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150.地底の冒険

「おぉ、お前らいいところに来やがったな」


「げ。ガンダルフか」


 カナタの新武器とイエナの初めての武器が無事完成した翌日。

 宿の美味しい朝ごはんを食べ終わり、それじゃ互いの武器の威力を試そうか、と勢い良く外へ出たところでガンダルフにつかまってしまった。


「何だぁその態度は。俺が来ちゃ悪いっていうのかよ」


「まあまあいきなり喧嘩腰にならなくても。で、何か進展ありましたか?」


 実際問題として、イエナはガンダルフに結構な量の武器を渡している。彼に適した武器を探り、攻撃力アップを狙ってのことだ。武器壊しの異名を持つ彼の腕力に耐えうるものがあれば良いのだが。

 イエナが取りなしたお陰か、ガンダルフもそれ以上つっかかることはせず現状報告をしてきた。


「とりあえずノヴァータで用心棒やら護衛やらをやってる連中に声をかけてきたぜ。『よくわかんねえがデカガメを倒せるかもしれねえ』つったら何人か乗ってきやがった。ついでにそいつらの知り合いとかその知り合いとかにまで声をかけてくるってよ。全部がきたら結構な人数が集まりそうだ」


「それは良かった! やっぱり人が多いに越したことはないからな」


 本当は冒険者ギルドにも出来高報酬で依頼をだそうか迷っていたところなのだが、この分だとしなくても大丈夫そうだ。ガンダルフの意外な顔の広さにちょっとびっくりである。とは言え、不安要素はあるわけで。


「でも、その人数とりまとめられるの?」


「ドワーフ族で冒険者パーティ組んでる奴らがいたからぶん投げてきた」


「それは……いいのか?」


 予想もしていなかった返答に、カナタが表情を曇らせた。

 人集めをガンダルフに任せたら更に外注していたらしい。流石に収拾がつかなくなるのではないかと心配になる。

 だが、ガンダルフは全く気にしていないようだ。


「いいんじゃねぇか? っつか、あいつらがしゃしゃってきたしな。『お前が音頭とったら纏まるモンも纏まらなくなる』とか好き勝手言いやがって……。っつーわけで、俺はお前らとあいつらの連絡係ってわけだ。まだ日程は決めてねぇんだろ? 決まったら教えろ」


「いいのかなぁ……まぁいいか」


「いいことにしよう。で、日程の件は早くて一週間後くらい、かな。イエナの作業的にどう?」


「うん、そのくらいあればきちんと試運転して問題があったとしても改良できるはず……どうしようもないトラブルがあった場合はこっちから連絡するわ」


「おう、わかった。……んで、お前らはどこか行くのか?」


「あぁ。ちょっと新しい武器を試しに」


 本当の目的はカナタのレベル上げなのだが、そもそもガンダルフはレベルという概念を知らないはず。そのためカナタはそういう言い回しをしたのだろう。流石だなぁと感心してしまう。


「へぇ。じゃあ俺も着いてってやるか」


「なんでだよ……」


「いいじゃねぇか。この近辺のやりやすい狩場教えてやるぜ」


「……まあそれは確かに助かるか」


 予定では一旦冒険者ギルドに寄って、狩場を確認するつもりだった。確かにガンダルフに案内してもらった方が手間が省ける。


「それに貰った武器も目の前で試した方が効率いいだろ?」


「それもそうね。2人分まとめて改善できちゃうわ」


「効率なんて言葉知ってたのか」


「お前俺のこと馬鹿にしてるだろ?」


「少ししかしてないぞ」


「結局してるんじゃねえか!」


 そんな漫才のようなやり取りを交えながら、ガンダルフの案内で土ウサギの砦と呼ばれる場所までやってきた。

 土ウサギの砦は、木々の根っこが地面から天井まで連なっている。地上から考えると、林などの根の深いところに空洞ができている感じだろうか。まっすぐ進もうにもあちこちに張り出している根が邪魔して上手く進めない。この根の隙間を縫うように土ウサギが逃げていくのでそんな名がつけられたようだ。


「この辺りの岩盤はバカみてぇに丈夫なんだ。俺が本気でブッ叩いても壊れねぇ。だから俺でも安心して狩れるってわけだ」


「木の根が本当にすごいな。これ地上だとどんな巨木になってるんだろう?」


「根っこが伸びきれずに避けてるあたり、あの辺もしかしてグラニトール鉱石!? 鉱石屋の店主さんが言ってたやつ」


「あ~~そうらしいな? たまに採掘師たちもこの辺りに来るからよ。あいつらでも戦える、もしくは逃げ切れる魔物しか現れねぇから武器試しにゃあ丁度いいだろ。最悪俺なら素手でも倒せる連中ばっかりだしな」


