか。


「よーし、オッケー! もっふぃー、よろしくね」


「ゲン、頼むな!」


 サッとルーム内の片付けをしてから、いざ出陣。特に、つい先刻まで使っていたイエナの作業部屋は本当にサッと。じゃないといつまでたっても出発できない恐れがあるので、残りは追々。


「めぇ~~~!」


「メェッメェッ!!」


 元々やる気に満ち満ちていたゲンは勿論のこと、もっふぃーからも上機嫌な鳴き声が返ってきた。やはりもっふぃーも久々に駆け回れるとなると嬉しいのだろう。


「カナタ、案内お願いね」


「任せてくれ!」


 こうして一行は最後の旅路の一歩を踏み出したのだった。


【お願い】


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