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101.銀世界の魔物

 イエナたち一行は北へ北へと進む。

 途中、もっふぃーたちも少し寒そうな素振りを見せたので、多少の製作タイムを挟むことはあったが旅そのものは非常に順調だ。

 ちなみに作ったのはイキマモリと同じ模様の首輪である。彼らは自前のモフモフがあるので、空気の膜に包まれるだけで十分だったらしい。以降、足元が雪や氷で覆われていても元気に駆け回ってくれている。大いなる癒しのモフモフだ。

 周囲の景色が雪で覆われていくにつれて、現れる魔物も種類が変わっていった。

 植物系の魔物はほとんどいなくなり、代わりに現れるようになったのは暖かそうな毛皮のある動物系の魔物。それから、雪の精とスノースライム。


「この中だとスノースライムが一番楽よね。まさか雪深いところに来ると雪だるまみたいな見た目になるとは思わなかったけど。スノースライムの他はどれも強そうな感じ」


 スノースライムは周辺の環境に合わせて姿を変えるらしい。一番最初に倒したときは風に流される霜の形だったが、周囲が一面銀世界になると絵本で見た雪だるまそっくりに変わっていた。そうなると外敵に見つかりやすくなるのでは、と思ったりもしたがカワイイのでヨシとしよう。


「動物系はモッフモフの毛のせいでイチコロリが刺さらないんじゃないかってヒヤヒヤするよ。強運スキルに進化してなかったら当たってない気がする」


「わぁ……レベル頑張って上げてて良かったわね」


 このパーティは戦闘員が1人と1匹なだけな割に、倒している魔物の数はかなり多い方だと思う。勿論相手は選んでいる。例えば草原で出遭ったストーンスライム相手にはイチコロリの矢が刺さらない気がしたので避けようとしたりだとか。なお、そのストーンスライムは元気なゲンちゃんが思い切り踏んで砕いて倒していた。強い。

 そんな感じで短期間にしては相当レベルが上がっているのではないだろうか。他の冒険者を知らないので比較はできないけれど。


「あと、忘れちゃいけないのがコレ。コイツのお陰でずいぶん助かってると思う」


 そう言いながら、カナタは胸元から小さな袋状のものを取り出して見せた。


「そうそう、サイコロね!」


 中には海底に沈んでいた海賊船から見つけたサイコロが入っている。当然ながらただのサイコロではない。ギャンブラー専用装備で、クリティカル率が50%も上がるというシロモノだ。ちなみに袋の方はイエナのお手製である。大事なお宝が傷つくことのないよう、強度にもこだわって仕上げたつもりだ。


「サイコロと強運スキルのお陰でちゃんとイチコロリも通用してるし、スノーフェアリーは塩玉で一撃で倒せるからここでもレベル上げがはかどりそうだ」


「あ、冷蔵庫を作ったお陰でデバフ? ってやつを与えるお薬の保管が楽になったわよ。仕留めそこなったヤツがいれば足止めならできそう。麻痺とか、眠りとか」


「フレンドリーファイアが怖いやつだな。でも凄く心強いよ。仕留めそこなったのがいたら頼むな……っと、見えてきたぞ。目的地」


 フレンドリーファイア。恐らく間違ってカナタやゲンに命中させてしまうこと、だと思う。最近は文脈からカナタの異国語もなんとなくわかるようになった。これが染まってきた、ということなのかもしれない。


「あ、ホントだ。雪の向こうに何か見える」


 シンシンと降り積もる雪の向こう側。まず最初に目に入ったのは真っ赤な旗だった。外壁に立てられたそれは、街を目指す人間への目印なのだろう。


「あれが今回滞在する街、ペチュンだよ」


 カナタから軽く聞いていた場所。最北の街ペチュン。雪深い地域では一番栄えている街なのだそうだ。その理由は中型の船が泊められる港があるかららしい。北国でしか捕れない素材や食材を海路で運んでいるという話だった。

 そのため、街道の人通りは実は少な目である。なので、イエナたちも街道に近い場所を今まで走っていた。勿論カナタの気配察知スキルを使って、人気(ひとけ)の有無には十分に留意している。


