95.討伐完了の知らせ
牛の大型魔物『ストラグルブル』が討伐された、と聞いたのはそれから7日後のことだった。
「え? ホントですか!? よかった~!!」
イエナはその報告を宿泊先で受けた。部屋に籠もって製作に勤しんでいたのだ。
流通や情報収集など難しいことはアデム商会に全て放り投げ、製作に没頭できる環境は正直に言えば結構楽しかった。
何せ思う存分製作ができるのである。
没頭しすぎていくつか会心作を作ってしまい、ルームに隠したことは秘密だ。
「冒険者ギルドから正式発表されるまではまだ時間がかかりそうですが、複数の情報筋から同じ連絡が入っているためほぼ確実です。つきましては会頭が今回の件の詳細なご報告をいたしたいと申しております。1時間後お迎えにあがりますので弊店までお越し頂いてもよろしいでしょうか?」
「わかりました! あ、カナタにも連絡とらないとなんですけれど……」
勢いよく返事をしたのはいいけれど、イエナはカナタの居場所を知らなかった。基本的には冒険者への炊き出し部隊にいるらしいのだが、たまにフラッと帰ってきては
「やっぱり『ストラグルブル』で間違いなかったよ。鑑定魔法とかができる人がいるのかな? 名前がそれで定着してる」
「一度戦闘に参加した前衛職の装備が特にやばいみたいだ。修繕するにしてもかなりボロボロだから、イエナが新しいもの作った方がいいかもしれない」
などと情報を教えてはまた出て行った。助かる情報なのは間違いないため有難いのだけれど、誰にも見咎められていないらしいのが不思議だ。なんというか神出鬼没の自由人という感じだろうか。
ともかく、そんな交流しかしていないのでイエナはカナタの現在地を知らないのだ。
「はい。同様に伝言がされていると思います。恐らくカナタ様は一度こちらに戻られるかと」
「あ、そっちも連絡してくださったんですね。ありがとうございます」
アデム商会の方は、そんな神出鬼没なカナタの動向を知っていたらしい。もしくは、カナタがきちんと事前に連絡をしてからフラフラしていたのか。
(カナタはその辺キッチリしてそうだから、結構マメに連絡してたのかな。それともアデム商会の方であらかじめ人を付けていたのかも)
そんな想像をしつつ、連絡係のアデム商会の人を見送る。
まずはカナタが帰ってくる前に身支度を整えなければならない。
「人間慣れちゃう生き物だよねぇ。高級なお宿で最初はビビってたのに、今は普通にお風呂入っちゃうか~って思えるんだもん」
最初は何をするにもその辺りの物を壊さないかビクビクしていた。だが今ではさりげなく飾っている品の良い調度品なんかもじっくり観察して「真似できる技術は真似しないと」の精神に至っている。
調度品でそれなのだから、家具や内装はここを出たら真似する気満々だ。
「ホントはじっくり入りたい気もするんだけど、時間もないしね。カナタとかちあわないようにパパッと終わらせちゃお」
急いでシャワーを浴び終えたところで、ちょうど良くカナタが戻ってきた。
「カナタお疲れ~。終わったんだって?」
「あぁ。なんか物凄い強い冒険者が現れて、そこからは一気だったらしい」
「カナタも現場は見てないのね」
「1回だけ偵察には行ったけど、あとは当然後方支援だよ。材料が一番簡単なジュース作って、広く冒険者たちに配ってもらってた。他にも細かい手伝いをチョコチョコしてたけど」
カナタの言うジュースは以前作って貰ったことがあるフルーツミックスジュースだ。僅かだが攻撃力を上げる効果がある。たかが数%でも、何人もの冒険者が参加する討伐であればそれなりの効果を発揮したはずだ。
「美味しい上にそんな隠し効果があるんだもの、喜ばれたんじゃない?」
「多少はそうかも。でも、隠し効果はみんな知らないからさ。それに、一番喜ばれたのは高品質な装備と潤沢なポーションなのは間違いないよ。アデム商会は今回のでかなり株を上げたんじゃないかな」
