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107.白銀の世界へ

 何度かの改良を経て『雪かるクン』の試作第1号は無事完成した。あとは耐久面の調査なのだが、そこはアデム商会に持ち込んでお願いする形をとった。なお、使い方についてはヨクルにそのままついて来てもらい、説明を頼んだ。何故なら完全に彼仕様として仕上がっているので。

 アデム商会ペチュン支店の店長は、最初半信半疑だったのだがヨクルが雪かきする様を見ると喜んで買い取ってくれた。イエナとしては「まだ試作段階だ」という点さえ留意してもらえればヨシ。

 更に「サンプルがもう少し欲しいので」ということで、追加で10個ほど作ることに。材料代はアデム商会持ちということでとても太っ腹な話である。


「にしても、イエナさんはすごい職人だなぁ」


 アデム商会からの帰り、約束通りヨクルにご飯を奢っていると、そんな言葉をかけられた。


「あ、いえ。アイデアはカナタのですし」


「俺も大元はどこかで聞きかじった情報だからなぁ。あとで怒られかねないのでナイショにしといてください」


「ははは、謙虚だなぁ。でもホント、これが老若男女問わず簡単に使えるようになれば凄く楽になるよ。そうしたらここも少しは住みよくなるかねぇ」


 ちょっと酔いが回ったヨクルが、そんな感じで地元愛を語っていたことが印象深かった。

 そこから丸2日かけて、試作品の製作日。と、見せかけた観光デーを設けた。イエナの手にかかれば試作品は文字通り朝飯前に終わってしまうのだが、それはちょっと目立ってしまうだろうということを懸念した結果である。目立たず穏便に、それがカタツムリ旅のモットーなので。……だいぶ、今更感があるのはぬぐえないけれど。

 カムフラージュ目的でも見知らぬ土地を回るのはやはり楽しい。大雪にも負けずに開店していた雑貨屋や食品店を覗いて、雪国ならではの物に触れてみたり。ヨクルお勧めの食堂で地元料理に舌鼓を打ったり。大満足の2日間を過ごしたのだった。

 その後、「たった今頑張って作り終えました」という顔をしてアデム商会に雪かるクン試作機を納品してから冒険者ギルドへ。


「あの、雪かき依頼はちょっと……アレなんですけど。その代わりアデム商会に雪かき用の器具を納めてきたので、少し雪かきが楽になるかも? です」


「お気遣いありがとうございます。こちら依頼されていた雪女さんに関する資料になります。気が向きましたらぜひ雪かき依頼も!!!」


 相変わらず雪かき依頼激推しの受付嬢から依頼品を受け取り、いざ、本命の地へ。


「雪の降り具合が穏やかで良かったわ」


「昨日みたいにずっと降ってて風もあると外に出る気が起きないもんな。あれで吹雪とはまだ言わない~って宿の人とかが言ってたからちょっとビビったよ」


「あれはまだ吹雪じゃないってキリッとした顔で言われたものね……雪国の人つよい……」


 外出する気がなくなるほどの雪と風の中、雪国の人は当たり前のように日々の生活を送っているのだ。心の底から尊敬してしまう。かいてもかいても終わりがなさそうな雪をかき、その上で通常業務もこなすのだから。

 幸いにして本日はそんな天気ではなく、なんなら晴れ間がちょっと見えるレベル。青空もあるのに雪がちらついているのは少々解せぬという気持ちになるけれど。

 まだまだ雪が積もる街並みを抜けて、この街に到着したときとは反対側の出入口へと向かう。イエナたちがヨクルと出会ったのは街の南門。そして、これから向かうのは北門だ。こちらは主に狩りをする人たちが出入りするための門だ。

 途中トナカイに跨った人たちに追い越された。こちらでは馬よりもトナカイに騎乗するのが一般的らしい。


「さて、じゃあゲンたちを迎えに行くか」


「周囲よーし。ルーム出すわよー」


 周囲の確認を終えてから、ルームにいるもっふぃーたちを迎えに行く。ここ数日走ることができなかったのでやる気は満々のようだ。


「それじゃあよろしくね。もっふぃー、ゲンちゃん」


「ちょっと雪が深そうだから注意して進もう」


「メェッ! メェッ!」

「めぇ~~~」


 元気な鳴き声を合図に、一行は北へと向かう。全員がアタタマモリを身につけているので、寒さは一応耐えられるぐらい。もしなければ10分に1回の頻度でルームに籠もっていたかもしれない。

 足元の雪はかなり深く、道部分がかろうじてわかるような状況。恐らく先ほどのトナカイに乗った一団はここを通ったのだろう。


「ここからは、人が通ってないところだな」


 暫く進むと、カナタが道から離れる方角を示した。


「女の人でこのルート通れるもんなのかしら?」


「真冬はほとんど街に来なかったみたいだ。……食糧問題はインベントリにつっこんでおけばなんとかなるとして、マジでどうやって暮らしてたんだろう?」


 そんな話をしながら先へと進む。流石の可愛くて賢いモフモフたちもいつもより慎重な足取りだ。それでも徒歩より十分速いので助かっている。


「また、出た。今度はフェアリーの方か」


 言うが早いか、カナタは雪国仕様イチコロリで出てきた魔物を打ちぬく。今回も正確に急所にあたったようで、一撃でスノーフェアリーはいなくなった。


「狩猟ルートから外れているからか、雪の精系の魔物ばっかり倒してるわね」


「ギルドの報告書では、彼女が雪の精を倒してたからその辺りの年は雪が比較的穏やかだったんじゃないかってさ」


「へぇ、そんなことまで調べてくれてるのね」


 ギルドの報告書には、おおよその居住地だけでなく、街の人からの聞き込みや、過去のギルドの依頼の中から雪女に関係のありそうなものをピックアップしてくれていた。お値段に見合うだけの情報が詰まっている。


「ただ気になることも書いてるんだよな……。雪女の居住地の近くに行くと、恐ろしい声がするらしい」


「何それ、怪談?」


 怪談は夏の暑い時期にするのがいいのであって、こんな寒いところで身も凍るような話なんて洒落にもならない。だが、これはギルドの調査書である。そんな冗談が書いてあるはずがない。


「声だけじゃなく多くの冒険者や狩人たちが「なんとなくあっち方向は行かない方が良い」と思ったらしい」


「なあにそれ。危機察知みたいなスキルあるの?」


「いや、ない。けど、ここら辺に稼ぎに来る人たちは皆それなりに手練れのはず。そういう人たちが口を揃えて言うのなら、何かあるのかもしれない」


「あーベテランの第六感的なやつね」


 イエナはクラフターなのでそちら方面しかわからないけど、確かに熟練の職人だけがわかる、勘としか言いようのない現象はたまにある。同じようなことが戦闘ジョブにあっても不思議ではない。


「色々警戒しながら、安全に行こう」


 カナタの言葉に大きく頷いて、先へと進む。

 現れるのはスノースライムにスノーフェアリーにユキンコ。サイコロの加護付き強運スキルのカナタが倒すことで氷の魔石がザックザクと手に入ってくる。他にもレアっぽい氷の宝石のような何かがあったが、確認もそこそこにインベントリに放り込んだ。気になるけれど、今じっくり検分していては何が起こるかわからないから。……とても気になるけど。

 そんな感じで調子よくカナタとゲンが倒し、もっふぃーに騎乗したイエナがドロップ品を拾う。そのサイクルでうまくやっていたのだが、突然もっふぃーが足を止めてしまった。

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