「じゃあもっふぃーたちはそろそろルームに帰る時間かな?」


「うーん……できればもう少し近くまでお願いしたいな。イエナ、雪道歩く自信、ある?」


「そう言われると……」


 シャルルから受け取った防寒具の中には、雪国で実際に使われている靴もあった。靴裏に凶器のような滑り止めが付いており、防水加工もバッチリの逸品である。それでもなお不安になるのは雪が既にくるぶしまで積もっているせいだ。綿菓子のようにふわふわした雪だが、地面に積もると意外なほど重い。足を取られて大層歩きにくいのだ。

 逆に何故この可愛らしいモフモフたちは優雅に駆けていられるのか。コツを教えてほしいくらいだ。


「もっふぃー……もう少しお願いしていい?」


「めぇ~~~!」


「メェッ! メェッ!」


「ゲンもやる気満々で凄く助かるよ。ありがとうな」


 深い雪の上を、2匹は難なく駆けていく。途中数度魔物に襲われはしたが、ようやく徒歩でもなんとか辿り着けるだろうという距離まで近づけた。2匹にお礼を言ってルームの中に入ってもらう。


「いっそ今日はここで休んでもいいかもしれないな。荷物の整理とかもしたいし」


 さぁ、新たなる街へ、といったところでカナタがこんなことを言い出した。時刻はギリギリ夕方と言えるライン。日が暮れてしまうと魔物の出現パターンが変化するので確かに良い頃合いかもしれない。

 それに、ドロップ品で2人のインベントリはパンパンだ。毎日外に出る前に主にカナタがきちんと荷物整理をしているのだが、それでもたまに追いつかないときがある。カナタの幸運スキルが強化された影響は思っているよりも大きかった。


「じゃあ今日はここまでね」


 旅に無理は禁物である。イキマモリをアレンジしたアタタマモリ(さっき命名した。なお、カナタは何故か苦笑いしてた)という新装備があれば、辿り着けないことはない。が、別に今日のうちに街へ行かなければならない理由はないのだ。


「荷物整理して、飯作って~……鍋でいいか?」


「あ、じゃあこの前言ってたチーズのお鍋食べてみたーい」


「お、いいな。ちょっと時間かかるけど、引っ込んだ時間早いから丁度いいか」


 そんな会話をしながら2人でやるべきことを始める。

 真っ先にやるべきは本日も頑張ってくれたモフモフたちを労ることだ。好物の果物を与えてブラッシング。それから、わかる範囲の予定を2匹に伝えておくことも忘れない。


「って言っても、今のところどうなるかわかんないんだよな」


「まずはその銀世界の隠者さんがどの辺にいたかを調べないとだものね。ってなると聞き込みかぁ。もっふぃーたちが楽しそうに駆け回る時間作れるといいんだけど」


 モフモフを堪能しつつ、ちょっと申し訳ない気持ちでブラッシング終了。今後の見通しが立っていないのは事実なのでどうしようもない。

 2匹をたっぷり労ったあとは、カナタはキッチンへ、イエナはリビングの一角で仕分け作業だ。

 と言ってもイエナの仕分け作業はそこまで難しいものではない。何せルームの整理整頓をほぼカナタに任せっぱなしなので。イエナがするのは大まかな仕分け、たとえば食べ物カテゴリーのもの、製作カテゴリーのもの、くらい。この後カナタが在庫の確認をしたあとで製作素材が製作部屋に来ることになっている。

 仕分けを終えたあとは、ご飯ができるまで辺りをざっと掃除をしておく。これが今の2人のルーティンだ。


「ご飯できたぞー」


「はーい、これ片付けたらいくー!」


 窓の向こうから時折ゴオオと雪が吹き付ける音が聞こえてくるけれど、ルーム内は今日も平和である。

 なお、次の日イエナたちは初めてルームのドアが開かないという事態に見舞われる。

 夜のうちに降り積もった雪に塞がれて、ドアが上手く開けられなかったのだ。結局2人と2匹の力を合わせて押し開けたのだが、出発前から疲弊してしまった、というオチがついた。


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[一言] カナタ君や、かんじきを作るのじゃ
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