「そうなんだ? 頑張った甲斐あったわ」
喜んでもらえたという声を聞けると素直に嬉しい。役に立てて本当に良かった。とはいうものの、ポーションはあまり役に立たない方が嬉しいのだが。
何せ、ポーションは怪我をした人がいなければ役に立たないシロモノなのだから。
「ポーションが喜ばれたってことは、その、いっぱい怪我人でたってことだよね?」
「……ポーションが届いてからは、酷い怪我人はいないらしい」
カナタは一瞬の間を置いてから言葉を続けた。恐らく言葉を選んでくれたのだろう。
(届いてからは……ってことは、私たちが来る前、最初にストラグルブルに出遭った人は……)
想像することしかできないが、普段戦っている魔物よりも数倍大きく強力な魔物との戦い。恐らく死者もいたのだろうと思い至り、気分が落ち込んでしまう。
そんなイエナに気付いたのか、カナタが少し明るめの声で話を続けてきた。
「かなり出来のいいポーションが出回ったから皆ピンピンしてたってさ。何より大規模討伐対象になる魔物は特別に参加者全員にドロップ品が手に入る仕組みになってるんだ。だから、多少の怪我ならプラス収支になったんじゃないか?」
「え!? そんな仕組みなんだ!?」
初めて聞く話に物凄く驚いてしまう。
そのドロップ品とは、どんなものなのだろう。素材だろうか、それとも食材? 想像がどんどん膨らんでいく。
「ただ、どこまでが参加者に数えられるかは謎なんだよな。ちなみに俺もちょっと貰ってる」
「なんで!? ていうかどういう仕組み!?」
カナタに掴みかからん勢いで聞けば、苦笑を交えて教えてくれた。
「えーと、まず大型魔物っていうのは大勢での討伐を前提としてるんだ。でもみんなで苦労して倒した挙句ドロップ品が1個だったら、今度はそれの奪い合いで戦いが始まっちゃうだろ?」
「それは確かにそうだけど……随分親切ね?」
「言われてみればそうだな。まぁそういう仕様で、あとは貢献度に応じて豪華なものだったり、あとは同じものでも量が多かったり……。これは討伐対象によってまちまちだな」
やっと討伐し終わったところで、ドロップ品をめぐる争いが起きたら洒落にならない。そう考えると、この仕様は凄く有難いとは思う。
だが、イエナが気になるのはそこだけではない。
「でもなんでカナタもドロップ品もらえてるの?」
「考えられるのはやっぱり料理を振舞ったから、かな?」
「えぇ~~~? ポーションじゃダメなの?」
自分だってかなり頑張ったはずなのに、これは理不尽ではないだろうか。
「俺やアデム商会の人はイエナの頑張りは知ってるよ。でも、システム的には『直接討伐に関わってない』って判定になったんだろうな。俺は戦ってる人間の能力を上げたって部分が評価されたんだと思う。それこそ、吟遊詩人が皆の攻撃力上げたのと同等、みたいな」
「ポーションは確かに戦いの後に使われたりもしたんだろうけど装備品だって立派な底上げじゃない~!」
「あとはあれかな。たまたま討伐されたとき、おつかいで最前線近くに行ってたせいもあるかもしれない。ストラグルブルをギリギリ目視できる範囲にはいたから」
「うー……それは私には無理かぁ。あ、じゃあ何がドロップ品だったの!? 見せて見せて!」
「俺が貰ったのはコレ」
そう言うとカナタはインベントリからドロップ品を取り出し、手渡してくれた。
「これは、革ね?」
既に鞣してある状態の革素材。手触りが良く、丈夫そうな質感なのが見ただけでもわかる。
「とりあえずそれじっくり見てていいから。俺急いで身支度してくるよ。話し込んでたら時間がやばい!」
「えっ!? あ、ごめん! 教えてくれてありがとね」
カナタは大慌てでバスルームへと駆け込んでいった。
残されたイエナはアデム商会からのお迎えが来るまで、うっとりとその新素材を眺めていたのだった。
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