148.なしくずし的共闘
「おい、お前。手合わせしろ」
「だが断る」
セイジュウロウの話をした次の日も現れたガンダルフは、開口一番にそう言った。そして、カナタにあっさりフラれていた。フラれるというと語弊があるが、まぁそんな感じだ。
懲りないなぁ、というのがイエナの正直な感想だが、昨日の萎れた様子よりはマシかと思い直した。ついでに言うと、例に漏れずイエナはカヤの外である。別に中に入りたくはないので良いのだが。
「なんでだよ!」
「理由がない」
「俺にはある!」
なおも食い下がるガンダルフにカナタはデカビッグな溜め息を一つ。過去のあれそれで心中お察ししてやらないこともないが、それでもやはりカナタに手合わせを受け入れる理由などない。相手をしてあげるカナタはとても優しいと思う。
「一応聞いてやる。どんな理由だ?」
「……このままじゃ俺はアイツを超えたかわかんねぇじゃねぇか」
「だから俺と戦うって? そもそも俺とセイジュウロウは別人だぞ? 似てる俺と戦って万が一勝ったところでそれで気が晴れるとは到底思えないな」
(万が一って言っちゃうんだー。まぁでも、力任せなガンダルフの攻撃がカナタに当たるとは思えないからそんなもんか)
逆にカナタが本気になれば恐らくイチコロリで一撃だ。さすがにそれはマズいので防御に徹した戦い方を選ぶだろう。カナタの体力が心配になるところだが、その前に痺れを切らしたガンダルフが普段以上に大振りになって、武器を壊して終わりというあたりがオチになると予想された。
「じゃあどうしろっつーんだよ!」
ガンダルフにしてみれば、唐突に目標を失ったようなものなのだろう。彼とて薄々は感じていたはずだ。もうセイジュウロウに会うことはない、と。ただ、それを認めたくなかっただけで。
セイジュウロウを超える、倒すという長年の目標はもう達成できない。人間とドワーフの間で時間の流れに差があることは、厳然たる事実なのだ。
それでも、違う目標を持つことはできるわけで。
「……セイジュウロウができなかったことをすればいいんじゃないか? 例えば、ボルケノタートル討伐」
ボルケノタートル討伐は、イエナたちの目的だ。ガンダルフが手伝ってくれればよりスムーズに事が進む。カナタは彼に新たな目標を提示することで、双方の利を一致させようと試みているのだった。
「そんなモン、あいつならできるだろうが」
やはりセイジュウロウに絶大な信頼を置いているらしく、ガンダルフはこともなげに言い放つ。
「全盛期の彼でも、それはちょっと難しかったんじゃないか? まず第一に、アレは1人で討伐できるもんじゃない。ストラグルブルと同等と考えていい」
「あの牛と同等か。なら、確かに無理かもしんねぇけどよ……」
「普通に考えて何十人って人数がいる。盗賊の彼が声をかけた場合、知り合いの精鋭は集まるかもしれないけれど、多数を集めるのは無理じゃないか?」
「……盗賊だってだけで馬鹿にするクソどもはわんさかいたな」
吐き捨てるように言うところを見ると、やはりセイジュウロウもかなり苦労していたらしい。もっとも、セイジュウロウが馬鹿にされた瞬間ガンダルフが殴りかかりにいってそうな雰囲気を感じるが。
「ガンダルフさんならノヴァータの街で顔が広そうですし、人数を集めるのってできそうですよね」
ちょっと持ち上げ気味だが、イエナたちがやるよりは彼の方が人は集めやすい気がする。ガンダルフを心配した人たちが説教がてら大集合しそうだ。
「……街のヤツらを頼れっつーのかよ」
「イヤなら無理にとは言わないが……でも、その方が楽に倒せる」
「街の人たちも、通路を塞ぐボルケノタートルがいなくなるなら協力してくれるんじゃないかしら?」
イエナもそう言い足せば、ぐぬぬ、とガンダルフは唸った。
「お前がそう言うってことは、少なくとも倒す算段はあるってことだよな?」
