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160.祝勝会にて

 乾杯の音頭のあと、ドワーフたちが代わる代わるやって来てはジョッキをぶつけていく。イエナに対しては少々加減をしてくれているようだが、カナタに対してはジョッキの心配をするくらいに力強かった。

 店側も気を遣ってくれたらしく、目の前にどんどん料理が運ばれてくる。もっとも、イエナたち専用というわけではなくこの場の皆でシェアするためではあるが。

 つまみやすそうな地底トマトのピザにマグマ魚の唐揚げ、マグ芋チップスや他にも名前がわからない料理が並べられていく。イエナとしてはにっくきマグマ魚の唐揚げが気になるところだ。

 一同の乾杯が終わったところで、ヘプティが真面目な表情でイエナたちの元へとやってきた。


「さっきはなし崩しでデカガメの金を受け取ることになっちまったが、やっぱりそれはどう考えても貰いすぎだと思うんだ」


「いえ、そんなことはありません! なんなら私が皆さんの装備を修理させて頂きたいくらいです。というか、したいです! 職人的に!」


「いや、だから、貰いすぎって話なんだが……。修理はアレだ。正式な依頼としてなら頼みたいところではあるけどよ……」


 イエナの勢いにヘプティが押されている。そこで出てくるのはやはり。


「んだよ、ヘプティ。一度もらったモン返すってか? そりゃ失礼になるから俺が……」


「やかましいガンダルフ! お前に言われんでもわかっとるわ。ゴホン。で、だ。貰ってばっかりじゃあ俺の気が済まねぇ。何かできることはないかと思ってよ」


「リーダー。それって俺らも巻き込まれるんですかー?」

「横暴だ~横暴~」

「可愛い女の子のお願い聞きたいのはリーダーじゃねぇかよ」


「うるせぇ!」


 パーティメンバーのそんなやり取りが微笑ましくて、ついつい見守ってしまう。戦闘中も感じていたことだが、巨岩崩しは本当に仲の良いパーティのようだ。


(そりゃあそうよね。仲が悪い人に背中預けたいなんて思わないだろうし)


 最初イエナはヘプティの申し出をやんわりとお断りするつもりだった。しかし、皆のやり取りを聞いているうちに、ふと思いついてしまったのだ。ガンダルフとやいのやいの言い合っているヘプティに問いかけてみる。


「あのっ……私たちの目的ってあのボルケーノタートルが塞いでいた道の向こうにある死光石という鉱石だったんです」


「そういやそんな石あったな。あんまり商業価値はなかったはずだが……」


 ふむ、とヘプティがジョッキをテーブルに置いて話を聞く態勢に入る。周りにいたパーティメンバーも同じように話を聞いてくれた。


「割と平均的な感じの鉱石ですよね。そこそこ硬くてそこそこ細工もしやすい、みたいな」

「ただ、人気ないよな。名前が不吉だから」

「曰くもあった気がする……その鉱石で作ると非業の死を遂げるとかなんとか」


「あ、多分それで合ってます!」


 死光石は「デスサイズ」というおどろおどろしい名前の武器の材料となる。それくらいの曰くがないとギャンブラーの武器には使われないだろう。


「目当ては珍しい石か」


「そうなんです。でも、まだボルケノタートルが与えた影響を調べるために、採掘は再開できないって聞いたんですけれど。できれば私たち早く欲しくって……何か良い方法って考えつきませんか?」


「イエナ……そのくらいは待てるって」


 今まで黙っていたカナタが複雑そうな顔をして口を開いてきた。

 カナタはそう言うけれど、1年はかかりそうな迂回路の完成を、もうすぐだと言ってしまえるドワーフだ。自分たち人間と流れる時間の早さが違うのだし、このくらい急いだことを言っても良いと思う。


