149.新武器作成会
ガンダルフと色々と話し合った結果、彼が人集めをしてくれることとなった。人集めを押し付けたと言うかもしれない。
「まぁ地元の人間が解決する方が自然だろうしな」
「剛腕っていうカッコいい二つ名持ちなんだから、人も集まるわよね」
とは言ったものの、少々良心がチクチクする部分はなくもない。なんとなく、騙している気がするからだ。それをカナタにも相談したところ
「騙してるわけではないけど、本当のことは言ってないよな。それに対して良心が疼くのはわかるよ。でも、そこはほら、一番最初に殴りかかってきた分の慰謝料代わりと思っていいんじゃないか? それか、これから作るガンダルフの武器をちょっと気合い入れて作るとかさ」
という返答だった。
それで、あの大量の武器となったわけである。
「まだ気にしてる?」
「ん~……ちょっとね。でも大丈夫。それより、カナタの新武器づくり頑張らないと!」
イエナが何を考えていたのかすぐにカナタはわかったらしい。心配そうに声をかけてきた。
心配をかけたくなくて、イエナは気持ちを切り替える。
実際、ここからはまた別の作業が始まるのだ。
ボルケノタートルを倒すための前提条件である凍結状態に持ち込むというのはイエナの作った仕掛けで解決できそうだ。今は徐々にサイズを大きくして問題がないか確認している段階である。
そうなると残るは戦力の問題だ。ガンダルフに関しては先日大量の試作武器を半ば強引に渡しており、その結果待ちだ。ついでに、人数の問題もガンダルフに押し付けたのでほぼ解決済みと言って良いだろう。
あとはカナタの強化である。
「そうなんだよな、新武器作り……そして、幸運のサイコロとの別れ……」
カナタはカナタで心中複雑なようだ。というのも、ボルケノタートルと戦うために武器を変えなければいけないのである。
現在カナタの主力武器はイエナお手製のイチコロリ。これは一撃必殺の武器で、毒に耐性がある大型魔物討伐には向かないのだ。したがって、武器を新調することになるのだが、当然ながら新しければ何でもいいというわけではなく。
「俺だって計算しつくしたんだ。他の武器でもシミュレートしたし、冒険者ギルドに依頼する人数を増やしたらあるいは、とか……。でも、大型魔物を倒すとなると、妥協はしたくなくて……」
少々効率厨のケがあるカナタは、様々な計算をしたらしい。その結果選んだのは、『バカラ』という名の短剣だった。製作手帳によると、幸運のサイコロを素材に使うらしい。
つまり彼は泣く泣く幸運のサイコロを手放すという選択をしたわけだ。
「なんていうか、カナタも難儀よねぇ」
「なにがだ?」
「だって、倒すのはガンダルフたちに任せるっていう選択肢もあるじゃない」
「流石にそれは無責任だろ。ガンダルフを唆した以上、俺だって前線に行くべきだよ」
「そして戦うなら自分も最高効率で臨みたいってワケよね」
やっぱりちょっと難儀で、そして誠実だなぁと思う。だからこそ、最高の出来の武器を作りたいと思うのだ。
「作ってもらったら試し切りがてらレベル上げにいかないとな。じゃないと効率が悪くなっちゃうから」
「幸運のサイコロを手放す分、運の値が低くなっちゃうのよね?」
「そうそう。イチコロリの即死効果がなくなるわけじゃないけど、今後を考えると今レベルを上げる方が良さそうなんだ。イエナには申し訳ないけど……」
「そんなことないわよ! それに私だってちょっと試してみたいことがあるんだ~」
そんな会話をしながらカナタの新武器製作にとりかかる。
凍結の仕掛け作りにウンウン唸っている間に、カナタが鉱石を売っている場所を見つけてくれたのだ。流石採掘王国のカザドである。豊富な種類の鉱石にイエナの目はキラッキラだった。
なお、鉱石店の店主から「若い娘っこなのに宝石じゃなく鉱石に目を輝かすとは見所あるじゃねぇか!」と何故か気に入ってもらえたようで、カザドならではの話なども教えてくれた。お陰で質の良い鉱石をゲットするとともに、鉱石についての知識を得ることができたのはかなりラッキーな出来事である。
「そういえば店主とかなり話し込んでたもんな。何か新しいもの作るのか?」
「えぇ、ちょっとしたチャレンジをしてみるつもり……だけど、その前に。幸運のサイコロ、くださいな」
「……うっす」
余程愛着があるのか、カナタは今生の別れとばかりにじっとサイコロを見つめてから、両手で押し包むようにしてイエナに渡してきた。
(カナタの憂鬱を吹き飛ばせるくらいの会心作にしてみせるわ!)
