113.フロスティの力
「とりあえずこの子ちゃんと雪を食べれるんだろうか?」
「えっ!? 食べるの!?」
「あ、そういえば私たち『雪かき』としか言ってなかったかも」
ヨクルに説明する際に雪かきという言葉は使ったが、正確なところはそういえば話していなかった。
「スノースライムは雪を食べることができるんです……多分」
「多分なんだ……。え、フロスティ、その辺どうなの? いける?」
魔物使いヨクルによって使役されたスノースライム、フロスティ。皆の視線を注がれた彼? 彼女? は、そんなヨクルの疑問に答えるべく、雪だるまの口部分を大きくガバリと開けた。そして、そこらにあった雪をバクッと文字通り食べる。跡地にはポッカリ穴が空いていた。
「すごーい!」
「雪かるクン1回分くらいは余裕で食べましたね。すごいな」
雪かるクンでの雪かきは、かいた後にその雪を邪魔にならない場所に運ばなければならない。しかし、フロスティが食べた雪は跡形もなくなってしまった。あの雪だるまの体のどこに収納されたのか、とても不思議だ。
ただ、通常の雪かきとは段違いで楽であることはわかる。と言うか、むしろ人間は何もしていない。雪かきですらない、雪かくしとでも言えばいいだろうか。
「お前どのくらい食ったら腹いっぱいになっちゃうんだ?」
フロスティの能力に盛り上がるイエナとカナタ。そのはしゃぎぶりをよそに、ヨクルは心配そうに声をかけていた。これから使役することになるのだから、食べたあとの具合が気がかりになったのだろう。早くも飼い主の自覚が芽生えたのかもしれない。
ヨクルが問いかけると、フロスティが何か反応を示した。しかし、イエナたちにはさっぱりわからない。
「なんとなくだけど「いくらでもどんとこい」って感じの雰囲気あるな」
こちらにはわからなくとも、飼い主のヨクルとは意思疎通が出来ているようだ。
「そうなんですね。こっちからだと何もわからないんですけど……」
「俺もこんなことは初めてで戸惑ってる。こんな、魔物の考えがわかるだなんてなぁ。さっき何かが繋がったような感覚あったから、そのお陰なのかも」
「そこが魔物使いが使役するメリットなのかもしれませんね」
「どういうこと?」
一人得心したような雰囲気を漂わせているカナタ。ヨクルが質問してくれたけれど、イエナも実はよくわかっていなかったので有難い。
「実は俺たち、魔物のペットを飼っているんです」
「え? 君たちも魔物使いだったの?」
「いえ、違います。魔物の中には、餌を与えることでペットになってくれるタイプがいるんですよ」
予定ではヨクルの次の休みに雪女の住処まで一緒に行って貰うことになっていた。普通に歩いて行くのでは日暮れまでに到底戻れないので、ヨクル用にトナカイを借りる手筈は整っている。そして、イエナたちはいつも通り賢くて可愛いモフモフたちに騎乗するつもりだ。
モフモフたちの存在は先に知っておいて貰った方がいいだろう。
「じゃあ、別にこうやって叩きのめして使役しなくてもいいのか?」
「そういう種族もいます。けれど、その場合意思疎通はハッキリとはとれません」
そうなのだ。もし、もっふぃーの意思がハッキリと伝わっていたのであれば、イエナがズボリするという失態を晒すことはなかっただろう。雪が深すぎるのでこの先には行けないよ、という複雑なことは彼らは伝えられないのだ。
まぁその分あまりにも可愛く癒しだからプラマイは大きくプラスに傾いている。
「幸いなことに、今私たちがペットにしている子たちは、結構感情が豊かなのでわかるところもあって助かってます。あと可愛いんですよ」
イエナの親ばか発言にカナタが大きく頷いてから続ける。
「あと、生き物だから当然なんですけど、餌がずっと必要になりますね。苦労してペットにしたのに餌が足りないって逃げられることもあるので」
「餌……フロスティ、お前主食何だ? どのくらい要るんだ?」
