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151.イエナの新武器

 イエナが取り出したドデカいハンマーを見て、ガンダルフは呆れとともに言葉を吐き出した。


「あのなぁ、俺が言うのもなんだけどよ、武器ってのはデカけりゃいいってもんじゃないんだぞ? お前みたいな細っこい女が持ち上げられるわけねぇだろ」


 後から思えば、恐らくガンダルフのこの言葉は彼なりの心配から出てきた言葉だったのだろう。しかし、テンションが上がっている今のイエナには「その装備の説明をしてください」と言っているように聞こえたのだった。

 つまり、どうなるかというと。


「よくぞ聞いてくださいました!」


 ガンダルフ相手に目を爛々と輝かせながら説明することとなる。


「まずこれは軽銀とこの土地特産のレッドミスリルを混ぜ合わせて作った金属でできています! 見た目の割に重さがとっても軽くって、私でも結構簡単に振り回そうと思えば振り回せるんですよ! 実際、今だって取り出す時そんなに重そうに見えなかったでしょ? ていうか今持ち上げて見せればいいのか。ほら、見て見て、こんな感じに持ち上げられまーす!」


 そう言ってイエナは片手でハンマーを持ち上げて見せる。


「いやまあ……そりゃあ……軽い、のか?」


「持ってみます?」


 手渡して持たせてみると、ガンダルフは簡単に持ち上げ、ひょいひょいと上下させて見せた。


「確かに軽いな。……だが、逆にこんだけ軽くてどうするんだ? 見た目だけかよ」


「いえいえ! そこは私もちゃんと工夫しました。まず、先端が尖っている方は主に鉱石を掘る用途を想定しています。あ、でも一応攻撃もできますよ。一番尖っている部分には先日見学させてもらったドワーフ族の工具を参考にアースフォージを取りつけました。あとそれだけだと味気ないんで、重鉱華の花びらを装飾に使ったので可愛くできたかなーって自画自賛してます。アースフォージと重鉱華の重みのお陰で振り下ろしたときに結構なインパクトがあるはず! それから、反対側はそのままトンカチのように使えるかなと思って平面にしてあります。こちらは勢いをつけて接触すると雷が流れて相手を痺れさせるという仕掛けを採用しました!」


 ここまで一息。

 怒涛の勢いの説明にガンダルフは勿論、カナタも若干引き気味だ。残念なことに、得意満面のイエナはそれに気付いていないけれど。

 ちなみに、雷が流れる仕掛け、というのはミコトの魔法図案を用いて実現させている。ボルケノタートルを凍結状態にする図案を探していたときに「接触時に相手を痺れという状態異常にする」というこの図案を見つけていたので、折角だからと組み込んだ次第である。

 この効果により、敵の足止めをする予定だ。

 イエナ自身、カナタの様に一撃で魔物を倒せるとは思っていない。やはり、戦闘においての自分の役目は足止めだ、と認識している。相手を動けなくすれば、カナタや頼れるモフモフたちがトドメを刺してくれるはずだ、と。


「……まあ、そういう仕掛けなのはわかった。意味わかんねぇけど。けど、やっぱり無駄にデカすぎねぇか?」


「確かに大きいんですけど、私はあまり戦闘向きでないのは事実なんですよね。実際に戦闘になった際に攻撃を上手く当てられるかというとちょっと自信がないんです。でも、これだけ接触面が大きければとりあえず触れるくらいはできるかなぁ……という理由で大きくしました。それに、私にはもう1つ秘策があるんです!」


「イエナ。説明するより見せた方が早いんじゃないか? ちょうどいい感じにあっちからマルマルマジロがやってきてるぞ」


 カナタには事前に熱く説明していたので、やりたいことも通じていたようだ。論より証拠を見せてやれとばかりに向かってくるマルマルマジロを示す。


「ありがと、カナタ! じゃあちょっと頑張ってみるね、フォローよろしくお願いします!」


「よくわからんが、任せとけ」


「とりあえずやれるだけ行っておいで」


 カナタだけではなくガンダルフにも応援され、イエナは転がってくるマルマルマジロの前に仁王立ちする。


(緊張はしてる。けど、興奮もしてる。ヘンな気分だなぁ)


