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97.残る謎

 ストラグルブルは討伐され、アデム商会からの報酬も貰った。

 あとはもう旅立つだけ、といったところなのだが、イエナたちはまだヴァナに滞在していた。何故かというと、天候のせいである。


「急ぎの用事でもないのに、この土砂降りで出ていくのは不自然だよねぇ……」


 慣れ親しんでしまった高級宿の窓を雨粒が容赦なく叩く。雨だけでなく強めの風もついており、外出には全く向いていない。

 イエナたちも無理に出ていくつもりはなかった。こんな天気で無理に移動してしまえばもっふぃーとゲンちゃんのモフモフが台無しになってしまう。

 ちなみに今2匹は元気を持て余してルームの地下で運動していた。そろそろあちこちを走り回りたい頃合いだろうとは思う。あと数日で出発できるはずなので、もう少し待っていただきたいところ。


「いくら好意とはいえ、宿代が気になるよな」


「ほんとそれよ! でも、折角流通が整ったヴァナの街も少しは観光したいし……」


「旅の醍醐味だもんな。俺も折角の商業都市なんだから食材とか色々買いたい。……何故か金が増えたという不思議もあるし」


「小市民には多すぎるのよね……こわい」


 今回の報酬の他に、商業ギルドに預けてあるお金がなかなか凄いことになっていた。イエナたちがヴァナで足止めを食らっている間に、人魚の村の交易は順調に進んでいたようだ。

 順調なのは良いことだが、何もしていないのに増えるお金は小市民にとってとても恐ろしいものだったりする。いっそどこかに寄付も考えたが、それはそれで目立ちそうなので自粛した。


「それにしても……なんだか謎が残っちゃったな」


「今回のこと?」


 カナタは大きく頷いた。


「倒せたからいいものの、なんでストラグルブルが出現したんだろう……」


「調査はしたものの不明って話だものね」


 ヴァナの街はストラグルブルについて、それはもう全力で調べたらしい。当然だろう。街の近くにそんな大きな魔物がしょっちゅう現れてしまっては流通が滞ってしまう。商業の都と呼ばれるヴァナにとっては致命的だ。

 だがわかったのは、ストラグルブルのような魔物が現れたのは今回が初めてだということくらい。


「俺が持っている情報を下手に拡散するのも良くないと思う。だから、誰にも言えなかったんだよな……やっぱり今からでも言ったほうがいいのか、いやでもな……」


 カナタの懸念もわかる。いたずらに情報を流した場合、誰かが好奇心で試してしまう可能性が大いにある。

 今回は運よく強い冒険者が現れ、イエナというポーション爆速生産職人がいたから被害は少なかった。カナタも縁の下の力持ちとして、密かに討伐参加者の能力の底上げをした。こんな幸運がそのときもあるとは限らないのだ。


「そうなのよね……。まさか私たちがこっそり条件を試すわけにもいかないし」


「俺たちだけで秘密裏に処理できないから却下だな」


「勿論。色んな人に迷惑になっちゃうもの。今回だって流通が滞って大変だったって話あちこちで聞くじゃない」


「周辺を見回った人たちにそれとなく聞いてみたけど、大量に何かを調理した痕跡とかもなかったらしいしな」


 カナタは後方支援をしていたときに仲良くなった冒険者グループがいたらしい。その人たちは引き続き周辺の警戒任務も請け負ったようで、ついでに、と話を聞いたそうだ。いつのまに。

 その人たちが言うには、不審なものは特になかったらしいが……。


「とはいえそれも絶対とは言えないじゃない? 人が入らない場所なんていくらでもあるんだし……うーん、やっぱり八方塞がりだわ」


 冒険者の見回りが不十分という意味ではなく、広大なジャロン草原の中で料理をしたかもしれない場所の痕跡を探す方が無理だと個人的には思う。そういうものに特化した魔法でもあれば別かもしれないけれど。

 そんなことを考えていると、カナタがボソリと呟いた。 


「そもそも魔物ってどこから来てるんだ?」


「えっとそれは……どこかしら? そういうものって感じで疑問に思ったことなかったわ」


「普通の魔物ですらどうして発生しているのか解明されていないんだったら、ああいうのが突然発生するのも不思議じゃないと思う」


「う、うーん。それはそうだけど……でもそっちの世界ではわざわざ条件が設定されてるわけでしょう? だったらそれを誰かがやったって方が考えられないかな?」


 自然発生してるとすれば、過去に同様の魔物が現れた記録があるのではないだろうか。それがないということは、やはり人為的なものな気がする。


「じゃあ考えられるのは……俺の他にもこの世界に転移してきた人間がいてそいつがちょっと試してみたくなっちゃったとか」


「それはあるかも」


 好奇心はニャンコロをも殺す、ということわざもある。もしかしたら呼び出してそのまま……ということだってあるかもしれない。


「俺としては転生者ってのが同時期にゴロゴロといるもんなんだろうかって気はするんだけど。セイジュウロウの日記を読む限り、彼と同じ時代に転生者がいたというようなことは書いてなかった」


「圧倒的な知識がある転生者同士がタッグを組んだらそれこそ世界最強パーティーになってても不思議じゃないわよね」


「そんな話はあまり聞かないんだけど、どうなんだ?」


 言われて顎に指をあてて記憶を辿る。

 両親が聞かせてくれた寝物語や、学び舎で聞いたこの国の歴史。色々な物語を思い出すけれど、該当しそうな話は思い当たらない。そもそも、イエナは冒険者に関しては自分と違う世界の人種と考えていたので興味も薄かった。


「私も冒険者のことに詳しいわけじゃないからなぁ。でもカナタみたいな知識を持つ人が複数人のパーティーを組むってなったら絶対目立ってると思う」


 何せ知識量が違う。多少不利なジョブだったとしても、今のイエナとカナタのペアみたいに長所を活かして無双する方法はいくらでもあるはずだ。


「あ、でも職業が戦闘ジョブじゃないっていう可能性は?」


「戦闘ジョブじゃなく、仮に生産ジョブだったとしたら伝説の職人になってそうじゃない? それこそ会心作しか作らない、みたいな。私そんな人聞いたことないわよ」


「うーん、そっかぁ」


 2人でうーんと頭を悩ませてしまう。

 ただ、いくら悩んだとしてもここで答えは出ないだろう。


「やっぱりここでは憶測以上のものは思い浮かばないな。当初の予定通り、銀世界にいたって言われている転生者の痕跡を調べてみよう。その人が何かヒントを持ってるかもしれない」


「まあ実際一番必要なのはカナタが帰るための情報だしね」


「それはそうなんだけど……」


 ここで少しカナタが顔を曇らせる。


「どうしたの?」


「もし今回魔物を呼び出したのが転生者だったと仮定して……。ごめん、なんて表現すればいいんだろう。とにかく凄くモヤモヤするんだよな」


「まぁ、モヤモヤはするわよね」


 カナタの言葉を肯定しつつ、ちょっとだけモヤモヤの意味合いが違うことをイエナは自覚しないようにしていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] なんか、マッチポンプな香りがする 転生者の(;'∀')
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