幸運のサイコロは1つしかないので、失敗は許されない。気合を入れて材料を並べていく。
今回製作する『バカラ』は、攻撃すると確率で相手の運を吸い取るという曰く付きの短剣だ。ただし、自分の幸運値が低いと逆に相手に運を吸い取られてしまう。カナタが仕組みを説明してくれたがちょっと複雑でイエナには理解できなかった。ただわかったのは、幸運値が物凄く高いカナタが使えば、ほぼ確実に敵が不運に見舞われるということ。
(戦闘中の不運っていうと、よろけるとか? でも四足歩行の亀がよろけるかしら? まぁカナタに良いことが起きるならそれでいいか)
うんうん、と1人納得して製作に取り掛かる。本職の鍛治職人ではないイエナは、魔力を併用しながら鉱石を成形していく。幸運のサイコロを埋め込み、この剣がカナタを助けてくれるように願いながら。
作業時間はそう長くかかるものではない。けれど、1つも抜けも漏れもないように慎重に、丁寧に形作っていく。
そうやって完成した短剣はイエナ自身も今までで一番の出来と自負できるようなものだった。
「すごい……」
完成した、とイエナが差し出す前に、カナタが思わず漏れたといった口調で呟いた。
その言葉がとても嬉しい。
「でしょ! 我ながらイイ仕事ができたと思うわ。はい、どうぞ。持ってみて違和感とかないか確かめてみて」
改めて完成したばかりのバカラを手渡す。
少し反りが入った両刃。柄は握りの感触を最優先しながらも、鞘との調和を考えた細工を施した。そのあたりは元彫金見習いのプライドを惜しみなく注いだつもりだ。勿論見かけだけではなく、抜きやすさにも十分こだわっている。
「手に取るとより良さがわかるな。しっくりくるっていうか……ムチャクチャすごい。え、俺語彙力ないわ、ごめん。すごいしか言えないよ」
「ふふふ、良かったー。気に入ってくれたみたいで」
「イエナの作ったものを気に入らないわけがないって思ってたけど、これは本当に想像以上だよ。今すぐ試し切りに行きたいくらいだ! ホントありがとう!」
「いいえーどういたしまして。実際使ってみてからの微調整も受け付けるからね」
普段穏やかなカナタがここまで喜びを露わにするのは珍しいことだ。イエナもつられて嬉しくなってしまった。
そんな上機嫌のまま、もう1つの作業に入る。
「イエナ?」
「んっふっふ。最高傑作が製作できた勢いでやっちゃうわよ~」
かねてからイエナは思っていたのだ。
自分だって、武器があれば戦えるのではないか、と。ただ、イエナは非戦闘ジョブのハウジンガーである。武器らしい武器が扱える気はしなかった。
「製作に使っているものと兼用するならそこまで練習がいらないんじゃないかな」
旅立ってまだ間がない頃、カナタに言われたことである。それを元に世界にひとつしかない、イエナ専用武器を作ってみることも勧められた。
この街に来て、必要な素材は全て揃えることができた。今こそずっと温めてきた思いを形にするときだ。
イエナは鼻歌交じりに自分専用の武器を作り始める。その様子をカナタは新たな武器となったバカラを手に見守っているのだった。
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