 自己分析をしつつも、それができるくらいには落ち着いている自分に安堵した。冷静に間合いをはかり、そしてここだ! というときに重力魔法を発動。狙いはマルマルマジロの回転を遅くすること。


「てりゃあああ!」


 そして、気合の発声とともにブォンとハンマーを振り回した。

 攻撃がヒットする瞬間にもう一度重力魔法を発動。手に持ったハンマーがグッと重くなると同時に、ガツンといい手応えがした。

 気持ち良いくらいにジャストミートし、マルマルマジロが吹っ飛んでいった。状態異常付与が上手くいったようで、マルマルマジロは防御態勢をとることもできずのびている。こうなればもう攻撃し放題である。


「そぉーい!」


 今度は先端が尖っている方を向けて、振り下ろす瞬間にハンマーを重くする。この追加攻撃でマルマルマジロは無事にドロップアイテム化した。


「……魔法のタイミング難しいなぁ」


「おい、すげぇじゃねぇか。そりゃ一撃で倒せてはいないけど、きっちりトドメさしてやがる! そりゃアイツはこの近辺では雑魚扱いの魔物だが弱くはねぇんだぞ? どんなカラクリだこりゃ」


「えへへ。実は私、重力魔法が使えるんです。ハンマーの重さを変えたり、敵の足止めをして攻撃を当てやすくしたり……試作で使いまくったお陰で発動までの時間は結構早くなったんじゃないかな」


「……はぁ?」


 イエナは丁寧に説明したつもりなのだが、ガンダルフは理解が追いついていないようだった。しかしカナタもこれには苦笑して同意する。


「わかるよ、言ってることは。何となくわかるけど、魔法を連続で使用するとか結構意味わかんないことしてると思う」


「あーうん。実戦向きじゃないなぁってやってて思った。こんなに魔法使ってたら魔力切れ起こしちゃうもん。当分足止めに徹しまーす。練習すればいつかは魔法の補助なしでも当てられるようになるかもだし」


 一度の戦闘にこんなにも魔法を使っていたらやはり魔力が勿体ない。いくらタタ様に加護を貰った重力魔法(強)であってもだ。


「そうしてくれた方が俺も助かる。正直自分が戦ってるよりも緊張したよ」


 カナタもバカラを手にいつでも助太刀に入れるように待機してくれていたようだ。フゥと息を吐いて安心した表情を見せる。


「私も倒せたって安心したらドッと疲れが……」


「慣れないことするからじゃないか? 今日はこの辺で引きあげよう」


 カナタの提案にイエナは勿論ガンダルフも異を唱えることはなかった。3人で揃って帰路につく。

 その最中に、ガンダルフがイエナに聞こえないようにそっとカナタに耳打ちしてきた。


「お前が規格外なのは予想してたが、ツレまで規格外なのかよ」


「規格外なのは修理して見せた時からわかっていたんじゃないのか?」


 ボソボソと話す2人。イエナは武器の改善計画を考えるのに夢中でこの会話は耳に入っていなかった。


「いや、そりゃ修理がうめぇ奴っていうのはどこの世界にもいるよなぁ……とか思ってたんだがよ。まさかこんな形で更にとんでもないことをやってのけるなんてな。規格外のバーゲンセールか?」


「まあそこは同意するよ。本人が無自覚なのも含めてちょっと危なっかしいんだ。ってことで、彼女を危険にさらさないためにもボルケノタートル討伐はアンタが矢面に立ってくれよな」


「……まあ女子供は守るべきもんだからな。やってやらなくもねえけどよ。しかしまあ本当に規格外だわ」


 呆れに満ち満ちたガンダルフの声に、カナタはなんともいえない表情を浮かべつつも深く頷いたのだった。


【お願い】


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