145.凍結成功
「で、できた? できたんじゃない!? カナター! ……は、今外出中だったっけ」
ルームの中に響くのはイエナの声のみ。
現在2人は別行動中だった。ドワーフの街並みからヒントを得たイエナは、魔法図案を駆使しながらボルケノタートルを凍結状態にさせる仕掛けづくり。カナタは街へ買い出しに。
買い出しと言っても普段の食料品の買い出しだけではなく、今後の武器づくりのための鉱石の買い出しも含まれる。こちらもボルケノタートル討伐に必須の事項だ。
「イエナ、ただいまー。調子の方はどうだ?」
「あー帰ってきた! ナイスタイミング! おかえりなさい! 今ね、丁度完成したところなの。試運転するから見て見て!」
そこへカナタがまるで計ったようなタイミングで帰ってきた。おかえりを言うのもそこそこに、カナタをグイグイと引っ張ってリビングのテーブル前まで連れて行く。抵抗することなく、けれど、苦笑を浮かべながらカナタはイエナに着いてきてくれる。
「見ててね、いくわよ!」
テーブルの上には凍結させる仕掛けと、コップに入った牛乳。
(大丈夫。試作品だからちょっと小さめに作ったけれど、出力に問題はないはず。計算が間違ってなければ!)
手元のスイッチがわりの紐を通じて、魔法図案を展開させるために魔力を通す。するとーー。
―――キィン
独特の音を立てながら、あっと言う間に牛乳が凍っていった。
「おお! 凄いじゃないか! 凍ってる! これを大きいサイズで作ればボルケノタートルも凍るんじゃないか!?」
カナタはかなり興奮気味だ。
対するイエナなのだが。
「あれぇ?」
凍るまでは予想の範囲内である。しかし、狙った感じにはなっておらずに、首を傾げる。
「どうしたんだ?」
「いや、えーっと……アイスにならないなって思って」
目の前にはコップごとガチガチに凍結した状態の牛乳。アイスクリームよりは、アイスキャンディの方がまだ近い……かもしれない。
「それで牛乳……なんで水じゃないんだろうと思ったんだよな。イエナ、牛乳を凍らせただけじゃアイスにはならないよ?」
「えっ……じゃ、じゃあ、これどうしよう」
「ひとまず置いておこうか。アイスが食べたいならあとで作っておくからさ」
イエナの予定では、凍結状態を作り出す仕掛けの完成祝いにアイスを食べる予定だったのだが。若干想定とは違ったものの、完成したことに変わりはないのでヨシとしておこう。……アイスはちょっと食べたかった。
「アイス、よろしくおねがいします」
あまりカナタに料理を任せすぎてしまうと、カナタが帰った後に泣くことになるかもしれない。そんな思いが頭をよぎるけれど、一度脳裏によみがえったアイスの誘惑には勝てなかった。素直にカナタに頭を下げてアイスを強請る。
「うん、任せて。ただ、申し訳ないけどすぐにってワケにはいかなくてさぁ……」
先ほどまでテンションが高かったカナタだが、何かを思い出したように眉を寄せた。
「何かあったの?」
「ガンダルフに絡まれた」
「うわぁ……良く振り切ってこれたわね」
何故だかはよくわからないけれど、ガンダルフはカナタにつっかかってくる。その癖、ボルケノタートルを倒すために組もうと勧誘してきたりとよくわからない。せめて協力してほしいのならそれなりの態度をとればいいのに、と思わなくもない。
「実は振り切ってなくて、宿のロビーみたいなところで待たせてるんだ」
「えっそうなの!? やだ、女将さんに迷惑かかっちゃわない?」
「それは大丈夫そうなんだけど……」
なんでも、ガンダルフは人の話を聞かず宿までついてきたそうだ。言いがかりのような文句を交えた勧誘をしながら。そんな姿を女将さんに見られたところ「あらやだ、ガンダルフお友達だったのかい? じゃあ寄っておいきよ」となってしまったそうだ。
「ガンダルフって顔広いのかしら……」
「広いっていうか、年齢層が上の人たちから可愛がられてる感じがするな」
「小さいときに手を焼いた悪ガキが大きくなって、そのまま世話を焼かれているように見えるわね」
「その認識で合ってそう。ともかく、女将さんに迷惑はかからないとしても、いい機会だから話してみないか? ちょうど凍結状態に持ち込む糸口ができたところだし」
「一応、最終確認なんだけど、ボルケノタートルを倒すとしたら、やっぱりガンダルフの力はあった方がいいのよね?」
色々と話を聞いているうちにガンダルフへの見方はすこーしだけ変わった。ドワーフの国に生まれた規格外の体格と力を持った青年。それはやはり生きていくだけで窮屈だっただろうことは予測できる。
だが、それはそれとして性格が合うかと言われれば……なわけで。
「ボルケノタートルを倒すために百人単位で人が集まってくれれば、ガンダルフがいなくても大丈夫だろうな。でも、そんな規模を集めたら俺たちが無駄に目立つだけだし、それだけ目立ったらあっちから寄ってきてゴチャゴチャ言い出すに決まってる。それくらいなら最初から噛ませた方がマシだ。何より力が有り余ってる上に戦う気があるんだから戦わせた方が絶対に得だと思う」
「そうなのよねぇ……」
理屈はわかる。ストラグルブルを倒した力を遊ばせておくのは勿体ない。
「気が進まない?」
「うーん……そういうわけでもないんだけど」
カナタに改めて尋ねられて考え込む。
イエナ自身は殴りかかられた、という実感が薄い。カナタが守ってくれたし、当時は何が起こったのかわからなかったというのが正直なところだ。だから、彼と一対一で話すのだとしたらあまり気にしないと思う。
実際、今から彼のために武器を作る予定なのだが、それは全く気にならない。というより、興味深いサンプルなのでガンガン質問したい。
「あーわかった。ガンダルフってなんだか妙にカナタにつっかかるじゃない? それがイヤみたい。カナタが何したっていうのよってムキになっちゃうっていうか。強くてかっこいいから嫉妬ですか~? とか言いたくなっちゃうというか。そんなことしたら話し合いにならないじゃない? だから、喧嘩売らないようにってそっちに意識がいっちゃうから冷静に話せるかなぁ~……みたいな」
何がイヤかを冷静に自己分析すると、こんな感じなようだ。いっそのこと、カナタ抜きで交渉してもいいかもしれないとすら思う。ただ、ガンダルフの眼中にイエナは入っていなさそうだったので、カナタがいないと交渉どころか話にもならない可能性も考えられる。
「う、うん……」
「どうしたの、カナタ」
「いや……うん。とりあえず、ガンダルフと話してみようか」
自己分析できてスッキリしたイエナとは対照的に、カナタはなんだか妙に歯切れが悪くなっていた。
「冷静にね、冷静に。いい戦力なのは間違いないんだから」
「うん、俺も冷静に頑張るよ……」
そんな若干意味合いがズレた言葉を掛け合いながら、2人はガンダルフの元へと急ぐのだった。
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