ヨクルが問いかける。すると、また何か反応があったようだ。傍目からはさっぱり分からない。
「特に必要ないみたいだな。餌に釣られる奴らとは違うぞ、みたいな雰囲気を感じる」
「はぁ~。やっぱり結構違うんですね」
色々と飼い主であるヨクルが質問をするが、きちんと答えは返ってきているらしい。念話とか、そういう感じなのだろうか。もっふぃーたちとはできないことなので少し羨ましい。
(いやでも、ゲンちゃんには結構怒られてるし、あの勢いで「この馬鹿飼い主!」とか「カナタの相方に相応しくないわよっ!」とか言われたら凹んじゃうかも……やっぱ今の感じでいいか)
なお、当の本羊は「カナタとイエナはいつツガイになるのかしら? ほんとボンヤリ飼い主たちね!」と思っていたりする。これはこれで伝わったら一悶着ありそうなので、やはりそのままの方が良いのだろう。
「俺が雪かきの手伝いをして欲しいって思っていることも伝わったし、何と言うかすごく頼もしいな」
ヨクルが褒めると、雪だるまの顔が照れた感じになる。モフモフたちのように鳴いたりはしないけれど、これはこれで飼い主以外の人間にも感情は読み取りやすくて良いかもしれない。
「それじゃあ早速雪かき手伝ってもらおうかな」
ウキウキで仕事の手伝いを頼もうとするヨクル。だが、そこに待ったの声がかかった。
「あ、ごめんなさい! ちょっと待ってください!」
「え?」
「今スノースライムに雪かきを手伝ってもらうと、ペチュンの街全部雪かきするまで帰れませんってなりそうじゃないですか?」
「あ、あー……そうかも。メインストリートはきれいにしたいし、お年寄りのおうち周りは優先してやりたいな。いや、ヌクラゲに影響ないよう港周りが先か?」
「そんな感じでヨクルさん自身も迷うくらいじゃないですか。街の人の要望だってあるでしょうし」
いくら雪かるクンが普及してきたとはいえ、それよりも更に簡単に雪を食べてくれるフロスティがいるとなれば皆が欲しがるはずだ。最悪街に混乱が起きる。それはイエナたちが望むところではない。
「フロスティが活躍するためには、ある程度決まりとかを作った方がいいと思うんです。そういうのは行政とかに相談すればいいのかな? 俺はよそ者なのでその辺りはわからないんですが……」
「理想はごみ捨てとかと一緒で、雪捨て場を用意するとかでしょうかね。積まれた雪を何日間かかけてフロスティが食べるみたいな」
「確かに、いきなりだと街も混乱するな。もしかしたら俺の休日返上になって君たちの目的達成も危ういかも……」
実はそれが一番困る。なので、フロスティの使役を公表する際には是非とも慎重にして頂きたい。
「それにフロスティのこともまだわかってないじゃないですか。折角縁があってペットになったんですから、色々とお互いのこと知った方が良いと思います。例えばさっき私は雪捨て場を用意すればって言いましたけど、実は積まれて重くなった雪は好みじゃないとかもあるかもしれないですよね」
「なるほど。じゃあ俺の仕事を適度に手伝ってもらいつつ、フロスティのことよく知る期間って感じかな」
イエナの必死の説得が功を奏したようで、ヨクルはあっさりと同意してくれた。
「そうして貰えると俺たちも助かります」
「もし必要そうな備品とかあればご相談くださいね! 全力で解決しますんで!」
そんな感じでこの日は一旦解散となった。ついでにパーティも解散しておく。イエナの日課の製作でヨクルのレベルを上げすぎないようにするためだ。
「どうにか行けそうね、雪女さんのとこ」
「だな。もうこれ以上のトラブルが起きないといいんだけど……」
こんなカナタのセリフがフラグとなるか。今のイエナたちにはまだわからなかった。
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