11.魅惑の素材とビジネスパートナー
職人なら一度は憧れるのではないだろうか。
付与すれば特殊な効果がつく素材を使って、それはもう頑丈な鎧を作りたいだとか。もしくは宙に浮くくらい軽いローブを織ってみたいだとか。
そんな夢を実現する素材に、高確率でカナタは出合えると言い切った。
「ギャンブラーのスキルに豪運ってのがあるんだ。端的に言えば物凄く運が良くなる。普通にグリフォンを100体狩ったとしても風切り羽をドロップするのは1つ程度なものだ。でもそのスキルがあれば1体、運が悪くても3体も狩れば十分。計算上の話だけど」
「でも、それだったらギャンブラーの人は大もうけじゃない。そんな話聞いたことないけど」
そんなに出回ってしまえば市場価格が崩壊する。それらの素材は出回らないからこそ高額なのだ。
「多分なんだけど、この世界のギャンブラーってまともにレベル上げられてないんじゃないかな。そもそも、ギャンブラーって何系統の職だと思われてる?」
「系統? 戦闘とか、職人とか? そういえば教会の資料でもギャンブラーというジョブがあるのは書いてあったけど、どういうのが得意とは書いてなかったわね」
言われてみて考える。
といっても、身近で知っているギャンブラージョブはズークだけ。彼はどの職をやっても長続きしなかった。
それはギャンブラーという職への偏見もあるとは思うが、全く適性がない職についていたからというのもあるのかもしれない。今までで一番続いていたのが接客業で、物作りをするクラフターや採取を生業とするギャザラーも不向きだった覚えがある。
「だよなぁ。実はギャンブラーって戦闘職なんだよ」
「えぇ!?」
この日一番の驚き発言が飛び出した。
あのズークが戦闘職!? という気持ちが一番大きいかもしれない。
「筋力は戦士や武闘家には劣るし、器用さなんかは職人の足元にも及ばず。ステータスをふればなんとか盗賊と並んで斥候を務められる程度。スクロールを使えば魔法も使えないことはないけど相性は良くはない。それでも、ギャンブラーは戦闘向きなんだ。……っていうか戦闘以外不向きがすぎる」
「まぁ確かにコツコツ何かを採取したり製作したりってイメージはないかな」
「ギャンブラーってジョブは全部を運に任せるんだ。運のステータスを上げまくってね」
「まさか、その運がドロップを良くするってこと?」
「そのまさかだよ。だからゲームの中ではレアを狙うならギャンブラーがいなきゃ始まらないとか言われてたんだ。サブキャラ作って何人かで回したりしたなー」
サブキャラという単語はわからないが、ギャンブラーというジョブが重要なことはわかった。カナタが成長すれば、夢の素材が手に入る確率が上がるのだろう。
だが、それでもまだ不安はある。
「で、でもそれって結局モンスターを倒せたらってことでしょ? ハウジンガーとギャンブラーでそんなのどうやって倒すの?」
先ほど例に挙がったグリフォンだが、これは高ランクの冒険者が何人かでパーティを組んで倒すような存在だ。もしグリフォンが人里近くに巣でも作ったら国の討伐部隊が動き出すようなレベルのモンスターである。
たった二人、しかも片方は戦闘ジョブではないパーティが挑むものでは決してないはずだ。
「言ったろ、ギャンブラーは超大器晩成型ではあるけど戦闘職だって。ギャンブラー専用の武器があって、ちゃんとレベルが上がってればグリフォンだったらソロでも討伐できる」
「ええええ!?」
「それに、だ。全部の素材が魔物からのドロップじゃないだろ。採取する系のレア素材の情報は頭に叩き込んであるから、今から行くことだって可能だぞ。ただし、その場合は行くだけだけど。まだ俺らが採取できるレベルじゃないし、そもそもそこに辿り着く前にモンスターにやられて終わりだから」
「それは残念……。いや、そうじゃなくて。ソロって本気で?」