 ガンダルフは自信満々にそう言ってのける。万が一、魔物に急接近されたとしてもガンダルフがいればなんとかなりそうだ。ガンダルフの攻撃の余波でダメージを食らいそうな気もするが。


「ぱっと見た感じ岩系の魔物が多いみたいだな」


「おう。ちょっとばかり硬いがお前なら問題なく倒せるだろ? なんたってボルケノタートルとか言うデカガメを倒そうとしてるくらいだしなぁ」


 先ほどまで皮肉を言われていた意趣返しか、ガンダルフがカナタを煽ってくる。だが、カナタはその通りだ、と頷いた。


「この辺りの魔物に苦戦していたらアレは倒せないってのは合ってるよ。折角イエナが作ってくれた武器なんだから、そんな事は起きないけどな」


 そう言ってカナタはバカラを構えると走り出した。

 向かった先にはこの地域ではおなじみのマルマルマジロがいた。


「ハッ!」


 気合の掛け声とともに一突き。バカラは短剣なのでリーチが短く、その辺りをカナタは不安に思っていたようだ。が、そんな不安は微塵も見えない思い切りの良さだった。

 真っ直ぐ突っ込んでくるカナタを警戒したマルマルマジロはその硬い甲羅の中に身を隠す。しかし、バカラは吸い寄せられるようにその甲羅の隙間へと飲み込まれた。


「ほぉ。やるじゃねぇか」


 ガンダルフが感心したように呟いたときには、マルマルマジロは光を帯び、ドロップ品へと姿を変えていた。


「カナタ、どんな感じ!?」


「メチャクチャ切れ味いい! 短剣だから近づかなきゃいけないっていうのはあるけど、このくらいなら余裕! やっぱ凄いなイエナの武器は!!」


 カナタのテンションが思っている以上に高い。バカラはカナタの手になじんでくれたようだ。


「俺が近接戦闘にちょっと追いつけてない感じがするな。もう少し戦ってみるよ」


「りょうかーい」


「俺も戦うぜ。武器も試さなきゃなんねぇからな」


「感想お待ちしてまーす」


 こんな感じで土ウサギの砦をズンズン進んでいく。稀に地中から敵が現れることもあったが、カナタの危機察知で全く危なげなく倒すことができた。

 イエナはメモを片手に2人について行く。なお、進む間にガンダルフの武器は数個壊れてしまった。勿論その場で修理はしたが、武器壊しの2つ名は伊達じゃないんだなぁとある意味感心する。

 そうやって魔物と戦闘を繰り返すこと小一時間。このあたりの魔物は結構な強敵だったようで、無事にカナタのレベルが1上がった。


「そこそこ調子が良さそうじゃねえか」


「そうだな。コツがつかめてきたと思う」


 たった今殴り倒したロックモールを顧みることもせずニヤリと笑いかけるガンダルフに、カナタは足元で動かなくなったマルマルマジロからバカラを引き抜いてそう応じる。


「ガンダルフさんは、見ている感じ拳闘具が一番壊れてないですね。やっぱり柄のある武器はそこから壊れていっちゃうなぁ……」


「理屈はわからんが、こいつはかなり楽だ。要はぶん殴るのと同じ要領だからな……ただ、威力を考えるともっちょい重くならねぇか?」


「あ、できますよ! じゃあそこ改良しますね」


 実は普通の拳闘具よりもちょっぴり重さは足してあったのだが、ガンダルフにはまだ物足りなかったらしい。より武器の攻撃力が上がるように改造案を頭にいくつか思い浮かべる。

 そうしてカナタのレベル上げとガンダルフの武器のお試しが一通り終わった頃、イエナは2人に声をかけた。


「ノッてるところ申し訳ないんだけど、次魔物が来たら私にやらせてくれないかな?」


 イエナの提案に目を剥いたのはガンダルフだった。


「はぁ!? お前が?」


「うん、いいよ。昨日作ってたやつを試すんだな?」


 対するカナタは事情を知っているのもあってすんなりと受け入れてくれた。


「そういうこと! ちょっと仕留めきれないとかあるかもしれないから、そのときはよろしくね」


 そう言ってイエナはインベントリから巨大なハンマーを取り出したのだった。

【お願い】


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