111.使役計画その2
「禁止薬物に手を出している気分だ……」
個室のお店だからいいものの、大変物騒な発言がヨクルの口から飛び出てきた。一体彼に何が起きたというのか。
「めちゃくちゃ物騒ですけど、どうしたんですか?」
「どうもこうも、君たちのせいじゃないか!」
ダンと駆けつけ一杯のジョッキをテーブルに力強く置く。本日はビール気分らしい。もしくは、ガーッといかなきゃやっていられないのか。
てんやわんやの契約から2日が経っている。レベルアップの進捗を聞くためにお昼を一緒にしているのだが、その間ヨクルは色々と大変だったようだ。
「目を覚ますと同時に『レベルアップしました!』って言われるの、ほんとーに心臓に悪いよ」
「あ、そうか。ヨクルさん私たちと生活リズム違うから、寝てる間にレベルアップされてる感じになっちゃうのか」
目が覚めてすぐ「お前、レベルアップしてるぞ」とお知らせが来るというのは非常に稀な体験だろう。確かに心臓に悪そうだ。
特に今回、カナタはメチャクチャ張り切って魔物を倒した。最早蹂躙の域に近いかもしれない。何せこの辺りの雪の精タイプに属する魔物の数を減らせば、その分雪も減ると聞いてしまったもので。
まるで神隠しに遭ったかのように人間一人が消えた瞬間を体感したのだ。気合の入り方が違う。かもしれない。とにかくカナタの気合の入った活躍のお陰で、ヨクルに相当の経験値が流れたのは間違いないことだった。
「しかも妙に美味い差し入れもあるし、こんな高級店に間隔空けずに来ることになるし……俺の生活水準いきなり引き上げないでくれる!?」
美味い差し入れとはカナタ作のジンジャークッキーである。味も美味しいが何よりも貰える経験値が数パーセント上がるという素敵なバフがあるのが魅力だ。今回の件にうってつけだろう。
「でもあのクッキー、ホントに美味しいですよね~」
「いや、イエナ。そういうことじゃなくて。でも、お店に関しては、他に良さげな個室があるところを知らなくって……すみません」
「わかってるよ。こんなヤバイ話は個室でしかできないって。俺の借家はちょっと壁が薄くて心配だし、そもそも3人で集まるには狭いし……」
「あー……俺たちが厄介になってる宿に聞いてみるとか? 地元でできた友人とゆっくり話したいんですーって」
「カナタ、それあんまり変わらない気がする」
ペチュンの街でとった宿は一般的に見ればなかなかの高級宿だ。そこの来客となると、当然受付を通すことになる。恐らく休憩室などそれなりの場所に案内されるだろうが、個室は難しそうだ。それにあったとしても、高級家具に気を遣いながらの相談はより落ち着かない可能性がある。
「いつもの日常へ戻るためにも、早く終わらせたい。とりあえず明日は休みだから、そこでスノースライムの使役チャレンジするんだよね?」
「はい! 今のヨクルさんならきっとスノースライムも言うことを聞くと思うんで」
カナタの乱獲と差し入れのお陰で、ヨクルのレベルはスノースライムより上になった。これなら使役できるはずだ、というのはカナタの談である。
「でも捕まえるって具体的にどうすれば?」
「とりあえずヨクルさんにスノースライムと戦って貰って、弱らせます」
「え、俺一人で!?」
「すいません、俺が助太刀するとそもそも瞬殺しちゃうんですよ」
「え? あぁ、そうか。カナタくん、そんなに強かったのか……」
ヨクルにはステータスやスキルを見る方法は教えていない。ただ、パーティを組むときにこんな枠がある、と知っただけである。それもイエナの勧めで消してしまったはずなので、多分今後も知ることはないだろう。
「あ、ちなみに私は非戦闘員なので……。あ、でも怪我をした際にはポーション等たくさん用意してますので! それに、ヨクルさん専用武器もご用意させて頂きました!」
ジャーンとインベントリから取り出したのは、ヨクルのレベルで装備できる一番良い武器だ。勿論イエナお手製で、手を抜くことなく最高品質で作り上げた会心作である。これで彼の攻撃力を思い切り底上げできるはずだ。
「これ……鞭、だよね? まぁ確かに魔物使いとして馬やトナカイに使ったことはあるけど、武器として?」
渡されたヨクルは困惑顔だ。ここ最近ずっと彼は困惑しているような……。きっと気のせいだ。
しげしげと鞭を眺めていたヨクルだが、その表情はだんだん明るくなっていく。
「なんていうか、凄く手に馴染む気がする……」
「イエナの渾身の作ですからね」
何故かカナタが自慢気に言う。まぁ、嫌な気はしないけれど。というか、ちょっとくすぐったい感じだ。
「ともかく、それで攻撃して、弱らせます。俺の方も攻撃にまでは参加できなくとも、相手にデバフ……要は弱らせられるように動きます。弱らせたところで「とらえる」……なんですけど、ちょっとそれが俺たちにもよくわかってないんです」
ここは、嘘も方便だ。
本当であればスキル欄を開いて取得すれば良いだけ。けれど、ここはちょっと賭けに出た。とりあえず物理的にとらえれば、スノースライムが使役できるのではないかと考えたのだ。
実際、イエナはスキルを知らなくても製作物は作り上げていた。
ならば、ヨクルだってスキルを知らなくても使役できてもいいはずである。
「あぁ、まぁ君たちでもわからないことはあるか。魔物使いじゃないなら経験もできないだろうし」
「ということで、物理的にとらえてみましょう。各種網を用意しましたので、それでつかまえてみて、餌付けしたりだとかすれば言うことを聞くかもしれません」
「この方法で捕えられれば、街にすむ他の魔物使いも同じ方法で使役できると思うんですよね。勿論ヨクルさんよりもレベル上げがちょっと大変になってしまいますが。こうすれば街全体の雪かきをヨクルさんだけでしなくても良くなって、より雪かきが楽になると思うんです」
この嘘も方便の一番の利点はこれだ。皆にステータスだのスキルだのを知らせることなく、この街の雪かきが楽になるのだ。
物理的なやり方が通用しないとなれば、ヨクルにだけスキルを使う方法を教えることは可能ではある。だが、その後のトラブルの種になりそうで気は進まない。現在彼は精霊証書による契約で、色々なことを口外できないようになっている。
やり方は教えられないけれど、便利な技は知っている。そんな状態のヨクルが辿る道はかつてのセイジュウロウに近くなってしまうんじゃないかと懸念しているのだ。
「街にも魔物使いジョブは何人かいたから、こういう方法で使役して雪かきが楽になれば最高だな。じゃあ明日とりあえずやってみようか」
まずは何事もお試し。ということで、この場は解散することになった。
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