157.帰り路
「もっふぃーが1匹、もっふぃーが2匹……はっ!?」
モフモフに囲まれる幸せな夢を見ていたところ、意識が急に浮上した。起き上がろうとしたのだが、体が物凄くダルいことに気付く。
どうやらイエナはヌテールが引く戸板のような物に寝かされていたみたいだ。あとで聞いたところによると、採掘場で怪我人などが出たときに使う搬送用の車らしい。
カナタは徒歩で、すぐ横に付き添ってくれていたようだ。目が覚めるとすぐに声をかけてきた。
「あ。おはよ、おつかれイエナ。とりあえずインベントリに魔力ポーション入れてたよな。それ出して飲みな?」
「へっ!? あ、うん。……ねぇ、あの後どうなったの!?」
他人のインベントリは例えパーティメンバーでも出し入れすることはできない。言われた通りにインベントリをゴソゴソしながら、目の前にいたカナタに気を失ったあとのことを尋ねる。さっさと魔力ポーションを飲めばその分楽になるとはわかっているが、結果が気になって仕方がないのだ。
「ちゃんと飲みながら聞いてくれ。あと、咄嗟とはいえ目の前で倒れるようなことはしないでほしい」
「うっ……ごめん」
大事な役目を担いながら戦闘中に倒れてしまっては迷惑という言葉ではすまされない。しかも今回は大規模討伐で、何十人という人数が関わっていた。下手をすればイエナのせいで彼らの命が危ういことになっていたかもしれないのだ。
イエナが反省していると後ろからデカイ声がかかった。
「おいおい、功労者イジメは良くねぇんじゃねぇか?」
そんなイエナたちの会話に割って入ってきたのはガンダルフだった。最初に出会ったときの印象とは随分違う。とりあえず、上機嫌であることは確認できた。
「別にイジメてなんかないだろ」
「だったら素直に心配だったーって言や良いじゃねぇか。お前、結構ひねくれてんのな」
「あの……功労者って……?」
何故かカナタがふいっとそっぽを向いてしまったので、ガンダルフに尋ねてみた。
話の流れからすると自分のことのように聞こえるが、色々やらかした上に最後には気絶するという醜態をさらした身には到底相応しくない称号だ。これでボルケノタートル討伐が失敗していたら土下座ではすまないと思っていたのだが……。
「お前のことに決まってるだろーが! あのデカガメ、きっちりぶっ倒してやったかんな」
「ほんと!? よかったぁ!」
様々なアクシデントがあり、正直倒れる寸前まで不安があったのは確かだ。最後はカナタの「大丈夫」という言葉で安心してしまったけれど、よくよく考えたら大丈夫な要素はあまりなかったわけで。
「あのデカガメがマヌケ面で宙に浮いてたのはマジで傑作だったな」
「あんなデカいやつが浮くとは誰も思わないだろ」
「私だって思ってなかったわよ。そもそもああなるって予想してやったわけでもないし……もしかしたらカナタのバカラのお陰かしら?」
カナタが会話に戻ってきたことにホッとして、イエナもあとを続けた。
バカラの特殊効果に「相手の運を吸い取る」というものがあったはずだ。吸い取られた相手は、結果的に不運に見舞われることになる。
「だとすれば、幸運のサイコロを手放した甲斐があったな」
「不運と言えば毒もじゃねぇか? やっぱお前がブッ刺してた部分のが毒々しい色してたぜ」
「えっ毒!? 効いたの!?」
毒が効かないからこその武器変更だったのではないだろうか、と尋ねてみる。すると、カナタがきちんと流れを説明してくれた。ところどころガンダルフがチャチャを入れてくるのはご愛敬ということで。
「なるほど、傷口に直接なら効いたのね」
マグマ魚が跳ね出てきたことで咄嗟に重力魔法を使ったが、重力を加えることには慣れてきていたとしても、その逆の力は使ったことがなかった。初めて使った魔法が成功して、更にはあのボルケノタートルの巨体を浮き上がらせるなんて、運に恵まれたとしか言いようがないだろう。その上、効かないはずの毒が決め手となったと聞けば、これはもうバカラ様々だ。
「あ~~……そんでだな。お前が作った武器なんだがほとんど壊しちまった。……わりぃな」
「えっ!? あの量を!?」
