152.何かやらかさないか見守る会
本日も昨日と変わらず通常の地底世界。光苔や光茸による光源で十分明るい日だ。
ノヴァータの町から北へヌテールで10分程。ちょっとした広場があるところに数十人ものドワーフ族が集合していた。
「よし! お前ら、今日はこの『ガンダルフが何かやらかさないか見守る会』によくぞ集まってくれた!」
そうやってよく通る声で皆に声をかけたのはドワーフ族で構成される『巨岩崩し』というパーティのリーダーだ。いかにもドワーフ族の戦士といった風貌で、かなり強そうに見える彼は、名をヘプティと言う。ガンダルフが人数集めをぶん投げた相手だ。
「おいなんだ!? その妙ちくりんな名前の会はよぉ!」
ガンダルフは負けじと声を張り上げて文句を言うものの、周りのドワーフ族たちはやんややんやと大盛り上がりだ。幾人か片手に瓶を持っている気がするけれど、とりあえず見なかったことにしよう。
「さて今日はこのガンダルフのバカタレが、あそこにいるデカガメを倒すと言い出した日だ。半分以上は冷やかしと後始末のために来てくれたんだと思う。が、しかぁし! 実はガンダルフの野郎、俺らとは別の協力者がいるらしい。頭の使う仕事や作戦を練ったりなんかはその人たちに任せている!」
「ガンダルフが討伐するなんて言い出すからどんなヘマやらかすかと心配でよ」
「別の人間が作戦を考えてるならマジで倒せるかもしんねぇな。しかし、ガンダルフとつるむなんて正気か?」
「俺らみたいにほっとけなかった面倒見のいいヤツなんだろきっと。ガハハハハ」
ヘプティが協力者の存在を明らかにすると、周囲のドワーフたちは口々にそんなことを言い出した。
面倒見がいいかどうかは置いといて。作戦を考えたのは確かにカナタで、仕掛けを作ったのはイエナである。
「つーわけで、その作戦を参謀たちから聞こうじゃねえか。そこの酒飲んでるヤツらも一旦瓶を置いて聞きやがれ! これで失敗したらおめえらの責任になるぞ!」
ここまでは事前の相談通りの流れだ。いくらボルケノタートルを倒すと言ったところで具体的な説明がなければ、折角集まってくれた者たちも力を貸す気にはなれないだろう。
ということで、彼らの視線を感じながら、イエナとカナタはズズイと前に出た。もっとも、2人とも周囲にいるドワーフたちよりも頭ひとつふたつは大きい人間族である。最初から2人が協力者であろうことは皆気付いていたはずだ。が、まぁここは一応、礼儀として。
「人族のカナタです。よろしくおねがいします。作戦立案ってほどではありませんが、ボルケノタートルを倒せるように準備をしてきました」
「同じく人族のイエナです。技術担当です。よろしくおねがいします」
それぞれ軽く挨拶をして頭を下げ、カナタが説明を続けた。
「作戦の説明をします。……と言っても至ってシンプルです。彼女の作った凍結装置を使い、あのボルケノタートルを凍らせてから、皆で一斉に殴りかかるというものです」
「何だホントにシンプルじゃねえか」
「それなら失敗しようがねえな」
「いやでもどうやって凍らせるんだ?」
そう、作戦自体は本当にシンプルだ。しかし、どうやって凍らせるかという仕組みがわからなければ不安になる者もいるかもしれない。ということで、イエナの出番である。
「凍結装置について説明します! 凍結させるにはこの装置を使います!」
イエナが取り出したのは1枚の大きな薄水色の布。そして、それにつながる魔力を通すための紐だ。
「なんだ? その布を踏ませようっていうのか?」
「いいえ違います。この布、実はちょっと特殊な製法で作っておりまして。こんな風にすると……」
言いながらイエナは空気を含ませるように布を広げてみせた。すると、薄水色の布はふわりと宙に浮く。