「本気も本気。ついでに言えば、ドロップに期待せず討伐するだけならハウジンガーでもできる。さっき言ったレア素材の採取場所にも、ハウジンガーならソロで休み休み行くことも可能だ。何せいつでもルームが出せるからな。そういった場所も覚えている限り教える。ってことで、頼む。力を貸してください」
整理しよう。
求められているのはこれからカナタとパーティを組んで、レベル上げの手伝い及び住居環境の提供をすること。
対価としてレアドロップ品やレア素材の採取できる場所を教えてもらえる。しかも、自分のレベル上げの助言もしてもらえるという。
思わず即答してしまいたくなるくらい破格の条件だと思う。
「えーと私からも条件出していいかな?」
「そりゃもちろん。といっても俺からの条件はほとんど提示しちゃったけどな」
「いやえーと難しいことじゃないんだ……。これ言うとすっごい自意識過剰みたいでイヤなんだけど」
提示された条件に問題はない。むしろ自分が有利すぎると思う。
それでも、相手が男性である以上、言わなければならない。
「へ? 自意識過剰?」
「そう。あの、ですね。私、つい先日フラれまして。ジョブを理由に職場をクビになったときに、お荷物抱えていけねーよ、みたいに」
「うわぁ。それ助走つけて殴った? あ、でもフラれたからこうして出会えてるわけだし俺としちゃラッキーなのか」
カナタはデリカシーがない気がする。いや、もしかしたら場の空気を軽くするためにあえて言っているのかもしれないけれど。
少なくとも、イエナが醸し出してしまった重苦しい空気はちょっとマシになっているのは確かだ。苦笑して話を続ける。
「それ思ってても口に出しちゃダメなやつでは? いや、いいけど。じゃなくて、ですね。それで、私もう異性関係コリゴリなんですよ。だから、そういう風になるのは大変避けたい案件でして」
気まずくて思わず敬語になってしまう。
言い換えれば「私に惚れるの禁止」などと言いだしているようなものだ。自意識過剰にもほどがある。
だが、もう本当にコリゴリなのだ。男女の関係とやらは。
「あ、オッケー。了解した。ビジネスパートナーとしてよろしくってことだよな?」
「ビジネスパートナー? 確かにそうかも? これって取引だものね」
大雑把に言えば、イエナはカナタに安全な旅路を提供する。
その対価として、カナタから最適な成長へのヒントとレアドロップへの道筋を教えてもらう。
それだけの関係を表すのならばビジネスパートナーというのがしっくりきた。
「誤解しないでほしいんだけど、イエナが可愛くないとかそういう意味じゃないからな。俺は知ってるんだ、固定パーティを組んだ後にパーティ内で男女の関係になったときの恐ろしさを……」
一瞬カナタが遠い目をする。過去に思いを馳せているらしいその姿はどこから見ても哀愁を帯びていた。あまりこの話は掘り返さないでおこう。なんというか、気の毒だ。
「あっでもそれはまぁ俺の事情であって! もしイエナに彼氏ができそうとかになったら速やかにパーティ解散でかまわ……いや、ごめん。ルームは惜しいので、できれば解散せずにその男をパーティに引き入れる方向がいい。個人的に」
「そこまで正直なほうがいっそ清々しいわね」
カナタの必死さに思わず笑ってしまう。
彼はルームというこの便利なスキルにご執心なのであって、イエナには興味がない。実際イエナとしてもその方がやりやすかった。一応フォローをいれるという気遣いができるのもポイントが高い。デリカシー方面は少々不安かもしれないが。
ビジネスパートナー。なかなか悪くない提案だと思う。
「でも、私が彼氏つれてくるってのもないわよ。もうコリゴリだもん」
恋愛関係はもう面倒くさい。
それより旅をして、美味しいものを食べて、珍しい素材に触れて、作りたいものを作って。
そして、ハウジンガーというジョブでどこまでやれるのか試してみたい。
「ビジネスパートナーとして、今後ともよろしくね!」
こうして二人はビジネスパートナーとなった。
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