114.モフモフとの邂逅
本日の天気は曇り時々雪。けれどヨクルに言わせると、これはこの地方にしてはとても穏やかな天気だそうだ。
「もしスカッと晴れたとしたら、すごく寒くなる日だよ」
「晴れの方が寒いんですか?」
とても意外な情報だ。晴れれば雪も溶けてくれそうなものなのだが。
「そうそう。なんでかっていう理屈は知らないけど、晴れの日の方が骨身にしみる寒さになるよ」
「骨身に……それは嫌かも」
今はアタタマモリのお陰で動けているけれど、これがなければこの地方で普通に生活できるかすら怪しい。まして、雪で埋まった道なき道を進むことなんて論外だろう。
「あ、そうそう。この前イエナさんに貰ったフロスティの部屋! あれすごく良かったよ、本当にありがとう! フロスティも喜んでるよ」
「よかったです! ちょっと広さが心配だったんですけど、フロスティから不満は出ていませんか?」
「大きさも温度も快適っぽい。助かるよ、やっぱり外で飼うにしても誰かに見つからないかヒヤヒヤしたから」
先日、ヨクルに使役されたフロスティだったが、家に連れて帰った際に少々問題が起きたらしい。というのも、人間のヨクルが過ごす部屋の温度がフロスティにとって暑すぎたのだ。
半溶け状態になった雪だるまを、慌ててベランダに出して事なきを得たという。
ということで、プレゼントしたのは少し小さめの冷凍庫。氷の魔石はヨクルのレベル上げの際にめちゃくちゃ出てきたし、その前からもたっぷり集めている。在庫は十分な上、この地域は他よりも氷の魔石が安く手に入るので今後も使えるはずだ。
「一番の発見は、冷凍庫に入ったままならフロスティもインベントリに入れられることだよ。これは本当に便利」
良いものが作れたと悦に入っていたイエナだったが、ヨクルから出てきた新情報に目を剥く。そのイエナよりもカナタの方が先にその話題に食いついた。
「インベントリに入るんですか!? 生き物が!?」
生きている状態のものはどんなに小さくてもインベントリに入れられない。魚でも、虫でも、勿論魔物でも。
しかしながら、冷凍庫に入ったフロスティはインベントリに入れられたらしい。ヨクルは証拠とばかりにインベントリから冷凍庫を取り出す。
「フロスティ、今日はよろしくな」
雪だるまの形をしたフロスティがピョコンと冷凍庫から飛び出てきた。
「ほんとに入ってた……すごい」
「これ、どういう理屈なんだろう。ヨクルさんとフロスティが主従の関係だから成り立ってるのか? サンプルが少なすぎて予測がつかない……」
「俺も入るとは思ってなかったけど、やってみたら意外といけてな。フロスティに聞いてみても特に体調に変化はないみたいだったし。これで今回みたいに外に連れて行くときもコソコソしなくて済むから本当に助かるよ」
「捕まえた当日、ちょっと困りましたものね」
街の中に連れて行くときにどうしよう、という話になり、結局イエナがその場で木箱を作ったのだ。
「君たちにはすごく感謝してるよ」
「何そんな終わりみたいなこと言ってるんですかー?」
「そうそう。私たちの依頼はここからですよ」
「もし雪女の住んでいた場所が思ったよりも遠かったらまたご迷惑かけることになりそうですしね」
「それはまあそうなんだけどね。何て言えばいいのかな……。こういう不便があるんだよねって話すと、その場でアドバイスをくれたり、次に会ったときに解決する道具を持ってきてくれたり……お陰で生活が快適になったからさ。すごくありがたくて」
今回、自分たちの目的のためにヨクルを巻き込んでしまった。その罪悪感も相まって、相談には全力で乗らせて貰っている。
「少しでも暮らしやすくなってるなら良かったです」
「ありがとなぁ……。……さて、しんみりするのはここまでにして。その目的地とやらに行ってみようか」
しみじみとお礼を言った後、照れてしまったのか、ヨクルは鼻をかきながら話題を変えた。そこに突っ込むような野暮なことはせずに全力で乗っかる。
「はい、頼りにしてますね」
「よろしくお願いします」
ペチュンの街では、遠出する際の貸しトナカイをやっている。これは自警団がお世話をしているトナカイで、ヨクルとも顔見知りらしい。というより、ヨクルの本来のメイン仕事は自警団が管理するトナカイの世話役なのだという。