本当に作って良かったと心の中でバカラに手を合わせていたイエナに、ガンダルフが珍しくもすまなそうに声をかけてきた。
ガンダルフにはインベントリが埋まるほどの量を渡した気がする。しかも、できるだけ彼が気に入る形のものを中心に渡したのだが……。
「あれだ。拳闘具の類いは残ったぜ。アイツだけは最後まで持った。あのタイプは向いてんのかもしれねぇ」
「ってことはそれ以外全部!? えーーーそれはちょっと職人としてショックかも」
ガンダルフの武器は壊れないように細心の注意と創意工夫を凝らして作ったつもりだった。しかしながら、流石は武器壊し。二つ名は伊達ではなかったようで、破壊の限りを尽くしてしまったらしい。
「そりゃガンダルフがわりぃ」
「ピギーピッグに真珠、ガンダルフに武器ってな」
「でも拳闘具だったか? アレが性に合うってわかったんだから嬢ちゃんに感謝しろ!」
後ろの方から冷やかすような声が次々飛んでくる。まだ体を起こせていないイエナからは見えないが、戦いを終えたドワーフたちがわざわざ徒歩で付いてきてくれてるようだった。
「好き勝手言ってんじゃねぇぞ、外野ぁ!」
「むぅ……次は負けないからね!」
「えっ、イエナ次作るつもりなのか?」
イエナが職人として闘志を燃やしていると、そこにカナタからツッコミが入った。イエナも突っ込まれて確かに、と頷く。
「あーまぁ修理のついでに? だってボルケノタートルが討伐できても、すぐに道がどうにかできるわけではないでしょう?」
「そうだなぁ。まず派手な戦闘やっちまったから周囲の魔物狩りからだろうな。それと、道の修繕。デカガメがマグマ溜まり作っちまったせいであそこにもマグマ魚が住み着いてるし」
話を振ってみると、ヘプティが代表して答えてくれた。
それなりに長い間ボルケノタートルが住み着いていたということもあって、今までとは違った環境になってしまっているのは想像に難くない。今まで通り通行するにしても、きちんと安全を確保してからでないと。
「それにしたって、迂回路完成させること考えたらラクショーだろうが」
「違いねぇ」
「なんだ、ガンダルフ計算できるじゃねぇか」
「今日なら、一杯だけ奢ってやらんこともねぇぞ、がっはっは」
「言ったな!? んじゃ奢ってもらおうじゃねぇの。おめぇらも来るよな?」
ガンダルフがキラキラとした目で振り向いてきたが正直イエナはそれどころではない。魔力ポーションを飲んだので少しマシになったとはいえ、倦怠感がハンパないのだ。
「あー……私はパス、かな? カナタは行ってきても大丈夫よ?」
「イエナを置いていけるわけないだろ。それに俺も慣れない接近戦で結構疲れてるしな」
カナタは気を遣ってくれたようで、一緒にいてくれるらしい。口では行っても大丈夫とは言ったものの、その気遣いがとても嬉しかった。
そして、このやり取りを聞いてスンッとなったのがガンダルフである。
「功労者2人が欠席じゃあ、しまらねぇじゃねぇかよ」
「ガンダルフがいれば十分でしょ?」
「それに俺たち酒はちょっと……」
ドワーフと言えば酒。そして祝いとあれば当然酒だろう。その言葉に動揺したのは周囲のドワーフたちだった。
「なにっ!? 飲まないだと!?」
「人間の基準はどうなっとるんだ? 成人してるとばかり思っとったが……」
「いや、そもそも人間は酒に弱すぎて飲まないヤツもいると聞いたぞ」
「まぁ酒は抜きにしても、やはり立役者がいなきゃ始まらないからなぁ」
ヘプティも残念そうに呟く。
なんだか目に見えてショゲてしまっているドワーフたちを見ると罪悪感が疼くのだが、体調ばかりはどうしようもない。そこへ、カナタが提案をした。
「じゃあ、今日は事務処理と報告をしたあと、1次会ってことにすればいいんじゃないか? いや、0次会か?」
「おお! それいいじゃねぇか。お前らの体調が整い次第もう1回やればいいもんなぁ!」
カナタの提案にガンダルフを中心に再び盛り上がる。
ノヴァータの街はもうすぐだ。ボルケノタートル討伐成功というビッグニュースが駆け巡り、街中がお祭りムードになることを、イエナたちはまだ知らない。
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