閑話167.5 見守りモフモフ
地底の旅も終わり「さぁ、ご主人を乗せて駆け回るぞ」と意気込んだところで、あいにくの雨模様。
進むことを諦めて、一行は今後のルートをじっくり話し合う路線にすることに。いつものように地下室で丁寧にブラッシングをしてもらいながらの話となった。
ところが、だ。
本日の天気のように話し合いの雲行きが怪しくなっていった。珍しくご主人たちの意見がガッツリとぶつかったのである。
更にそこへ、ゲンが割って入ろうとしたものだからイエナとカナタは場所を変えてしまった。
「というわけで、プンプンしてるのが我らがゲンちゃんなんだよねぇ」
「何よそれ! 誰向けのセリフ!? っていうか、もっふぃーだって話し合いからハブられたんだからもっと怒りなさいよー! ばかー!!」
「まぁまぁゲンちゃん、落ち着いて~。あんまりおっきい声出してると2人の話し合い聞こえないよ~?」
「うっ……」
もっふぃーがそう指摘すると、ゲンは渋々ながらもメェメェ鳴くのをやめた。これでご主人たちが思い切り話し合いができるといいのだけれど。
デキるペットはそれなりに気を回すものである。
地下が静かになったお陰か、2人の話し合いは盛り上がりはじめた。どうやらマズい方向へ。
「ねぇ! 上行くわよ! これもうケンカよね?」
「んー。行かない方がいいと思うなぁ……ゲンちゃんは、ご主人たちが言い争ってるのって聞いたことある~?」
「えっ……ないけど。そういえば初めてね」
「うんうん、そうだよね~。それからさぁ、今日のお話は、これがいよいよ最後の旅になるって話だったよねぇ」
「言ってたわね……」
最後の旅、という単語を聞いてゲンはムスッとした表情をする。それも当然だろう。この旅が終わればゲンの主人であるカナタは遠くに行ってしまうらしい。それはペットになった時点から聞いていたことだ。カナタがパーティを抜けたあと、ゲンの主人はイエナになるからいいこにしてくれ、と何度も言われている。
勿論、ゲンはかなり抗議した。しかし、どんなに抗議しても人間であるカナタには「メェメェ」と鳴いているようにしか伝わらなかったし、そもそもカナタが抜けることは覆せないことらしい。
最初は「カナタが抜けるときにアタシも抜けてやるんだから!」と息まいていたゲンだったが、最近ではイエナを受け入れつつある。それでも、やっぱりカナタが抜ける、という話があがれば寂しくなるわけで。
「ゲンちゃんがとっても寂しい気持ちになるのと同じように、僕のご主人も寂しいと思うんだよね。でも、そんな気持ちをぶつけたのって見たことなかったじゃない?」
「それは……そうね。っていうか、カナタもちょっと薄情だと思わない!? そこがどんなに遠いか知らないけど、アタシたちだって連れてってくれてもいいじゃないの! なんでパーティ脱退するのよ!」
また怒りが込み上げてきたのか、ゲンが足踏みをしようとしてグッと耐えた。上ではまだ言い争う声が聞こえており、一応空気を読んだようだ。
(すごいなぁ、ゲンちゃんも成長してるなぁ)
ワガママお転婆娘の成長を目の当たりにして、場違いにホッコリしながらも、もっふぃーは話を続ける。
「薄情なんじゃなく、カナタって感情を外に出すのが下手糞なんじゃないかなぁって思うんだよねぇ」
「……じゃあ、内心は悲しんでるってこと?」
「そうそう~。直接のご主人じゃない僕でもカナタと別れるって聞いたら寂しいし、悲しいし、パーティの現状が崩れちゃうのが不安になるよぉ。別れなきゃいけない本人が何も感じてないってことはないと思うんだよねぇ」
素直な気持ちを吐露すると、ゲンが目を丸くした。
「アンタ、悲しんでたのね」
割とハッキリと失礼である。自分にも悲しいとか寂しいとか、そういう感情は存在するのだが。とはいえ、そういった感情が外に出にくいという自覚はあるので怒るようなことでもない。
「僕も感情はあるからねぇ。でも僕が悲しむよりもーっともーっとゲンちゃんは悲しいでしょ? じゃあヨシヨシってお話聞いてあげたくなるじゃない」
「カナタもそんな感じで表に出てないってこと?」
「ん~~。それとはまたちょっと違って……言い方悪いけど、結局カナタは僕たちを捨てて別の場所に行くってことじゃん?」
「……アンタたまに性格悪いわよね。でもまぁ、言い方悪くしたらそうかも」
むぅ、とした表情をするゲン。
「捨てる方が悲しんだり、辛がったりしたらダメって思い込んでそうかなぁって」
「あ、あ~。確かに。カナタが悲しんでたら、アタシだったら『じゃあパーティ抜けなきゃいいじゃないの!』って怒っちゃいそう」
「そうそう。だからね、感情を出さないようにしてたんじゃないかなぁって。でもさ、悲しいものは悲しいし、辛いものは辛いじゃんね~。で、そういうことを察してるからイエナも当たり障りな~く会話してたんじゃないかなぁ」
「そんなの不自然じゃないの。言いたいことガツンと言いなさいよ!」
「ふふふ、皆がゲンちゃんみたいに素直だったらいいんだけどねぇ~」
もっふぃーの言葉に機嫌を損ねたのか、ゲンが軽く体当たりしてくる。ただ、蹴り飛ばして来ていないので、まだ本気で怒っているわけではない。どちらかというと拗ねているだけだ。
「フン、みんなアタシを見習えばいいのよっ」
「うん、今回ばかりは僕もそう思うよぉ~。ご主人たちは、最後の旅になるからこそ、ちゃんと気持ちを伝えなきゃだめだと思うんだぁ。例え、それでケンカになったとしてもね」
「……しょうがないわね。そういうコトなら見守ってあげようじゃないの」
そう言ってゲンはフイッと階段から顔を背ける。とりあえず、説得には成功したようだ。
上ではまだ言い争いが続いている。
「あ、でも、何かが倒れるような音とかしたら急いで上に行こうねぇ」
「うちのご主人たちに限ってそれはないとは思うけどね。まぁ気を付けてやらないコトもないわよ」
とはいえ、言い争う声を聴き続けてると気持ちがソワソワしてしまうものだ。ちょっと心細そうに見えるゲンに、おいでおいでと促してイエナ特製のクッションの方へ向かう。
そこに2匹並んで座り込んだ。
イエナが「もっふぃーとゲンちゃんをイメージして作ったんだよ!」とニッコニコで渡してくれたクッションはモコモコでとっても安心感がある。下はモコモコ、隣はゲンでモフモフ。流石のもっふぃーもちょびっとトゲトゲしてしまっていた気持ちが、少しだけまあるくなった気がした。
「ねぇ、もっふぃー」
「なぁにゲンちゃん」
少しの間無言だったが、それに耐え切れなくなったのか、ゲンがまた口を開いた。
「カナタは、アタシとの別れも悲しんでくれてると思う?」
ポソと呟いた声は迷子の仔羊のようで。
だから、もっふぃーはできるだけ優しい声で言った。
「ゲンちゃんとおんなじか、それ以上に悲しくて寂しいと思うよぉ」
「フ、フン! 絶対、絶対、アタシのが悲しくて寂しいんだから! 負けないんだから!」
ちょっぴり涙声に聞こえたセリフに、うんうんそうだねぇと返す。
明日はスッキリと晴れて、たくさんブラッシングしてもらって、たくさん走れるといいな、と思ったもっふぃーだった。
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