今は早めに降ってきた雪のせいで、人手不足。そのため、門番役が巡り巡ってきたのだとか。そのお陰でヨクルと親しくなったのだから、縁とは本当にわからないものだ。
ヨクルはトナカイに跨り、イエナたちは徒歩で街の北門をくぐる。そうして暫く歩き、人の気配がなくなった頃イエナはヨクルに声をかけた。
「それじゃあ私たちもペットを連れてきますので、ちょっと待っててくださいね」
「え? 連れてくるって、どこから?」
雪に埋め尽くされた道。その傍らには雪を被りながら寒さに耐える木々。振り返ればくぐってきた門も雪にけぶってもう見えない。そんな光景の真ん中でいったいどこから連れてくるというのか、という疑問はよくわかる。
「ヨクルさん、これも他言無用でお願いしますね」
そう言ってカナタがイエナにOKサインを見せる。魔物の危険もないようなので、イエナはさっとルームを呼び出し、中にいるモフモフたちを迎えにいく。
「へ!? えぇ!? 何!? なんだこれ!!??」
大騒ぎするヨクルの声をBGMにスタンバイしてくれていたもっふぃーとゲンを手招きする。
「初めて会う人だけど、敵じゃないからね。お行儀良くお願いねー?」
2匹に言い聞かせて頭を撫でようとする。もっふぃーは撫でさせてくれたけれど、ゲンは相変わらずツーンとしていた。でも、もうそこも可愛い。
そんなこんなで2匹とヨクルの初対面である。
「私たちのペットのメリウールという魔物です」
「こっちの黒いのがゲン、こっちの白いのがもっふぃーって言います」
「賢い子たちなので攻撃性はないですし、安心してください」
「なるほど。トナカイは俺の分だけでいいって言っていたけどこういうことか。そういえばペットの話もしていたもんな」
「あ、そうそう。その餌でペットになってくれた子たちです。とっても可愛くて賢くて癒しなんですよ~」
フロスティも確かに可愛らしい雪だるまだが、やはりナンバーワンはこの真っ白モフモフなもっふぃーだろう。ペット馬鹿と笑うならば笑うがいい。うちの子がナンバーワンであることは揺るがないのだ。
「なんかもう君たちに関しては何が飛び出てきても驚かないよ。なんで扉が出てくるんだか……」
本格的に出発する前にやや疲れたような表情をするヨクル。多少申し訳ない気持ちはあるけれど、こればかりは慣れてもらうしかない。トラブルがあればその都度小出しにしていくことになるのだし。
それぞれ騎乗して、目的地へと走る。
「この辺りから先が、雪がヤバい地域だったはずです」
「確かにこの辺りには獣系の魔物が出没したって話は聞かないから、自警団や狩人も足を踏み入れていないだろうね。雪はすごく深いと思う。……よく生きて帰ってこれたね?」
「この子たちに助けられてなんとか。そう言えばこの辺りって『アイスブルグ』って名前じゃなかったですか?」
実は私がズボッといってしまってテヘへ、とイエナが答えるより早くカナタが別の話題をぶっ込んでくる。正直、少しばかり面食らってしまった。
「よく知ってるなぁ。俺が生まれる前くらいの昔の呼び名だよ」
「そうなんですね。聞いた覚えがあったんですが、ギルドで見せて貰った地図にも載ってなかったもんで」
「港が整備されて交易が活発になった頃から言われなくなったみたいだな。多分、お偉いさんが凍るとか寒いとかいうイメージをなくしたかったんだろうね」
「なるほど…」
「ま、呼び名を変えたところで気候が変わるわけじゃないけどさ」
あとから話を聞くと、カナタは元の世界の知識にしたがってここまで来たものの、地名が一致しないため、確信が持てずに内心焦っていたらしい。
ちょっと強引な話題転換も気にせず大らかな笑みで答えてくれるヨクルは、本当に善い人だと思う。彼のこれからを決して不遇なものにしてはいけない。
イエナが心の中で決意を新たにしたところで、一旦トナカイとモフモフたちから降りることになった。
「それじゃあ、フロスティ、頼んだよ」
ヨクルの周りを回っていた雪だるまが「任せろ!」とでも言うように気合の入った表情を見せた。
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