「んじゃ話は簡単だ。調査依頼を受けたんでな。ついでにいっちょ拾ってきてやるよ」


「えっ!? そんなに簡単に拾ってこれるものなんですか!?」


 ヘプティはなんでもないことのように請け合ってきた。あまりのあっさり加減に思わず声が高くなってしまう。


「そういう調査にも色々抜け道があるからな。それにうちのパーティーには目利きがいるもんでね」


「リーダー! おだてるより分配金上げてください!」


 ヘプティの言う目利きのメンバーらしき人物がおどけて挙手する。その様に周りはドッと沸いた。


「うるせえ! それはそれ。これはこれだろ」


「それはないっすよ~。とはいえ、それくらいならお安い御用ですね。なんせ街の恩人ですし、謹んで承ります」


 そう言いながら彼がジョッキを掲げてみせると、またしても乾杯の輪が広がった。「恩人にカンパ~イ!」だの「臨時収入にバンザーイ!」だの色々な掛け声が入り混じって聞こえてきたが、騒がしくも和やかな雰囲気に変わりはなかった。


「……そういえば私、ガンダルフさんに聞きたいことがあったんですよね」


 和やかな雰囲気に紛れて、イエナはずっと知りたかったことを尋ねてみることにした。


「あん? なんだよ?」


「ストラグルブルに最大ダメージを与えたのってあなただと思うんだけど、その時のドロップ品ってなんだったんですか?」


「ブッ!!」


「グフッ」


 余程思いがけない質問だったのか、ガンダルフが酒を吹き出した。同時に、カナタも後ろで食べ物を詰まらせたようだ。


「きゃ、カナタ大丈夫?」


「んっ……平気……」


「俺の心配もしやがれ……つうか、お前なんでそんなコト聞きたがるんだよ!!」


 酒がこぼれた胸元を払いながら、ガンダルフが胡乱な目を向けてくる。


「え? だって金欠みたいなこと言ってたから気になっちゃって……相当なレアドロップなんでしょう?」


「レアっちゃレアだがよぉ……」


 イエナは知らない。

 大型魔物討伐時、最大ダメージを与えた人物に特別なドロップ品が与えられるというのは合っている。カナタの予測通り、ガンダルフは特別なドロップ品を貰っていたのだ。

 だが、そのアイテム名は「暴れ牛の睾丸」というもの。年齢的には枯れてしまったやんごとなき身分の方が使うと言われる薬の材料なのだが、その方面に全く知識のないガンダルフは持て余した挙句、上手いこと言い寄ってきた相手に二束三文で売り払ってしまった。後々価値を聞いたところで手遅れも良いところだ。ロクに金にもならず頼みの武器まで壊してしまい、憤懣やるかたなく帰郷してきたというのが真相らしい。

 とはいえ、だ。流石のガンダルフもイエナの前で口にできなかった。そのくらいの分別はあったのだ。

 ちなみに、カナタは知識として知っていたためわざとイエナに伝えていなかった。それがこんなことになろうとは予想しようがない。


「あれだ。世の中には知らねぇ方がいいこともある」


「えぇ~?」


 なお、イエナ自身は製薬の知識もあるのでその程度でひるみはしないのだが、そこは男たちの乙女に対する浪漫に配慮して言及を避ける次第である。


「っと、そういや俺も気になってることがあったんだよ。おい、カナタ、前言ってたよな? 『デカガメ倒せばセイジュウロウを超えたことになる』んじゃねぇかって」


「あ、そういえば言ってたような……」


「だが、そもそも俺はクソ牛を倒してんだぜ? その時点で超えてたんじゃねぇのか?」


「……まぁ、そう言えないこともないな」


「てめぇ、わかっててわざと俺を挑発しやがったな! 表出ろ!」


「は? ヤだけど?」


「もう、お祝いの席なんだからやめなよー」


 口ではそんなことを言いながら、イエナはもう本気では止めていない。2人のこんなやり取りがレクリエーションのようなものだとわかるようになったからだ。それを口にだすと、カナタはイヤな顔をするかもしれないけど、それも含めて。

 当初の目的も達成の目処が立ったことだし、心穏やかにジュースの味を楽しむイエナだった。


【お願い】


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