144.ノヴァータの街を見て
ノヴァータの街は本日、ところにより雨漏り。
外は雨なようで、地盤の裂け目や薄いところからポタポタと水が落ちている。場所によっては滝のようになる場所もあるそうだ。
「曇ってても結構明るいのは光茸や光苔のお陰なんだろうな」
「……うぇっ!? ごめん、聞いてなかった」
イエナとカナタは現在ノヴァータの街を観光中だ。
だが、イエナは若干上の空である。
「外に出てきても考えてるのは重症だなぁ」
結果、話を聞き流されてしまったカナタだが、怒った様子はない。だとしても申し訳ない気持ちにはなるわけで。
「ううう、ごめん~。でも、どうしても上手くいかないのが悔しくって……」
ドワーフの採掘現場の見学後、2人は話し合って迂回路干渉ルートを断念することに決めた。素人が手出しできる問題ではないと思い知ったのだ。そういう点で、見学は有意義だったと言える。
そうなると残るは巨大亀討伐ルートのみ。弱点だという冷気が決め手になるのは間違いない。
2人とも氷魔法を使うことはできないので、イエナはどうにかしてボルケノタートルを凍らせる仕掛けが作れないか試行錯誤していたのだ。だが、今のところ失敗続き。うんうん唸っているところを、気分転換に行かないかと誘われたのだ。
珍しいノヴァータの街並みや店に並ぶ品々が目にとまるものの、やはり気付くと仕掛けの改善点を考えてしまう。
「これはもう職業病ってヤツかも?」
「だってだって……カナタの準備は万端じゃない」
「まだ万端ってわけじゃないよ。目途がついただけで、レベル上げはこれから」
ボルケノタートルを倒すにあたって必要なことは大まかに分けて2つ。
1つ、ボルケノタートルを凍らせるための方法を考える。ここがイエナが行き詰っている部分である。
2つ、凍らせたあとに完璧に倒せるだけの戦力を揃えること。こちらは更に3つの目標に分けられる。ガンダルフの勧誘、倒すための人数確保、そしてカナタの強化だ。
「そうだとしても、一番大事な凍らせる部分の計画が私のせいでストップしてるんだものー!」
そう、いくら戦力を揃えようとも、ボルケノタートルを凍らせられなければそれまでの努力は水の泡になる。イエナの発想に全てがかかっているといっても過言ではない。そのプレッシャーがイエナを焦らせ、余計に良い発想が生まれないという悪循環が生まれていたのだ。
「そんなに思い詰めなくてもいいって。どんなにかかっても1年待機よりは早いだろうし……」
「考えつかなかったら1年待機に変わりない~~~」
わーんと大げさに泣き伏したいところではあるが、ここは往来なので一旦我慢だ。下手したらカナタがDV男に見られてしまう。ドワーフは意外とフェミニストが多いっぽいので。
「うーん……プレッシャー感じてるなぁ。もっと気楽にでもいいんだけど」
(カナタはそう言ってくれてるけどさぁ……。急ぎたいのはカナタじゃん。この世界に転移? してきてもうだいぶ経つじゃない……)
カナタは異世界人だ。いつか、帰る人である。
一緒に旅に出て、同じ景色を見て、モフモフたちのお世話をして、他愛のないことで笑い合っていても、いつかはいなくなる人。
イエナはそこにかなり焦りを感じているのだ。
(私、カナタの美味しいご飯なしに生きていける気がしないんだもの!!)
このノヴァータの街で味わうカザド料理はとても美味しい。ワタタ街でちゃんとした食に飢えていた身からすると最高と言っていいくらいには。
でも、それは言ってしまえば「外食の味」だ。
イエナにとって普段の味、家庭の味というのがカナタの料理になりつつある……気がする。これは由々しき事態だ。何せ、カナタはいつかいなくなってしまうのだから。
だからこそ、カナタがいる日常に慣れ切ってしまう前に、急ぎたいと思ってしまう気持ちがイエナにはある。胃袋事情以外にも理由があるなんてことは……。
「おーーーーい、イエナー! そっち真っ直ぐ言っても別の街に続く坑道に行くだけだぞー!」
考え事をしながら歩いていると、変な方向へと進んでいたらしい。唐突にカナタに手をとられた。要するに、手を繋がれたわけで。
「うひゃあ!?」
「うわぁ!?」
過剰にに驚くイエナに驚くカナタという、なんとも間抜けな図になってしまった。
「ご、ごめん。ビックリしたぁ」
「いいよいいよ。でも人や壁にぶつかっていくのは止めような」
「ううう、ごめーん」
多分取り繕えたはずである。心臓がバクバクうるさいし、急に手汗が気になってしまうけれど。
カナタはいつも通り落ち着いた様子で、ある方向を指さしてきた。
「折角街外れの方まで来たことだし、あそこまで登ってみないか? ノヴァータの街が良く見えそうだ」
「あ、ほんとだ。行ってみましょうか」
いつの間にか取られた手は離されていて、そこだけが妙に熱いような、そんな感じがした。
カナタが発見した道は、地上への直通階段を掘ろうとして途中で止めたものらしい。というのも、階段近くに看板があり「直通階段工事中」という文字の上に二重線が引かれ、その下に「この先行き止まり」と殴り書きがあったのだ。
「……ドワーフって、足腰丈夫なのね」
ドワーフの歩幅に合わせた低めの階段ではあるが、長く登ると少しずつ息が上がってくる。横のカナタはまだ余裕があるようだ。やはり鍛え方が違うのか、それとも戦闘ジョブとクラフタージョブの違いか。
「かなりタフな種族だ、とは知っていたけど実際に見るとパワフルだよな。スーズリさんがツルハシ一振りしただけであんなに穴があくと思わなかった」
「あの大穴で、水脈とか魔物への影響は少ないって言うんだから、あれも匠の技術よねぇ」
そんな会話をしながら登っていると、踊り場のような場所に出た。
また看板があり「この先水源。雨漏り不可避」と書かれている。
「上に掘っていくと水場に出ちゃうのか。そりゃあ掘るのやめるよな」
「この辺り、全然水の気配ないのにどうやってわかるのかしら……」
その辺りの土を触ってみても、湿っている感じはしない。ごく普通の土の感触だ。やはり、採掘専門のドワーフは知識と経験が違うのだろう。
「イエナ、下の景色凄いぞ」
「え? うわ、本当だ。ノヴァータの街全体を見渡せるのね」
「観光にちょうど良さそうなのに人がいないんだよな」
「そりゃあ……観光のために旅する人ってかなり少ないと思う。特にカザドを訪れる人って商人か、鍛治とか採掘を学びたい人ってイメージあるし」
商人なら滞在時間を延ばせばその分儲けが減ると考えるだろうし、技術を学びに来た人は観光より勉強を優先しそうだ。
「勿体ないよなぁ、こういう景色見ないの」
「そうねぇ。光苔か光茸かわからないけど、アレがすっごいキレイ」
陽の光とはまた違った柔らかな光源に照らされた街の中で、人々がせわしなく動いているのが見える。
「……なんだろう。段々家の並びが魔法図案に見えてきた」
「じゃあ人の動きが魔力の動きみたいな?」
「それは考えたことなかったかも。面白い発想ね……人が魔力の流れかぁ…………えっ、あっ、カナタちょっとごめん!」
今の話で、ふと、思いついたことがある。それを書き留めるためにイエナはインベントリから紙を取り出してペンを走らせ始めた。机などはあるはずもなく、地べたにはいつくばっての形になるが、イエナは気にしない。
そんなイエナをカナタは微笑ましそうに見守っていた。
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