「あぁ、イエナがなんとかしてくれる」
「コイツがぁ? ……いやでも、オッサンらも唸るぐらいの修理の腕だったか。何するつもりなんだよ」
「コイツじゃなくてイエナです。あと、こっちはカナタ。いつまでもお前とかてめぇとかやめてよね」
いつまでもそんな呼び方をされるくらいなら名前を呼ばれた方がマシである。ちょっと立腹しながら訴えれば「お、おう」とやや気圧されたような返事が聞こえた。
「ボルケノタートルの強さは、甲羅の溶岩が7割だ。アレがあるから攻撃しづらいし、溶岩飛ばしの攻撃が脅威になる。だから、それを凍らせればいい。今イエナがそういう仕掛けを作ってくれてる」
「はぁ? デカガメを凍らせる!? できんのかよ、そんなこと」
「一応できる計算よ。確実とまでは言い切れないのが悔しいところだけど」
そう、小さく作った試作の段階では凍らせることには成功した。ついでに牛乳を凍らせてもアイスにはならないことも学んだ。
あの仕掛けをそのまま巨大化させればボルケノタートルをも凍らせられるはず。ただ、何事にも計算違いや想定外というのはある。完璧100%と言い切れないのが辛いところだ。
「失敗した場合は?」
「即座に撤退だな。そもそも、凍結状態に持ち込めなければ何人集めても倒すのは難しい。溶岩を飛ばされる前に撤退して、再度凍らせられないか試す。それなら被害は最小限で抑えられる」
「なるほどな……」
ガンダルフはその太い腕を組んで、考える素振りを見せる。だが、その時間は決して長くはなかった。
「デカガメを倒せりゃ、間接的にセイジュウロウに勝ったことになる、か……。いいだろう、やってやろうじゃねぇか」
ニヤリと笑ったその顔は、決して人が良さそうなとは言えない。ただ、思い悩むような顔よりはずっと彼らしいと言えるだろう。
彼の機嫌が上向きになったところで一気に畳みかける。
「よし、じゃあ人集めはガンダルフに任せた。『よくわからんが凍らせたら勝てる』って言って戦える人集めてくれ」
「やっぱそれは俺がやんのかよ!」
カナタに食ってかかりそうなところに、イエナが割って入る。
「はい! こちらボルケノタートル討伐の協力者へのプレゼントです。武器壊しの異名に負けないように丈夫に作った武器が数種類あるので、全部試してみてくださいね。あと、試したらそれぞれ感想も聞きたいのでよろしくお願いします。お代は感想と相殺ということで!」
凍結の仕掛け作りの息抜きに、ガンダルフのレベルに合わせた戦士用装備をいくつか作っていたのだ。製作の息抜きに別の製作をする、というのはクラフターあるあるである。あるあるなのだ。
インベントリから取り出して1本1本渡していく。ガンダルフは目を白黒させながらも受け取った。
「は? 感想? 俺が?」
「だって、あなたが使う武器ですから。あなたの手持ち武器を修理してもいいんですけれどマナメンダントでの修理では耐久力に不安がありますから。そんなのをあなたが振るったらすぐ壊れちゃうでしょう? だったら、最初から新しい武器の方がいいかと思いまして」
「いやだからって……人集めして、武器使って感想まで持ち帰れって……そんな、それはお前……」
「頑張れ、セイジュウロウ超え」
「てめぇそれを言えば俺がなんでもやると思ってんじゃねぇだろうな!?」
文句を言いつつも、なんだかんだガンダルフは押し付けた武器をきちんとインベントリにしまい込んでいる。
(よし、これで武器壊しに負けない武器作りっていう趣味と実益を兼ねたことができるわ! それに人集めもガンダルフに上手く押し付けられたしね。カナタとの完璧な連係プレーだったわ!)
思わず「計算通り」と悪い笑顔を浮かべてしまうイエナであった。
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