162.ギルドからの呼び出し
ボルケノタートルは無事討伐され、採掘再開への目処が立った。討伐の際に損をさせてしまったへプティには、イエナたちに出るはずだった報奨金を押し付け……もとい、譲り渡すことが決まっている。しかも彼らが目当ての死光石をとってきてくれるという。ここまで色々とトラブルはあったが、やっと順調に物事が進んできた。
あとは巨岩崩しパーティが死光石を持ってきてくれるのを待つのみ。
そんなときだった。
「何でこんなことになってるのかしら……」
「俺もわかんない……俺何かやっちゃいました……?」
2人は何故かしっかりとした造りのソファの上に縮こまって座っていた。
ここはノヴァータの街にある冒険者ギルド。その応接室だ。目の前には湯気を立てるお茶が置いてあるけれど、緊張で飲める気がしない。
「目立たないように気を付けたはずなのに……」
「いやぁ……ボルケノタートル討伐はやっぱ目立つよな……目立つかぁ……呼び出し食らうほどか?」
カナタはブツブツと自問自答している。イエナはイエナで頭の中が大忙しだ。
(ううう、逃げたい。でも、今更逃げる方がよっぽど目立っちゃうよね……どうしてぇ、何も悪いことしてないわよ~)
そうして待つこと数分。妙に長い時間に感じられた。
「待たせてしまってすまない。冒険者ギルド長のニーイという」
部屋に入ってきたのは、まさに引退した冒険者といった貫禄があるドワーフだった。
「いえ、そんなに待ってません」
「大丈夫です」
2人が固くなっているとニーイはニカリと人好きがするような笑みを見せてきた。
「ギルドに呼び出された上にギルド長が出てきたら緊張はするのも無理はない。すまないな。ただ、叱責だの処罰だのといった話ではないから安心してほしい」
そうは言うけれど、ではなんのために呼びだしたのだろうと不安になる。本人も言う通り、ギルド長なんていう大物が出てきたということも緊張に拍車をかけているのは間違いない。そんな様子を見て取り、ニーイは言葉を続けた。
「無駄に緊張させる必要はないな。早速本題に入らせてもらおう。君たち、何故報奨金を受け取らない?」
「え? あれ、それは俺受付嬢さんに説明したと思うんですが……」
カナタは意外そうに口を開く。ただ、もしかしたら情報伝達が上手くいっていなかったのかも、と思い、イエナは簡単に説明を始めた。
「私が戦闘中魔力切れを起こしてしまってたせいで、助けてくれたヘプティさんにボルケノタートルのドロップ品が入らなかったんです。そのお詫びとして報奨金を受け取ってもらうことにしました」
「うむ、報告と相違ない。筋が通らないわけでもない。だが、やはり不自然だと思ってな。申し訳ないが、君たち2人のことを調べさせてもらった」
「「えっ……!?」」
2人の声がキレイにハモった。この流れは大変まずいような気がする。冷や汗がダラダラと流れていくけれど、上手い言い訳が見当たらなかった。そもそも何をどう疑われて調べられたのかがわからない。なので、抗弁のしようがないのだ。
そんな2人の様子に気付いていながらも、ニーイは淡々と報告書らしき紙を読み上げた。
「2人とも冒険者に成りたて。それぞれ別の街で冒険者登録をしている。行動範囲はかなり広いがその割に目立った活動はなく、賞罰もなし。ここ数か月は記録すらない」
「それは、何かおかしいんですか?」
乾いた声でカナタが問いかけた。それに対し、ニーイは首を縦に振る。
「記録が何もない、というのがおかしいんだ。冒険者になったばかりの若い連中は躍起になって成果を上げようとする。……そうやって若い命を散らしてしまう者も多いのだが、君たちはそれがない。どころかまず依頼を受けていないんだ。成果以前にどうやって食べていってるのかという疑問は湧く」
「あ、それはあの、私がとある商会さんと繋がりができまして、その伝手で……」
しどろもどろになりながらもなんとか言葉を続けたが、イエナの答えではニーイを納得させることはできなかったようだ。
「あぁ、君は製作ジョブだったな。君だけならそういう予測も立つ。だが、カナタくんはどうかな? わざわざ冒険者ギルドに登録したのになんの依頼も受けない戦闘ジョブ、と周りから見えるわけだ」
「それは……」
「しかも、それは最初からではない。とある時期からパッタリと依頼を受けていないということがわかっている。そうなると周りから「訳アリ」と見なされるのだが……どうだろうか?」
立て続けに問いかけられて、カナタも答えに窮してしまう。だが、そうやって止まってしまった時点で肯定しているようなものだ。ニーイも納得がいったとばかりに頷く。
「そう警戒しなくても良い。何も君たちの情報をどこかに流そうなどと思っているわけではない。何より、そんなことをしてはギルドの信用に関わる。ただ、君たちのやり方は『このように不自然に思われる』ということを伝えたかったのだ」
警戒する気持ちは消えないが、彼の言わんとしていることはわかった。どこにも痕跡がないというのは、確かに不自然すぎる。ただただ目立たないように、と気を付けた結果が仇となったようだ。
「私個人としては、この街で軽く依頼を受けることをお勧めする」
「考えておきます」
返答するカナタの声は硬い。警戒というよりは、指摘されるまで自分で気づけなかった後悔だろうか。
「さてアドバイスはここまで。ギルドとしては目立ちたくない連中にわざわざそういった記録をつけるのは本意ではない」
「そうなんですか?」
「そうだ。そもそも君たちはボルケノタートル討伐への貢献で褒められこそすれ、罰されるようなことは何もしてないだろう? そんな冒険者の情報を勝手に集めようとしても普通は冒険者ギルドが止める。安心して良い」
「でも、今実際に調べられたわけですよね?」
「ギルドの長として調べさせてもらった。ギルド員を守るのは長の務めだからな。……まぁ、私の個人的な思いもあるがね」
「個人的、ですか?」
「私は第1次ボルケノタートル討伐隊を編制した責任者だ……と言えばわかってもらえるだろうか」
「あっ……」
矢継ぎ早に問いかけていたカナタより先に、思わず声をあげてしまった。
すんでのところで「討伐を失敗した部隊」という失礼過ぎる言葉を飲み込む。だが、これでやっと彼が妙に親切だった理由がわかった。自分たちが倒せなかった魔物を倒してくれた礼のつもりらしい。
「聞き及んでいると思うが、私の編成した部隊は討伐に失敗した。減俸で済んだとは言え、責任の所在は私にある。雪辱を果たす機会を望んでいたのだが、国の方針のため第2陣を組むことすら許されず、歯がゆい思いをしていたんだ。君たちが討伐してくれて、本当に感謝している。……だからこそ、お礼ができないというのが心苦しい」
「それ、先に聞きたかったです。心臓に悪い……」
「俺も冷や汗がヤバかったです」
「言葉を尽くすよりもわかりやすいだろうと思ってね。私の立場や心情はわかってもらえたんじゃないだろうか。私も君たちがあまり目立つ記録を残したくないのは理解しているつもりだ。その上で、何か欲しいものはないかな? 勿論、ない袖は振れないけれどね」
ニーイの誠実さが滲み出るような申し出を聞いて、イエナの脳内にとある事柄が閃いた。
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