153.討伐のために
「それじゃあ行ってくるわね」
「あぁ。気を付けてな」
ここから先はカナタたちとは別行動だ。
イエナはボルケノタートルを凍結状態にする係である。そして凍結という状態異常は時間経過で解除されるものだとカナタから聞いている。つまり、溶ける前にまたかけ直さなければならないのだ。なら面倒だからずっとかけっぱなしにしてしまえ、と最初は思っていたのだが、正直戦いがどれだけ長引くか見当がつかない。
(マナメンダントでの修理もしてるし、旅の途中から重力魔法も頑張ってるから少しずつ魔力の値も伸びてはいるのよね。とはいえ、どれだけ長引くかわからない戦いで魔力流しっぱなしは自分でも無理無茶無謀のお得な3点セットだと思う……)
どの辺がお得かはさておき。
イエナのジョブがハウジンガーである以上、多少伸びたところで本職の魔法使いの魔力とは比べるべくもない。魔力切れを起こして倒れでもしたら、計画はおじゃんである。ということで、かけっぱなしは早々に諦めて、凍結状態が解除されそうと思った段階ですぐにかけ直せるように、凍結状態維持に専念する予定だ。そのため、実戦班とは別の場所に移動するのである。
待機場所での護衛は『巨岩崩し』のパーティが請け負ってくれた。
ボルケノタートルの索敵範囲は思っているよりは狭い、と事前偵察に行ってくれたヘプティから聞いている。視界に入っただけではまだ攻撃はしてこないらしい。もしかしたらあまり視力は良くないのかも。
とはいえ、視線を感じながら攻撃準備をするのもなんとなくイヤなので、ボルケノタートルの背後に回ってどうにかしたいところである。
「ったく、あのデカガメこの辺の景色こんなに変えちまいやがって……」
討伐に失敗したという第一陣との戦いの名残か、正直足場の環境は良くない。ヘプティはボコボコになった道に悪態をつきながらも案内してくれる。
近づくにつれ、ボルケノタートルが飛ばしたのであろう甲羅のトゲやら、溶岩やらが視界に入ってきた。
「この距離でも溶岩って熱いですね……」
「おう、頼むから落っこちるだなんてことはしないでくれよ」
「落っこちたら火傷じゃすまないじゃないですか!」
あちこちで溶岩がドロドロと輝いているお陰で光源には困らないが、とにかく暑い。モフモフたちがいたら間違いなくバテていたことだろう。暑さで意識が朦朧として万が一足を踏み外してしまったら、なんて考えるだけで怖ろしい。今回は不参加にして本当に良かった。
ただし、同じ危険はイエナ自身にもあるわけで。
(絶対に落ちないようにしないと)
イエナは事前にヘプティたちが見つけてきてくれた都合の良い高台から浮遊布を飛ばす手筈となっている。少しでも高い位置から浮遊させた方が労力が少なくて済むし、全体を見渡せるという利点があるからだ。
「ふわぁ……近い。あと、デカい」
ガンダルフのことを言えない単純な感想になってしまったが、本当にボルケノタートルは大きかった。どのくらいかと言うと、人間の感覚で言えば3階建ての建物くらいはあるだろうか。ドワーフ族換算で言えば5、6階建てと言っても過言ではないだろう。そんなデカガメが溶岩を蓄えた甲羅を背負っている。正直怖い。そして、溶岩のそばを通ったときよりも更に熱気が上がったように感じられる。
(この作戦が成功するかどうかは私次第……なのよね)
そう考えると緊張で胃がぎゅっと縮こまるような感覚が襲ってきた。失敗したときは撤退するだけ、と皆には言ったけれど折角集まってくれたのに申し訳ない。勿論、命あっての物種であることは理解しているのだが。
そんな時、カナタの声が聞こえてきた気がした。
『イエナが作ったものなんだから大丈夫』
バカラを完成させたときだけではない。初めて作った毒消しやポーションをなんの躊躇もなしに使ってくれたし、イキマモリを転じてアタタマモリを作り出したときは革命だとまで言ってくれた。爪切りにちょっと蓋を付けただけでも。
いつだってカナタはイエナの作ったものに自信をくれたのだ。
(うん、大丈夫)
震えそうだった体がスッと落ち着いた。
心配そうに見守っていた『巨岩崩し』の人たちを振り返る。
「それじゃ、行きますね!」
多分、ニコリと自信のある笑みが浮かべられたと思う。
それを合図に、一旦彼らは下がった。仕掛けの誤作動が起きた場合のことを考えて、あらかじめ話し合って決めたことだ。
少し離れた場所から不慮の事故がないように見守ってくれている。
バサリと布を広げると、布は空中にフワリと浮いた。魔力を通すための2つの紐を握りしめる。片方は浮遊のための、そしてもう片方は凍結のためのだ。
「行って!」
浮遊の紐に魔力を送り、上空に浮かべる。
今回の凍結装置「ダトウカメ」はやはりあのボルケノタートルの全てを凍らせるために大きな物になってしまった。しかも、浮遊させる魔法図案の他に、凍らせるための魔法図案という二重構造になっている。そのため補助として浮遊用の紐も必要になってしまったのだ。
(今のところ問題はなさそう。地底だし、風が吹くことも稀だそうだから大丈夫だとは思うんだけど)
もし今日地上が雨や暴風であったら何かしらの影響を受けるかもしれないということで中止することになっていた。幸い、晴れていたので決行したけれど。
空中に広がった布に微弱な魔力を送って位置を調整する。その練習をしていたときに、カナタに「タコみたいだな」と言われた。何故この空に浮かぶ布がタコに見えたかはわからなかったが、カナタが見たことあるものなら、同じように実現可能なのだろうと前向きにとらえることにした。
どうにか位置を調整し終わり「ダトウカメ」はボルケノタートルの真上に来る。
(よし、行ける!)
位置ヨシ、魔力もヨシ。確認を終えたイエナは首に下げていた笛を咥えた。
これはイエナお手製の笛だ。戦闘開始の合図になるとともに、凍結が解除されそうになったときにも使う手筈となっている。どれだけ戦闘に夢中になっていても聞こえるように馬鹿デカイ音が鳴るよう改造してある。試しにガンダルフに聞かせたところ「ロックバードの断末魔みたいだ」という評価を貰った。
もう一つの紐を握りしめ、イエナは魔力を送る。
――――キィイイン
耳鳴りのような甲高い音がしたかと思うと「ダトウカメ」の真下、ボルケノタートルを含めた全て、それこそ木の根や茸、大地までもがしっかりと凍てついていた。
『……ゴア??』
何が起きたのか理解できなかったらしいボルケノタートルが不思議そうな低音の鳴き声を上げながら、首を傾げた。その動きすら、凍結状態に阻まれてギギギと不自然である。
それを見届けたイエナは思い切り笛を吹いたのだった。
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