そう、これはカザドに入る前に作った浮遊布で出来ているのだ。
「浮いてるのがどういう仕組みかってのは興味はあるけどよ、それでどうしようってんだ?」
「この布は、下にあるものを凍らせるという装置なんです。なので、あの亀の頭上までこれを浮かせます」
「ボルケノタートルは視野が横方向に広いですが、上は割と死角となっています。なので上から奇襲を仕掛けるという形になります。ボルケノタートルが厄介な点は、甲羅に蓄えた溶岩にあります。ですが、凍結状態に持ち込んでしまえば溶岩は冷えて固まり、弱体化します」
「溶岩が固まったらそりゃあ殴り放題じゃねぇか」
「亀を採掘ってか? がははは」
「それに固まった溶岩だったら飛んできても単なる怪我ですむぜ。溶岩が飛んでくるよかマシだわな」
カナタの補足に広場の皆の士気が上がっていく。もしかしたら本当に勝てるかも、と思ってくれたのならしめたものだ。
「溶岩さえ封じてしまえば、あとはただのデカい亀の魔物です。確かにデカい分体力はありますし、甲羅自体もやっぱり硬いでしょう。しかし、ここにいる皆さんは力自慢のドワーフ族です。叩き潰すことは十分可能ですよね?」
「そりゃあ当たり前だよなぁ!」
「誰にモノを言っとる、任せとけや~」
「腕が鳴るわい」
そうやってカナタが持ち上げると、ドワーフたちは悪い気はしなかったようで皆やる気が更に溢れているようだった。
「最後にひとつだけ聞いてください! 万全を期しましたが、私が凍結に失敗するという可能性があります。その場合はカナタが合図を送ってくれますので、速やかに撤退です! それで被害を最小限に抑えたいと思っています」
考えうる準備は全てしたはずではあるが、それでも不慮の事態というのは起こるもの。その場合の対処法も先に伝えておく。
「おい、ちなみにその成功確率っていうのはどのぐらいなんだ?」
ガンダルフが話を振ってくる。とってもナイスな質問だ。全てを話すことはできないとしても、こうして集まってくれた皆に出来る限り誠実でありたいと思うイエナだった。
「これよりも小さいサイズの試作品は、どれも全て凍結状態に持ち込むことができています! ただ、ボルケノタートルの大きさというのは今回初めてチャレンジするので……」
「初めてのチャレンジに失敗はつきものだわなぁ」
イエナが一瞬詰まったところを、取りまとめ役のヘプティがフォローに回ってくれた。
「というわけで作戦はシンプルだ! 俺らの役目はデカガメが凍ったことを確認したらフルボッコ! 凍結が失敗したらすぐさま撤退だ! 被害を出さねえようにさっさとずらかるぞ。その後のことは後で考えればいい。ガンダルフでもわかるような作戦がわからなかったヤツがいたら手ぇ挙げてみろ!」
そう言われてしまったら普通手は挙げられないのではないだろうか。
当然というか、手を挙げた者は1人もいなかった。
「リーダー。それじゃマジでわかんねぇヤツも手ぇ挙げらんねぇって」
「引き合いにガンダルフが出されちゃあな」
「がはは、ガンダルフでも酔っ払いでもわかるシンプルな作戦ってことだ」
「だからお前らは俺を何だと思ってるんだ!」
ガンダルフが猛抗議するも、ドワーフたちは口をそろえて端的に返事をする。
「粗忽者」
「武器壊し」
「力任せの猪突猛進」
返ってきた言葉に反論できないのか、ガンダルフはぐぬぬと唸って黙り込んだ。なんというか、幼少期からどんな扱いだったのか察せられるやり取りである。
(でも嫌われ者ではないのよねぇ。こんなに皆が集まってくれるんだもの)
なんだかんだで、地元で愛されているようだ、とガンダルフに生温い視線を送るイエナであった。
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